第227話:検証大事
「次、フライいくぞー!」
「ふらい?」
『飛ぶのか?』
『え!? ルーク飛べるの!?』
そのフライじゃねーよ。
取り出した付与石を軽く浮かせ、それから剣を下から上に振り上げた。
石に衝撃が伝わった瞬間に魔法が発動。
だが石は上に飛んでいくので、こっちにダメージが来ることは無い。
「おぉー、これなら対上空モンスター戦でも使えるな!」
『……しかしなルーク。あれ……落ちてきとるぞ』
そう言ってボスがささっと後退した。
まぁフライだし、落ちてくるのは当然──あ。
見上げたところで石が落下してきて、あわや直撃するところだった!?
直撃は免れたけど、石から放出されていた冷気でズボンが凍ってしまっている……や、やべぇ。
「ウーク!?」
「はは、大丈夫大丈夫。いやぁ、アイス・フィールドじゃなく、アイスボルトでよかったよ」
『アイス・フィールドだったら今頃、ルークの氷の像が出来ていたな。ンベヘヘヘ』
「笑うな! 自分ひとりだけさっさと逃げやがって」
『息子は守った』
と自慢げに鼻を鳴らす。
俺も守ってくれよ……。
千本ノック改め付与石ノックは、意外と取り扱いが難しい。
衝撃を与えることで魔法が発動するので、剣を軽く振った場合は付与している石によってはこっちにもダメージが来てしまう。
ロイスの範囲魔法系がそうだ。
最初に打ったのがこれだったが、あん時は全力フルスイングだったからよかったが、ゴロ感覚で軽く打ったら酷い目にあった。
ポーション二本消えちまったよ。とほほ。
「ゴロとフライはダメかぁ」
『よく分からんが、転がりながら石を打っても飛ばせんだろ』
「ゴロ違いなんだけど、まぁそうだな。近くだとモノによっては俺の方までダメージがくるし」
対空で使う場合も、真上じゃなくって遠くの空目かけて打たなきゃな。
「けど手で投げるよりは確実に遠くに飛ばせるし、コントロールを極めれば強いよな!」
『どうやって極めるんだ』
「そりゃ──文字通り千本ノックだぜ! の前に、石拾いっと」
練習で何個か使ったし、補充しとかなきゃな。
石はその辺にゴロゴロしている。ゴン蔵が木を引っこ抜いた時に、地面から出てきた奴だ。
石っていうか岩って感じだけど、その辺はボスの頭突きで砕いて貰う。握り拳ほどになれば、俺の腕力でもなんとか砕けるしな。
「それにしても、剣で石を打つにしては随分スピードが出るよなぁ」
フルスイングした時に限りだけど。
『その剣はトロンスタ王から貰った魔法剣であろう』
「お、ゴン蔵。魔法剣だからなんだっていうんだよ」
肩をコキコキと鳴らす仕草と共に、風を舞い上がらせることなくゴン蔵が飛んで来た。
『強力な魔法剣の中には、魔法を切り裂いたり弾き飛ばしたり出来るものがある。魔法を弾く際、持ち主にその魔法攻撃が当たらぬよう、高速で飛ばす力が備わっておるのだ』
「へぇ。じゃあこの剣も?」
『うむ。言っておくがなルークよ。その剣に込められた魔力は、その辺の魔法剣とは比べ物にならんのだぞ』
「うっ……マジですか」
『マジじゃ』
あ、改めて王様には感謝しないとな。
ゴン蔵曰く、普通の剣ならロイスの魔法が付与された石を打っていたら、二、三発で折れるだろうと。
更にこの魔法剣は、魔法を弾き飛ばす──つまり付与石を打つ瞬間、持ち主に対して魔法障壁を張っているそうな。
ただ──
『本来の使い方であれば、持ち主の前方に障壁があればその役目を果たせる。お主のような間違った使い方をする事なんざ前提にしておらんだろう。だから上空から落下してくる付与石には、対応できんのじゃよ』
「そっかぁ……やっぱ真上のフライはダメだな。あれ? じゃあゴロは?」
『ゴロ? 転がるのか?』
ゴロゴロじゃなくってゴロだっての。
振りそこないのゴロスイングを実際に見せ、ゴン蔵を見上げた。
「こんな感じ」
『遅いからじゃろ』
「遅い?」
『剣を振る速度じゃ。だから魔法を弾こうとしていると認識されず、障壁が発動せんのだ』
人工知能搭載型の剣か……。面倒くさいなぁ。
まぁぼてぼての内野ゴロ程度の距離なら、普通に投げればいい。
付与石ノックは遠くの敵に対して使うんだと割り切って練習しよう。
「ってことで、岩砕きよろしくボス!」
『だが断る』
「なんでだよぉ」
ボスはぷいっとそっぽを向き、その瞬間に俺のお尻に衝撃が走った。
「ほああああぁぁぁいっ!?」
『早く人参ハウス作ってよルーク!!』
「ボ、ボリス、ダメだぉ~。ウークのお尻に穴あうちゃうぉ」
穴はもうあるけど、二個目はいりませんからぁ!
『プランター人参も底を尽きかけている』
『餓死しちゃうよぉ!』
「人参以外も食えるだろっ」
『新天地で新種の人参開発計画を推進する!』
どこでそんな難しそうな言葉覚えてくるんだよ!
だいたい小屋だってまだ完成していないってのに……。
「あぁもうっ。まずは小屋からだ! ノック練習は夜にこっそりひとりでするからいいよ。ふんっ」
『ベヘヘヘェ~』
『ンペペェ~』
にんまりと笑う二頭の角シープー。
あぁ、あどけないボリスが、段々とクソ親父ボスに似てきたな……。
『ンペペェ~』
ずぼっと俺の脇に顔を突っ込んで来たのは、キャロの息子のキャスバルだ。
「キャスバル……お前はあんな兄ちゃんになるんじゃないぞ」
『ンペ?』
「あんなな、いやらしい顔で笑うおっさんみたいになるんじゃないってこと」
『ンッペェ~』
理解したのかしていないのか、キャスバルはぴょんぴょんと跳ねて踊っていた。
願わくば、このまま大きく成長しないでくれるといいんだけどなぁ……そうもいかないよなぁ。
「シアぁ~……小屋造りしよう」
「おぉ~! シア頑張ってウークが早く必殺技の練習できうようにするね!」
「シア……いい子だなぁ」
いい子いい子と頭を撫でてやると、シアは嬉しそうに微笑んだ。
この顔は小さいシアの時と全然変わらないな。
よし、シアの為にも──彼女の家族を早く呼べるよう、まずは家造りを早く終わらせなきゃな!
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