第182話:吹っ飛んだ。

 ルークエイン・トリスタン

 人族  17歳  男

 

 筋力:423  肉体:357  敏捷:281

 器用:312  魔力:201


【才能】

 錬金BOX72


【ギフト】

 付与49



 

 筋力と肉体がよく育ってるな。

 前にゴン蔵のステータスを聞いたけど、敏捷以外は999とか言ってた。

 まぁあの巨体だし、敏捷はまぁねと思うけど、それだって500を超えていたしなぁ。

 それにゴン蔵の話だと、この世界の数字の限界が999ってだけで、実際なら1000を超えてるだろうながはははははとか言ってた。


 そう考えると、俺もまだまだだな。


「ウーク、こえ美味しいの。あーんして、あーん」

「あーん……お、ほんひょうは、うっま」


 三つ目の目的地であるダンジョンから近い町サウレンド。

 ここは砂漠の国ディトランダにしては珍しく、町の周辺は緑が多い。

 東にある山が町をぐるっと半周する形で伸びているため、砂漠から吹く温かいを通り越した風を防いでいるから……と言われている。

 この辺りだけは作物も良く育つようで、納涼も盛んな土地だ。


 とはいえ、極一部の土地が潤っていても、国民全員の腹を満たせるほどの野菜は取れない。

 希少故に国産の野菜は高額だって話だしな。


 宿の食事も、どちらかというと肉が多い。それもモンスター肉だ。

 まぁ昔から動物タイプのモンスターが食肉として重宝されてきたので、特に気にすることなく食べているけどさ。

 

「肉はモンスターから取れても、野菜はモンスターから取れないのが難点だよなぁ」

「くだおのは取れるよぉ」

「高確率で熟れ過ぎてるけどなぁ」


 じゃがいものお化けとか、タマネギモンスターはいないが、巨木モンスターには桃や林檎が実っている。

 その実を投げつける猿のようなモンスターと共存していて、だいたいその実は熟しすぎて腐っていることが多い。

 食べごろの実は猿が食ってるってことだ。


「早く三つ目も元に戻さないとな」

「うんうん」


 二つのダンジョンが元に戻った──というか更に広くなったんだけども、それでも直ぐに経済が元通りになる訳じゃない。

 三つ目を蘇生したってそれは変わらないけど、遅いより早い方がいい。


「ダンジョン移動用の簡易転移装置もゲットしたし、町のどっか隅っこにでも位置を記憶させて毎晩行き来できるようにもなった。これからは夜は宿でぐっすり眠れるぞ」

「毎日美味しいご飯食べえうねぇ」

「お、俺が作る飯って、不味かったか?」

「そ、そんなことないお! ウークのご飯も美味しいっ」


 慌てて首を振るシアは、もじもじしながら「ただお肉少ないなぁって」と答える。

 うん。君の基準は肉だからね、分かるよ。

 宿で食べる料理は、特にこの国に入ってからは肉が増えてるし、シアにとっては楽園みたいなものだろう。


 なんとなく俺のお皿から野菜をシアの皿へと移しておいた。


「それにしても、この町も冒険者が戻って来ているみたいだなぁ」

「多いねぇ。賑やかだねぇ」


 この宿の食堂も、テーブル席は全て埋まっている。

 ちょっとお高い宿だとまだ空きはあるって話だ。


 だけど今現在、まだダンジョン内にモンスターはいない。

 だからダンジョンに潜らず、町で今か今かと復活の時を待っている──のかな?


「いやぁ、それにしても今朝見たアレは凄かったなぁ」

「あぁ。あんな毛並みのいい奴は初めてだぜ」

「しかし本当にアレを連れてダンジョン探査に参加する気かねぇ、あの金級たちは」


 近くのテーブル席からそんな会話が聞こえて来た。

 アレってなんだ?


 他のテーブルからもアレっぽい話題はちょいちょいと聞こえてくる。

 そのアレというのは喋るふわふわもこもこで、随分と可愛いらしい金級の冒険者なようだ。


「さっぱり分からん」

「う?」

「いや、気にしないでいいよ。ただの独り言だ。さて、明日はさっそくダンジョンに行くぞ。ま、その前にギルドだけどな」






「何が原因でダンジョンが復活しているか、それを調査していただきたいんです」

「は、はぁ……分かりました。ちょ、調査してきます」


 ギルドに向かうと、こんな依頼を受けることになった。

 何が原因って、そりゃまぁ……俺ですけど?


 でも公言は出来ない。


 これまでの二つのことも考えて、一度死んだダンジョンを復活させると必ず拡張されることが分かった。

 まぁ島と国境のダンジョンでもそうだったし、そうだろうなぁとは思ってたんだけどさ。

 今回でそれが確定した。


 となるとだ……。


 各地のダンジョンコアをワザと破壊して蘇生すれば、もしかすると延々と拡張が出来るかもしれない。

 蘇生した時には必ずボスが湧く。

 ボス狙いも容易にできるってことだ。


 まぁ拡張されるわけだから、次にコアを破壊するためにはその拡張した階層を攻略しなきゃならない訳だが。

 世界には地下三階までしかないダンジョンなんてのもある。こっちの大陸にはないけどな。

 そんな極小規模ダンジョンなら、拡張されてもたぶん次の最下層は六階だ。

 その次がどうなるかは分からないけど……。


 とにかく、俺がダンジョンの蘇生をしていると知られると、誰かが言ったみたいに拉致られて、馬車馬のように働かされるかもしれない。


 そんなのは嫌だ。


 ってことで、こーっそり任務を遂行しなきゃなぁ。

 

 そんなことを考えながら町を出て、冒険者が歩く方角に一緒になってついて行くと──


「あった。ここのダンジョンは珍しく、上に伸びるタイプなんだぜ」

「ほえぇー。何階あるの?」

「たしか十五階だったかな。目指すは最上階だ。モンスターはたぶんいないだろうし、だだだーっと駆け抜けるぞぉー!」

「おぉー!」


 こうして俺たちは体力が続く限り駆け足で進み、何組もの冒険者を追い抜いて、時々地図を見誤って迷子になりながら進んで行った。

 最上階にたどり着いたのは八日後。


「やっぱり毎晩ベッドで眠れるってのはいいな。疲れの取れ具合も全然違うし」

「毎日お風呂にも入れて気持ちいいねぇ」

「うんうん。やっぱ風呂は大事だよなぁ。お、あそこがボスの間みたいだぞ」


 半開き状態の石の扉があった。その向こうがコアのあるボス部屋だ。

 きっと他の冒険者もいるんだろうなぁっと思って、中の様子を伺おうと顔を覗かせると──


「ぐはっ──」


 突然中から大きな物体が現れ、俺は吹き飛んだ。

 

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