第15話 疑惑

「それは確かに変ね」


UGN支部の会議室。

そこに居るのは、学生服のまんまの俺と水無月と、キッチリあのときみたいにスーツを着込んだ泉先生。

あと、会議机の上に、黒いトカゲ姿のブラックさん。

先生は、パイプ椅子に座って脚を組んで、俺たちの話を聞いていて。聞き終わると。

そこで泉先生は紙コップのコーヒーを一口飲み、言った。


あの後、被害者の男をUGNの息がかかった病院に水無月が担ぎ込んで。

至急調査に出向いている泉先生とブラックさんに連絡を入れ、来てもらって。


俺たちが見てきたことを報告した。


泉先生たちの結論も同じようだった。


「最初の被害者はめった刺しで損傷が激しく、その後の被害者たちは即死させられてて。ここにきて、アキレス腱」


ちなみに、あなたたちが駆け付けたときに、被害者はうめき声をあげていたのね?


そう問う先生に、俺たちは頷く。


「つまり、ワーディングが解けていた。何でなのかしらね?まぁ、私が予想するのは……」


そこで先生はコーヒーを飲み干した。


「ワーディングかけたまんまだと、被害者が苦しまないから人形を刻むのと同じで、面白くないから」


どう?同感でしょ?

そう先生は目で言ってくる。


俺たちは頷いた。


「アキレス腱を切ったのも、逃げられないようにしてじっくりじわじわ殺すつもりだったんでしょうね」


未遂に終わったけど、と言いつつ紙コップを握りつぶして、ゴミ箱に投げ入れながら、先生。


「さて、ここで問題。何で今回に限り、嬲り殺しにする気になったのか」


そこだ。

まぁ、真っ先に思いつくのは。


「……恨みがあったから」


水無月の答えには、俺も頷いた。

大林さんの事件の後の殺人は、ただ殺すのが目的だったけど、今回はそれだけじゃなく、恨みを晴らすという目的があった。

だから嬲り殺しを選択した。


そう考えるのが自然な気がする。


だったら、その恨みって?


……心当たりがあった。


「その男ですけど、直前にある男と決別することを宣言してたんですよ。先生」


正直、思い出したくない相手だし、冷静に言える自信が無かった。

その辺を汲んでくれたのか、後を水無月が続けてくれる。


「北條君が私に相談したいことがあるって言うから、一緒に夕ご飯を食べに行ったんです」


え?キミらいつの間にそういう関係に?

一緒に訓練して愛が芽生えたのかい?

若いっていいよな。


ブラックリザード!話の腰を折らないで!


ブラックさんの脱線と、泉先生の修正。


「……北條君に迷惑ですからそういう冗談はやめてください。ブラックリザード。……続けますよ」


ちょっと不機嫌になって水無月。

まぁ、真面目な話をしてるときに、こういう冗談はイラっと来るのはわかるけど。


……俺は別に迷惑じゃ無いんだけどな。


水無月は気を取り直すように、眼鏡の真ん中を指で押し上げて直しながら、続ける。


「そのときに、ものすごく不愉快な男がやってきて、私、ちょっと暴れちゃって」


……思い出すだけで、水無月が輝いて見えてくる出来事だったよ。

直前は最悪だったけどな。


「お店に居られなくなったから、北條君と一緒に逃げたんです」


ホラやっぱり何かが芽生えているのよ、だ。

若いっていいよな!


ブラックリザード!いい加減にしなさい!!


水無月の眉根がピクピク動いている。

だいぶイラついているらしい。


やめろって言っただろ。彼女の顔はそう言っていた。


「……で。一緒に公園まで逃げたら、そこまで追いかけてきた人が居たんですね」


それが被害者です。


そう言って一拍置いて


「彼、北條君にさっきの男の無礼に便乗したことを詫びに来てたんですね。反省しているから許して欲しいって。で、北條君は……」


悪いと思ってるなら一夫と手を切れ。そう言ったと水無月は先生たちに説明した。


そしたら……


「藤堂一夫。ブラックリザード、調べてる?」


「この街に来る前に、この街で問題を起こしてる人物については一通り調べたよ」


ブラックさんは全く間を置かず、藤堂一夫のプロフィールを諳んじる。


藤堂一夫。22才。

彼岸島重工創業者、彼岸島光成の娘孫の藤堂一美の長男として生まれる。

藤堂一美は彼を溺愛しており、そのせいか彼は小学校6年生頃から問題行動を起こすようになり、中学3年生のとき、クラスメイトを殺害する。

数年間の少年院生活の後、社会に復帰したが、過去の殺人経歴を「家の力で罪状を軽減した」と吠え、信じた連中は彼を恐れているもよう。

彼岸島光成は毎月一美に多額の仕送りをしており、その影響で金回りはいい。金をつかって人を集め、虚栄心を満足させている。


……あまり気持ちのいい情報では無かったけど。

仕方ない。


視線を感じたので、見ると、水無月が気遣うように見てくれていた。


……ありがとう。


「まぁ、こうなってくるとかなり怪しい人物ではあるよね」


ブラックさんは淡々と言った。

どうする?

言外にそう言っている。


「……接触してみましょう。もし、彼がシャドウストーカーなら、そのまま戦闘になると思うわ。気を抜かないで」


パイプ椅子から立ち上がり、泉先生は肩を回してから気合を入れるように、拳を胸の前で手のひらに打ち合わせた。

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