第10話 疑問
この田舎町で起きている連続殺人事件。
この一週間ほどは、何も起きてはいない。
事件の捜査は先生たちにお任せしている。
俺はそういうスキルを持ち合わせていないから、邪魔にしかならない。
その間、俺は、俺たちは何をしているかというと……
支部にある、訓練室という部屋。
ちょっとした体育館程度の広さがあり、床や壁は、見るからに頑丈そうな素材で出来ている。
ここなら、何をやっても部屋のダメージは考慮しなくて良さそうだ。
そこで。
「北條君、まだへばるには早いよ」
体操着姿の俺の目の前で、同じく体操着姿の水無月がバロールの能力……エフェクトと呼ぶらしい……を使用していた。
透明の水晶球のようなものを出現させ、それに触れることで重力を制御する。
それがバロールのエフェクトの使用方法で、その水晶球のようなものを「魔眼」と呼ぶとか。
シンドロームの名称の由来も、そこから来ているらしい。
水無月のエフェクトが発動し、歪んだ空間が迫ってくる。
あれに捉えられると、高重力で圧し潰されるのだ。
だから俺は走りながら、レネゲイドを操り、サラマンダーのエフェクトを発動させるのだが
「ホラホラ、レネゲイドコントロールが甘いよ!」
「標的は動いてるんだよ!?着弾時の相手の未来位置を予測して撃たなきゃダメだってば!」
集中できないから上手くいかない。
火炎の球を打ち出すのだが、見当違いのところへ飛んでいく。
畜生。
水無月は、自分のエフェクトによる攻撃を避けながら、一撃入れろと言ってきた。
まずエフェクトを安定的に使用できる訓練を受けて……これも丸一日かかったが……次の日はいきなりこの実戦形式。
水無月曰く「私たちは頑丈に出来てるから、こっちの方が手っ取り早いの」とのこと。
常人なら深刻な怪我でも、私たちは短時間で完全治癒してしまうから、らしい。
しかし、上手くいかず。
ブレブレの攻撃を出しまくって。
最後は結局水無月のエフェクト攻撃に捕まって、圧し潰されて終わる。
それを繰り返していた。
「……うーん……北條君、レネゲイドコントロールによる遠距離攻撃はスタイルじゃないのかもね」
訓練室の床で圧し潰されて倒れている俺に向かって、水無月はそう困ったように言う。
言い返せない。情けなかった。
自分がサラマンダーのシンドロームで、そのピュアブリードだと分かったときは、水無月は「北條君の能力は強いよ!」って興奮気味に褒めてくれたけど。
それでこのざまかよ。
幻滅されたかと思うと、やっぱ結構辛い。
「……いや、まだまだ!悪いがまだ付き合ってくれ……」
弱音を吐くのはもっとみっともないので、俺は立ち上がろうとするが。
「別に拘らなくてもいいと思うよ」
それを制するように、俺の目の前で、水無月は魔眼を左右の手で圧し潰すように畳み。
それを絞るように握って、次の瞬間、魔眼を槍のような形状の変化させた。
「白兵って方法があるからね。北條君の場合は、炎で出来た剣とか、もくしは炎の拳とか……」
ひゅんひゅん、とその魔眼で出来た槍を振るってみせながら。
彼女はニッと笑って見せて来た。
水無月のアドバイスに従って、やり方を変えてみた。
剣道やら薙刀やらはやったことがないので、自分の感覚が一番使える形で。
言われた通り、炎の拳。
「うん!さっきより全然いいよ!」
激しい動きで三つ編みを躍らせながら、魔眼槍を振るう水無月がそう言ってくれる。
彼女の繰り出す槍の突き、払いをかいくぐりながら、拳を打ち込むチャンスを窺う。
水無月の動きは、鋭い。
それに、こうして白兵戦で向き合ってみて、どれだけ彼女がちゃんとしてきているのかが伝わってきていた。
よく鍛えているのが、見て分かる。
姿勢だとか、脚だとか、腰つきだとか……
でも、彼女の言ったことから察するに、水無月は左遷されてこの田舎にいるらしい。
それで、これか?
一体、水無月は何をやらかしたんだ……?
などと考えていると、魔眼槍の穂先が、頬をかすめた。
まずい。集中しないと……!
そして。
「……!」
俺は、水無月の腹部に、拳を打ち込む寸前でストップさせた。
とうとう、やったのだ。
「……お見事。殴らないんだね」
魔眼槍を解除し、魔眼自体を消して水無月。
「さすがにそれは勘弁してくれ」
ここまで来るのにすっかり汗だくだった。
水無月も汗をかいているが、俺ほどじゃあ、ない。
身体を投げ出して一息ついていると。
水無月が「ちょっと休憩ね」と言いつつ、タオルを2つ持ってきて、片方を俺に投げ、自分は俺の前に座った。
三角座りだ。
ふと、さっき抱いた前から思ってた疑問について、訊ねてみたくなった。
答えてくれるだろうか?
言いたくないって言われるかもしれないが……
しかし、やはり聞いておくべきでは?という思いが強くなり、結局
「……なぁ、ちょっと聞いていい?」
水無月が気づいて、視線を向けてくる。
少し決断が要ったが、俺は続けた。
「水無月って、そんだけ優秀なのに、なんでこんな田舎町に配属されてんの?」
どうしても知っておかないといけない気がしたから。
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