第228話:お約束

 角シープーの小屋が完成したのは、上陸して半月ほど経ってからだ。

 作業効率が劇的に上がったのは、モズラカイコたちのおかげ。


「よぉし、全員集合!」

『ずもぉ~』『ももぉ』


 ぱたぱたと飛んで来たモズラカイコたちが、俺の頭上でホバリングして待機。

 俺は枝を手にして地面に絵を描いた。


「次はガラスハウス作りだ。まずは柱を立てるから、糸での固定を頼むよ」

『ズモォ~』


 モズラカイコたちが吐き出す糸は、モズラカイコ自身で成分を変えられる。

 絹糸として利用できる、きめ細かな繊維と、伸縮性のあるゴムのような糸と、そして粘着度の高い糸とが作り出せた。

 粘着性のある糸は時間が経つと硬質化する。

 これを使用すれば瞬間ではない接着剤になるっていうね!!


「しかもモズラカイコたちは手先が器用で、木材を掴んで運んでって出来るから大助かりだぜ」

『ズモォ~』


 俺が錬成した木材を六本足で掴み、既にゴン蔵が力任せに地面に埋めた柱と合わせて糸で固定。

 あっという間に骨組みが完成した。


「シア、昼からは海岸でガラスの素材集めだ」

「おぉー! 海潜うぅ?」

「まぁ海岸にどのくらい貝が落ちてるか次第だなぁ」


 前回は町はずれに大量の貝を見つけたけど、あれは元々町で使うために集められた貝だったのだろう。

 この大陸だと、以前誰かが~ってものが期待できない。

 ぜーんぶ自力で集めなきゃならないだろうなぁ。






「え? 食べた貝の殻は、一カ所に纏めてる?」

『はい。私はそのままガリガリ食べてしまいますが、クラ助とケン助にはまだ吐き出させていますから』


 クラーケンファミリーに貝拾いの協力をお願いすると、そう言ってク美がたくさんの貝殻を持って来てくれた。


『食事はなるべく同じところで摂っているんです。あちこちゴミを捨てては迷惑になりますので』

「助かるよク美!」

『ふふ。でも足りますか?』

「これだけだと足りないが、浜にも結構打ち上げられているからそれを合わせれば十分だと思う」

『それは良かったです。足りなくなったら仰ってくださいね。食べますから』


 それでバリバリ貝を食べていたら、この辺一帯の海から貝が絶滅してしまいそうだ。


「よし、じゃあシア。浜辺の砂をかき集めて、錬金BOXに入れるのを手伝ってくれ」

「あぃおー!」


 砂も材料だからな。まとめて入れて、箱の中で分離錬成する。

 海藻の干からびたのとか、魚の骨とか、石とか、いろんな不純物もあるからそれは捨てる。


 錬成しておいたいくつかの木箱に貝と砂を分けて入れ、その箱全部が一杯になったら──


「おーい、ゴン蔵ぉ」


 空に向かって大声で呼ぶと、船のほうからバサバサとゴン蔵が飛んで来た。


「悪い、これあっちに運ぶの手伝ってくれないか」

『砂か? 砂なんぞどうする』

「それでガラスを錬成するんだよ。なるべく零さないでくれよな」

『あぁ、砂と貝と、あとなんじゃった……ふぇ……ふぇ』


 え、おいやめろ!

 そんなお約束なこと止めてくれ!!


『ぶえっくしょぉぉぉぉぉーっい!』

「ぎゃああああぁぁぁ」

「ふえええぇぇぇぇぇ」


 ゴン蔵のくしゃみブレスによって、俺とシアの苦労が泡となって消えた……。


『すまんの……』


 そう言ってゴン蔵は、砂を手で掬って俺に差し出した。

 また錬成のしなおしかぁ。


 錬金BOXを取り出して、箱を最大サイズにしてゴン蔵に向けると、その中に砂を入れてくれる。

 不純物を捨て、必要なものだけ木箱に移し返して──ん?


 ゴン蔵の股越しに、何か光るものが見える。

 ずっと向こうの森の中だけど……なんだろう?


『ふふん。わしが手伝ってやれば、ガラスの材料なんざ掌いっぱいで終わるわい』

「は? 何言ってんだよ。お前がお約束過ぎるくしゃみしなかったら、今頃あっちに戻ってたのにさ」

『む……さ、さぁ帰るぞ!』


 逃げやがって。


 向こうの森から見えた光が、なんとなく気になってはいるが……。

 まぁ……いいか。


 ガラスハウス建設地に戻って、ガラスの材料、木材を錬金BOXに入れて窓を錬成。

 その窓をモズラカイコたちが持って行って、糸を吐きながら骨組みに固定していく。


 あっという間にガラスハウスが完成し、そして──


「入口……言うの忘れてた」

『ンッベェー!?』

「どうすうのウークぅ。もうカッチカッチだぉ」

『ンッペェーッ!!』


 ガシャーンっと音がする。

 誰かがガラスを突き破って中に入ったようだ。


 あ、ボリスじゃないや。ってことは──


「キャスバルウウゥゥゥゥ」

『ンッペェー』


 ガラスハウスの中で、勝ち誇ったかのように大地に立つキャスバル。

 だめだ。

 トンビの子はトンビです!!


 散らばったガラス片を集め、それから出入口となるガラス戸を錬成。

 これをモズラカイコたちが固定しようとするが、そこは待ったをかける。

 固定したらまた誰かがガシャーンってやっちまうからな。


 丁番を錬成して釘打ちしてお終いっと。


「さぁ、ほんとの本当にこれで完成だぞ!」

『ンペェー』

『人参植えよう、今すぐ植えようよルークぅ』

「明日な」

『『えぇーっ!』』『ペェー!』


 いやもう暗くなるしさぁ。

 いいじゃん、一日でガラスハウス出来たんだし。


「モズラカイコたち、ありがとうな。もう休んで大丈夫だぞ。明日はお前たち用にドドリアンハウス作ろうな」

『モッモ。モズズゥ~』


 嬉しそうに空を舞いながら、きらきらと光る鱗粉を散らす。

 旋回するようにぐるりと何周かして、それから彼らは海岸とこことの間に出来た、モズラカイコ専用の小さな森へと向かった。


 向かったが、俺たちが夕食を終える頃に戻ってきた。


「どうしたんだよ、寝ないのか?」

『ズゥモォ』

「あのね、なんだかね、嫌な感じすうって」

「嫌な感じ? モンスターが近くにいるとか?」


 でもあの森は、ゴン蔵がモズラカイコのために周りの木を引っこ抜いて、ぽつんと森にしてくれた所だろ?

 日中は角シープーやゴン蔵、海岸近くだとク美も手伝って、モンスターを寄せ付けないようにぶっ倒しまくってくれていたはず。


 近づけば命はないぞ──


 と理解させるために。


 モズラカイコたちにもよく分からないらしく、とにかく嫌なんだとか。

 今日のところは船倉に逆戻りだな。


 明日がドドリアンハウスをいったん保留にして、周辺の探索をしよう。


**********************************************************


書籍版発売から1週間過ぎました!

すぎ・・・すぎまし・・・(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る