第190話:ボリスは最後尾

 ラッツさんたちとは別行動をして、俺たちは彼らの後に町を出た。

 トケットに到着したのは町を出て五日目だが、ラッツさんたちがサウレンドを出て九日目になる。


 ギルドには行かず、まずは宿だ。

 予め決めてあった宿に向かった。そこにラッツさんたちも宿泊しているから。


 ちょっとお高い宿だけど、その分ここはいろいろと融通が利くそうな。


 で、名前を告げて部屋を申し込めば、先に到着しているラッツさんたちの部屋の隣に案内されるって仕組みだ。


「その羊も……?」

「あ、えぇっと……ひ、蹄をしっかり洗いますんで。あと追加料金も……」

「……まぁいいでしょう」


 いいんかい!?

 ただ追加料金は人間様の宿泊料金の二倍になった。

 くっ。次はボス狩りしよう。おこぼれに預かろう。


 通された部屋にはベッドが二つ。

 ただお高いだけあって部屋は広い。ボリスが寝転んでも十分な広さがある。


『ルークみてみてぇー! すっごいふかふかだよ!!』

「豪華なベットだねぇ~」


 そういってお二人様がベッドの上で飛び跳ねて──


「おい、ちょっ! 降りろお前たちっ。ベッドが壊れたらどうすんだ!!」

『えぇ~』

「えぇーじゃない!」


 ふかふかはお前のほうだってのっ。

 弾む毛玉を床に下したところで、ドアをノックする音が聞こえた。


「到着したようですね」


 聞こえてきたのはラッツの声だ。

 ドアを開けると他の三人の姿も。


 中に招き入れ、今後の話をする。


「まずご領主は転移石の位置情報を、この部屋にしてください。いくつかを俺たちに」

「直接部屋でいいのか? 入口通らずに部屋から人が出てきたら、宿の主人が……」

「気にしませんよ。ここのダンジョンは転移石持ちの冒険者が多いので、元々部屋直通っていう連中もいますから」


 ただし、連泊予約してないのに転移石を使って戻ってきたりすれば──


「十倍の金を要求されます」


 と、サラさんがにっこり笑う。

 まぁそりゃそうだよな。


 トケットのダンジョン内でも、俺たちは別行動をとる。


 もし奴らが既にこの町に到着しているとして、金級冒険者が一緒となれば下手に警戒されるだろう。

 できれば捕まえたい。

 なら油断して貰っていた方がいい。


 で、ラッツたちが先に出発し、俺たちは一時間ぐらい遅れて後を追う。

 彼らが先行して怪しい奴らがいないか確認するのだ。

 俺たちは毎夜ごと地上に戻って、翌朝、前日の位置から再スタートだ。ラッツたちは三日後に地上に戻って来るので、その時に俺たちが進んだ場所までの転移石を渡す。


 これを繰り返して最下層を目指すってことになる。


「奴らが既にダンジョンに入っていて、最下層で待ち構えている可能性は……普通なら低いです」

「え、そうなのか?」

「考えてもみてくださいよ。地下三十階ですよ。食糧を大量に仕入れて、いつ来るかも分からないルーク様を待つなんて効率が悪いでしょう」

「可能性があるとすると、浅い階層の階段付近なんですよ」


 最下層を目指す限り、階段は必ず通る場所だ。

 そこで待ち伏せしている可能性が一番だろうって。


 ただ奴らは普通じゃない。


「もし大掛かりな後ろ盾があった場合は、転移石を持ち歩いているかもしれないし、荷物持ちもいるかもしれない」

「その場合は最下層で待ち構えている可能性もあるわね。コアをどうやって直しているのか、それを確認するためにも」

「それに、ボスが呼び出されれば、その対処にいっぱいになってるルーク様なら仕留めやすいでしぅおう」


 仕留めやすいって、今度は殺しに来る気満々ってことか?


「一度逃げています。つまり奴らに与する気はないって意思表示だ。なら邪魔な存在は消すだけっしょ」

「うわぁぁ、ヤダなぁ」

「ま、とにかく俺らが先に入って、様子を伺いながら進みますんで」

「手間かけて悪いな」


 俺がそう言うと、ホークがまたにやぁっと笑う。

 この顔は知っているぞ。


 この顔はなぁー


 特別ボーナスを期待するときの顔だ。


「島に帰ったら、特別ボーナス期待してますぜ」

「ほらやっぱりだ! そうだと思ったんだよ、その顔はぁ」

「顔? 顔に出てましたかね?」


 きょとんとするホークの言葉に、一同全員が頷いた。






 翌日、ラッツたちが仕入れた地図を受け取り、まずは彼らが出発した。

 ダンジョンは町から目と鼻の先にあって、高く分厚い壁にその入口は囲まれていた。


 マリーナさんの提案で、俺たちは雑貨屋で大きな背負い袋を購入。

 この中に適当なものをぶち込んで、あたかも「ダンジョン籠りするよ!」とアピール。

 それをボリスに括りつけてダンジョンに入るが、中身はただの毛布だ。

 奴らがどこで見ているか分からないので、ただのアピールに過ぎない。


 ダンジョンに引き籠ると見せかけられれば、実は毎夜宿に戻って来ていることも悟られずに済む。

 もちろん、転移石を使う時は細心の注意が必要だけど。


 まぁずぅーっとストーカーされてるなんてこともないだろう。

 そんなことするぐらいなら、最初っから捕まえに、もしくは殺しに来るだろうし。


「さて、じゃあそろそろ俺たちも出発するか」

「おぉー!」

『ンペェーッ!』


 大きな荷物を背負ったボリスを先頭に、俺たちはダンジョンへと潜った。


「あ、やっぱボリス一番後ろで……」

『後ろなのぉー? 僕前が良かったなぁ』


 シュンと頭を項垂れ、とぼとぼと後ろに回るボリス。


 だってな……だって。


「ボリスと荷物大きくて、前が見えないんだぉ。ごめんね、ボリスぅ」


 シアが申し訳なさそうにその理由を説明した。





***************************************************

体高がもこもこ羊毛含めて160センチぐらい。

登山用リュックの二倍ぐらいある荷物を背負った羊が前を歩いている。


とお考え下さい。

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