第226話:必殺技
「金貨十二枚だ。いやぁ、いい毛だねぇ。また伸びた時はよろしく頼むよ」
「えぇ、是非」
ふっふっふ。羊毛はなかなかの高値で売れた。
俺の髪は守られたってことだ。
しかし久しぶりに自分で稼いだお金を手にすると、ちょっと嬉しくなるな。
まぁ……角シープーたちの毛をチョキチョキ刈っただけなんだが。
そ、それでも自分で働いて得たお金だ!
う、嬉しいもん!!
……あぁ、やっぱ自分で冒険して、自分の力で報酬をゲットしたいよなぁ。
残念ながら西には冒険者ギルドもまだないけど。
もちろん将来的にはギルドも作るもんね!!
「さて、じゃあ買い物して帰るか」
「おぉー!」
『『おぉー』』
『『おぉーでしゅ』』
もこもこのボリスの背からひょこっと顔を出すチビたち。
うぉい! 出てくるなよっ。
通行人が二度見してんじゃんっ。
チビたちをもふもふに押し込めてダッシュ。
「出てくんなって」
『ごめんでちゅ~』
「声も出すなって」
『ごめんなさぁい』
だから声だすなって……。
買って帰るのは煉瓦だ。あとセメントの材料になる奴。まぁセメントでもいいんだけどさ。
あとそれを塗る道具だ。
なんでも錬成できる!
でもな、手軽に手に入るものなら錬成しないで現物買った方がちゃんとしてるんだよ!
やっぱイメージが大切だからさぁ、それが失敗しているとちょっと変な物になるんだよな。
だから買えるもんは買って帰る。
あと大事な物を忘れてはいけない。
当面の食料だ。
プランター野菜があるけど、全部が全部賄えるわけじゃない。
小麦とかはプランターじゃ育てられないし、何より野菜より栽培に時間がかかる。
それは買わなきゃ無理なんだよなぁ。
で、そのあたりのものをごっそり買い込むと、十二枚あった金貨は、残り一枚になってしまった。
やっぱり……お金稼がなきゃな。
『はぁ~……なーんにも出来なかったでちゅねぇ』
『面白くなかったでしゅねぇ』
「遊びに行ったんじゃありません。買い物が目的だったんだぞ」
『『ぶー』』
ぶーとか言いながらイカ墨吐くんじゃねーよ。
あ、ボリスの毛が黒くなったじゃん!
「ちゃんとお土産買ってやっただろう」
『もっと町を見てみたかっらもん』
「そんなことしたらお前ら、絶対ボリスの中から出て行って走り回ってただろ」
『そんなことしないよ! ボクたちいい子だもんね』
『『ねー』』
嘘つけ。
港町を出るまでの間に、何かいボリスの毛から顔を出したと思っているんだ。
そのたびに通行人が二度見してたんだぞ。
「シアももっとゆっくり見て回りたかったなぁ」
「次来るときはシアと二人だけにするかぁ」
「え!? シ、シアとウーク二人っきり!?」
「え? いや、まぁ……そ、そそ、そうなる?」
チ、チビたち抜きでシアと……二人だけ!
『ずるーいっ』
『ずるいでしゅ』
『そんなのいけないでちゅね』
『僕はいいじゃーん』
……次来るときはチビたちがお昼寝している時にしよう。
いつお昼寝するのか知らないけど。
西側に戻ってくると、整地面積が広くなっていた。
「ただいま。ゴン蔵、もっと広げるのか?」
『む、お帰り。いやなにな、モズラカイコどもが巣を作りたいと言っていたからな。海岸からここまでの森を残し、周辺を禿げ散らかせば弱っちい奴らはどこかに行くだろうと思ってな』
弱っちぃ連中ねぇ……。
モズラカイコは
けどゴン蔵やボスがいるし、禿げ散らかされたこの辺だけはモンスターが寄り付かなくなってきている。
一部の森を囲むように禿げ散らかせば、残した森にモズラカイコが住めるだろうと……そういうことのようだ。
「モンスターを寄せ付けないためにも、俺もちょっと本気出して狩りをするかな」
『ほぉ、本気ねぇ』
「シアもやるぉ~! シアねぇ、新必殺技ねぇ、編み出したのぉ」
し、新必殺技!
なにそれカッコよさそう!!
俺も欲しい。必殺技!!
うぅん、必殺技かぁ。
俺ができるのは付与石を投げることぐらいだしなぁ。
あ、剣術もできるんでした、てへっ。
付与石と剣術……どうにか組み合わせられないものだろうか?
うぅん、うぅん……そうだ!
「へへ、ちょっと試してみるか」
『え? ルークなにするの?』
「必殺技を試すのさ」
『えぇ、なんかカッコよさそう!』
ふふ、カッコいいのさ!
寝室に置きっぱなしにしている剣を持ち出し、ウエストポーチから適当な付与石をひとつ取り出す。
剣を鞘から引き抜き、そして──
「付与石千本ノック!!」
ぽんっと浮かせた付与石を、剣で打つ!!
石が剣に当たった瞬間に放電し、バリバリと音を立てながら雷球となって遠くまで飛んで行った。
うん。あれはロイスのトールハンマーだな。
遠くの森に着弾したのか、青白い稲光が森の一部を包んで爆発した。
「いいんじゃね?」
『……なんか使い方間違っておらんかのぉ。特に剣とか』
「ウーク凄い! カッコいい!!」
だろ?
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