第193話:黒装束

 モリスンはギルドで保護され、俺とシアは何食わぬ顔で時々ダンジョンをうろうろ。

 地下を目指していますよ~とアピールした。


 二日待って、ラッツたちが転移石で戻って来るとまずは事情説明だ。


「俺たちのときには、転移屋なんていませんでしたけどね」

「ボリスが目印になってるから、見ればすぐに分かっちゃうもんねぇ」

『えぇ、なんで?』

「ボリスちゃんが可愛いからぁ~」


 ボリスをもふっているお姉さんたちを横目に、おれはギルドマスターから提案された内容を話した。


 ギルドマスターとしては「人んちの島でデカい顔しやがってくそがっ」ってことらしい。

 それに、モリスンが自由に動けないせいで、今下層にいる冒険者が戻って来れない状況なのだ。

 そうなってもう一週間ぐらい経っている。

 

 下層には食用になるモンスターもいるにはいるが、リポップしない今の状況で何日もつかわからない。

 要は早急に救助しなきゃならない──のだけど。


「地上に残っている銀級以上の冒険者が数人しかいなくてさ」

「それで俺らの帰りを待っていたのか」

「そういうこと。今夜はゆっくり休んで貰って、明日は奴らが待ち構える二十階に突入する」


 モリスンがダンジョンからいなくなったことは、奴らももう知っているだろう。

 警戒されているはずだし、元々モリスンが位置を記憶している場所で俺を待ち構えているはずだ。

 こっちもそのつもりで突撃あるのみ!






「はぁぁ。さすが貴族様だなぁ」

「え、えぇ。ははは」


 貴族だから、携帯用転移石をたくさん持っている。

 なーんて適当な嘘ぶっこいて、ギルドマスターと彼が呼び集めた冒険者に帰還用の転移石を渡した。

 位置情報の上書きは出来ず、一回使い捨てと説明し、記憶させたのは冒険者ギルドの会議室だ。

 

 全員が戦闘準備を整えた状態で、モリスンが転移の呪文を唱える。


「時間制限付きだ。といっても一分は開いているけどな」

「よぉし、じゃあ俺様が──」


 と、巨大ハルバードを抱えたギルドマスターが一歩前に出る。

 が、その前に──


「ボリス。羊毛をカチカチに出来るか?」

『出来るよぉ。任せてぇ~』


 大地の幻獣角シープーに進化したことで、ボリスの羊毛は鋼のような鉄壁の防御力を誇れる。

 不思議なことに、鋼のように硬くなるわけじゃない。

 いつもより少しふかふか度が下がるだけで、羊毛は羊毛のままだ。

 なのにハサミでは通らないし、剣でも切ることが出来なくなるという。


 この状態だと、物理はもちろん、魔法攻撃の耐性も高くなる。

 ただカチカチ中は魔力を消費し続けるそうだ。


「よし。ボリスはギルドマスターと一緒に飛び込め。で、襲ってくる奴がいたら反撃していいからな」

『うん、分かった!』

「お、おい。角シープーを真っ先に送るのか? 角シープーってのは……」


 ギルドマスターはボリスを心配して言うが、途中で頸を傾げた。


「いや、普通の角シープーは訳ねぇか。人語を話してんだし」

「進化して大地の幻獣とかになったんですよ。まぁ桁外れの強さなんで、心配しなくてもいいですよ」

『僕強いから平気だよー』

「じゃあ、転移魔法陣だしやすぜ?」


 モリスンの言葉に頷き、ボリスの頭をぽんっと叩く。


 そして会議室の床に、白く発光した魔法陣が出現した。






 俺が突入したのは、ボリス、ギルマス、ラッツたちの後だ。

 本当はすぐに入りたかったけど、ホークに「あんたはご領主なんだからダメ」と怒られて、仕方なくそのあとに。


 で、転移してすぐ目にしたのは、地面に横たわる黒装束の一団と、ボリスに追いかけられている黒装束。


「今どきの貴族の坊ちゃんってのは、あんな強力なモンスターをペットにしてんのか」


 呆然としているギルドマスターが、俺を見てそう呟いた。


「いやぁ……ペットじゃなくって、家族なんだけどね」


 あと島にはドラゴンとクラーケンがいるけど、それは内緒にしておこう。


「ルーク様。こいつら大陸の人間じゃないようです」

「大陸の人間じゃないって、どういうこと?」


 弓使いのマリーナがやってきて、黒装束を指差した。


「何人か、言葉に訛りがあるんですけど、それが大陸の東にあるグインゴーニャ国特有の訛りでして」

「グインゴーニャ?」


 グインゴーニャ国は大陸の東に浮かぶ島国だ。

 日本と違って複数の島からなる国──ではなく、どーんっと大きな島だ。

 大昔は大陸と陸続きだったという説もあるし、大陸の北東は島がぴったりはまりそうな地形になっている。


 国は別に不毛な地でもないし、自給自足が可能な国だ。


「グインゴーニャか。あの国は今、他国に侵攻しろうとしているって噂があるんだよなぁ」

「え? 本当ですかギルドマスター」


 物騒な話を始めたギルドマスターだったが、後続でやって来た冒険者にすぐ指示を出す。

 まずは町の衛兵を呼びに行かせ、残りのメンバーで黒装束に縄をかけて回る。

 ほとんど気絶しているが、何人かはラッツたちとやりあったようだ。


「暗殺系職業の奴と、戦士系はほとんどですね。魔術師はひとり、神官はなし」

「いやぁ、結構強かったですよ。たぶんご領主が転移してくるときには、仲間内で報告する手段でもあったんでしょう」

「完全に意表を突かれたって顔してましたから」


 しかも転移魔法陣から出てきたのは角シープーだ。

 出て来てその場でホーン・デストラクションをぶっ放されたんだ。

 そりゃあたまったもんじゃないよな。


「浮足立っていたんで、まぁなんとかなりましたけどね」


 なんとか──といいつつ、平気そうな顔でラッツが話す。

 金級が「結構強かった」ってことは、銀? それぐらいの実力か。

 

「あ、こっちの男──グインゴーニャ騎士団の勲章なんて付けてやがる。はぁーん、お国絡みか」


 ホークがそう言って、気絶している男を引きずって来た。

 黒装束の下にはフルプレートを着込んでいたようだけど、それも今は剥ぎ取られている。

 鎧の下に着ていた軽装には、いくつかの勲章がぶら下がっていた。


「ばっかだなぁ、こいつ。普通は異国で隠密系任務にあたる時とか、身分を証明するようなもんハズスだと」

「外国の常識をしらない田舎者なのよ」


 散々な言われようだな。

 けど……これで確定だよなぁ。


「コアを破壊しまくってるのは、グインゴーニャ国の奴らだって」


 王国騎士所属の奴が動いてんだ。

 命令してんのは王様か、重臣の誰かってことだよな。

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