第189話:転移石と金級参戦

「余計なこと……って言ったんですね?」

「あぁ、たぶんそうだと思う」

『僕しっかり聞いてたよ。あいつらルークに余計なことをしてくれるって言ってた』

「シアも聞いたぉ」

「じゃあ、そいつらがコアを破壊しまくってる奴だろうな」


 ホークがそう言うと、他のメンバーも頷いた。


 余計なことってのはずばり、コアを元通り再生したことだろう。

 そんなこと言うのは、コアを破壊した張本人たちぐらいだ。

 普通の冒険者はコアが復活して、モンスターがリポップするようになれば喜ぶはずだからな。


「ルーク様の存在をしったからには、次に向かうダンジョンでも待ち構えているでしょうな」

「そうよねぇ。死亡ダンジョンは残りひとつだし。そこに来るのはもう分かっちゃってるから」

「まぁそれならそれで、こっちも待ち伏せされているのを前提に動ける訳だし」


 こっちには鼻の利くシアとボリスがいる。

 聞けば二人とも、奴らの匂いは覚えたとのこと。


 なら、待ち伏せを利用して罠に嵌めることだってできるだろう。

 付与石いっぱい握って、バァーンって投げつけてやる。


 あ、付与石と言えば──


「ごめんっ。渡した転移石、使えなかっただろ?」


 だから徒歩で地上まで戻ったんじゃないかと尋ねたら、


「いや、使えましたよ」

「使えたと申しますか、転移装置としては使えました。けど、位置情報の上書きが出来ませんでした」


 と、サラさんが苦笑いを浮かべてそう言った。


 使えたことに驚きだが、使えたのに位置情報の上書きだけ出来ないってどういうことなんだろう?


「携帯用の簡易転移装置──転移石って呼んだりもしますが、これは魔術師が使う転移魔法と、神官が使う転送魔法の複合効果が付与されているんです」


 もちろんそれだけじゃなく、石そのものにも魔力を流し込んでマジックアイテムにした物だ。


「ルーク様の錬金でマジックアイテムとしての性質と、転移転送魔法の効果が付与されていると思うんです」

「ふむふむ」

「元々の転移石も、それを作れるのは魔術師と神官、二人が揃っていなければなりません」

「ふむ」

「ルーク様は魔術師と神官の役目なんです」


 転移石を作れるのは魔術師と神官だけど、それは誰でも使える。

 それと同じなんじゃないかってサラさんは話す。


 実際付与武器の時がそうだったじゃないかとホークも言った。


「属性エンチャントを付与した石を俺たちが使って、武器に属性を乗せようとしたが出来なかった。そりゃあエンチャント魔法そのものが、術者にしか使えない魔法だからだ」

「けど領主様に直接武器をお渡しして、属性を付与して貰ったら……」

「元々のエンチャント魔法の効果と同じで、一定時間は属性を付与できたままだったな」

「エンチャント魔法は物質に指定した属性を一定時間付与する魔法だ。付与された物は術者以外が手に持っても、属性は乗ったまま。つまり転移石も──」


 転移石そのものを作るという過程が俺だってだけで、完成した物は他人でも使える。


 じゃあ位置情報の上書きが出来なかったのは──


「たぶんご領主が位置情報を記憶させた石だから、上書きを受け付けてくれないんでしょうね」

「うえぇ……そうだったのか。確か渡した石って、最下層と町の位置を記憶させてたはず」

「そうそう。まぁだから十六階と十七階の探索だけは結構出来たぜ」


 地上に戻って食料を買い込んだら十五階まで転移石で飛び、食料が尽きたから今朝町に戻って来た──と。


 位置情報を記憶していないまっさらな転移石だったら、第三者でも自由に使えるのだろうか?

 ただ俺が持っている石は全部どこかが記憶されている。

 だって最初の元になった石からして、既に位置情報があったやつだし。


「それで、話を戻しますけどねご領主。次のダンジョンで必ず五人組が待ち構えているだろうから、俺らもご一緒しますぜ?」

「え、いいのか? せっかく拡張ダンジョンを楽しんでいるのに」

「何いってるんですか。残っているのはトケットのダンジョンでしょう?」


 そう。本当は四番目に行くはずだったダンジョンだけど、位置的にビシャースの方が早かったし、コアを破壊されて時間もそう立ってなかったから犯人を見つけられるかもと思って先に行ったんだ。

 そして読み通り、犯人がいたって訳だ。

 もっとも最下層にいたってことは、どうやらあちらさん側もコアを再生している奴を探していたようだけどな。


 最後に残ったトケットだが──


「ディトランダ最大の、地下三十階のダンジョンですぜ」






 地下三十階に潜るだけでも至難の業だ。

 何がどう至難かって言うと、主に食料面で。


「十五階より規模がでかくなると、だいたい荷物持ちを雇うんですよ」

「食料を運んで貰うのか?」

「そ。持って行くのは小麦や乾燥肉に乾燥野菜」

「え? 小麦?? もしかしてダンジョン内でパンを焼こうってのか!?」

「水と混ぜてこねただけのもんですよ。でも保存のこと考えると、パンを直接持って行くのは……」


 確かにな。

 モンスターのいないダンジョンですら、一階層を進むのに半日以上かかることだってある。

 モンスターがいれば歩く速度は段違いに遅くなるし、一日で次の階層にたどり着けるかも怪しいもんだ。

 十五階まで行くのに二十日ぐらいかかってもおかしくないよな。


「けどご領主がいれば、転移石で地上と地下を行ったり来たりして、食料の心配もせず三十階まで行けるでしょう」

「コアを破壊しまくってる奴らをとっ捕まえたら、あとはギルドなりディトランダ王国なりに任せればいいと思うんで。そしたらさご領主」


 ホークはにんまりと笑う。

 ラッツに比べてホークは筋骨隆々のマッチョタイプなので、こうして笑うと逆にすごみが出てしまう。


「地上と三十階の位置を記憶した石を、ちょっと多めに頂けませんかね?」

「そりゃ構わないけど、三十階でいいのか?」

「いいんですよ。どうせ拡張された階層は、地図もねーから攻略に時間かかりますからね」

「荷物持ちを雇って、一度の探索で十日ぐらい籠るつもりなんです」


 その十日で階層のマッピングを行い、その写しをギルドに売る。

 新しく発見されたダンジョンのマッピング地図は高値で売れるそうだ。


「けどそれって簡単に詐欺れるんじゃ? これが新しいダンジョンの地図でーす! つって」

「いやいや、そこはギルドですからね、しっかりしてますぜ」

「ギルド職員、もしくはギルドが紹介したメンバーを同行させていれば本物だって認めて貰えるんです」


 メンバーを同行……あぁ、もしかして。


「荷物持ちが?」

「ピンポーン。銀級冒険者以上限定なのですけど、マッピング技術を持った荷物持ちさんを紹介してくれるのです」


 金級冒険者のこの四人も当然、ギルド紹介の荷物持ちを雇えるそうだ。


 地下三十階もあるダンジョンだ。

 拡張を期待して待機する冒険者……ってのも、なかなかいないだろう。

 そもそも三十階まで下りるだけでも、食料がギリギリなのだから。

 ボス目当ての冒険者なら、倒した後に魔法陣で帰れるので片道分だけでいい。

 それでも念のため、潜る冒険者は携帯用転移装置を必ず持参するそうだ。


 そんなダンジョンで、いつ復活するかも分からないボスを待つことなんて早々できることじゃない。

 コアを破壊してまわっている奴らを掴まて、地上に戻ってギルドに突き出してからダンジョンに戻っても出遅れることはないだろうって。


「ま、俺たちもご領主のことが心配ですし」

「冒険者としてもコアを破壊する奴らは放っておけん」

「ってことなので、トケットまでご一緒します」

「ふふ。ボリスちゃんとまた一緒ね」


 サラさんとマリーナさんは、気持ちよさそうにボリスをもふりながらそう言った。




*****************************************************

ルークが錬成したものはルークしか使えない・・・

という設定に、こういうものを追加してみました。


まぁ攻撃魔法が付与された石は、相変わらずルークしか使えません。

攻撃魔法は術者しか使えないのと同じで。

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