第181話:鍛えていてよかったぜ

 オアシスの町レゾルを出発して七日。

 三つ目のダンジョンが近くにあるサウレンドという町に到着した。


「ここのダンジョンは……ほら、あの山の麓にあるんだってさ」

「おぉ、近いねぇ」


 サウレンドは王都から比較的近い西の地にある。

 ただ、王都から直線距離にすると近いんだが、間に山があって王都へ行くには大きく迂回することになる。だから王都から移動時間で考えると、ディサイドが一番近かったって訳だ。


「ダンジョンの蘇生も順調だし、四つ目を復活させたらのんびりするかぁ」

「美味しいもの食べう?」

「……お前は食い気だけだな……まぁ食べるけどさ」

「いやったぁ~っ。ウーク好きぃ」

「お、おいっ」


 人通りの多い場所で、シアは恥ずかし気もなく抱きついて来る。

 周囲の男たちの目が怖い……。


 この目を俺は知っているぞ。


 リア充ウゼー!

 リア充爆ぜろ!


 そんな目だ。


 今では前世の記憶もすっかり色あせるほど、今世が楽しくて仕方ない。それでも時々思い出すんだ。

 充実とは無縁だった前世のことを。


 そう。

 リア充ウザーだの爆ぜろだの思っていたのは俺です。ほんとすみません。


 彼女がいる奴も、ぬるい会社で高給貰ってる奴らも、ぬるくなくてもやり甲斐を感じているとか言ってる奴らも、全部が羨ましかった。

 そんな前世を持つ俺が今、羨望と嫉妬の眼差しを向けられている。


 俺も出世したなぁ。


 けどここは日本じゃない。剣と魔法の異世界だ。

 いろいろと物騒な世界でもあるからして、羨望と嫉妬だけじゃ終わらないんだよなぁ。

 向けられている視線には、明らかに憎悪も混じってるし。

 早いとこ宿を探すか。


「おいおい兄ちゃん、こんな真昼間から随分見せつけてくれるじゃねーか」

「あ、遅かったか。ったく、これだから……」


 言ってる傍からこれか。


「あぁ? なんか言ったかおいっ」


 難癖をつけてきたのは三人の巨漢たち。見事なまでに「モテない代表」のような面構えだ。


「いえ、なにも言ってないです。先を急ぐんで、失礼しますね」


 そう言って俺はシアの手を引いて行こうとしたが、行く手を当たり前のように男たちが阻む。


「おいおい、これから宿にでも行って、いいことしようってんじゃないだろうな?」

「いいことかどうかは置いといて、宿に行こうとしているのは正解」


 凄いな、なんでわかったんだろう?


「くっ……人をバカにしやがって!」

「へ? なんでそうなる」

「大人しくその娘をこっちに寄こしやがれ!?」

「いや、だからなんでそうな──」


 問答無用で襲い掛かって来た巨漢たち。

 ムキムキ且つ上背も横にも大きな三人と正面から勝負出来るわけないだろう。俺はいたって──いや、どちらかと言うと細身な方なんだ。

 非力でか弱い男の子なんだぞ!!!!


「こっちくんな!」


 と、思わず突き出した両手が、先頭をどしどしと走って来た男の腹に喰い込んだ。

 うわ、気持ち悪い!

 と思う間もなく、男が吹っ飛んだ。


「ぶへぇっ!」

「おや?」


 吹っ飛んだ男が観衆というなの人の壁にぶつかる。


「こ、この野郎っ。ヤスに何しやがった!」

「いや何って、手を突き出しただけなんだが」

「黙りやがれ!」


 と、今度は腰にぶら下げていた手斧を取り出し、振り上げる巨漢その2。

 

「そんなもん街中で振り回したら危ないだろう!」


 と、振り下ろされた斧を掴んで、手刀を入れて叩き落そう……としたのに、柄がぽっきり折れてしまった。

 おいおい、こんなモロい武器なんて使ってたら、もしもの時に自分が怪我するぞ。


「んなっ!?」

「もうちょっと丈夫な武器を使えよ。危ないぞ。この刃だって、全然切れてないし」


 手掴みした斧の刃は、俺の手にまったく喰い込んでない。これじゃあ木だって切り倒せやしないぞ。


「どどどどどど、ど、どうなってんだ?」

「あ、あんな細腕で……なんで」

「で? シアで何をどうしようっていうんだ?」


 何故か腰を抜かしている巨漢のひとりを掴み上げると、意外なほど軽い。

 筋肉って重いよな? いや、脂肪だろうとこのサイズにもなれば100kgはゆうに超えてくるだろう。

 島にいた時に、野菜籠や丸太、煉瓦の束を毎日のように運んでいたから、それで鍛えられたかな?

 とにかく軽いので、その男を持ち上げた。ダンベルを持ち上げるような格好で。


 そうすると持ち上げた男も、もうひとりもあわあわと狼狽え始めた。


「ひ、ひいぃぃぃっ。お、下ろしてくれえぇぇ」

「もうしませんか!」

「し、しましぇぇーんっ」

「よし、なら下ろしてやろう」


 めっちゃ泣くので鬱陶しい。

 静かに地面に下してやったが、腰を抜かして立てないようだ。そのまま腹ばいになって匍匐前進するように逃げて行った。


「おぉ、やるじゃねーか兄ちゃん!」

「あんな細腕で、ずげー力だな」

「どんなステータスしてんだ……」


 拍手喝采を浴びながら、照れくさいのでシアの手を引いてその場から立ち去る。

 何故かシアはみんなに手を振っていた。


 ステータス……。

 あぁ、ステータスね。


 ステータスの実をちょいちょい食ってるもんなぁ。

 島の住民が増えて、領主の屋敷も出来上がると人目があってなかなか食えない日もあったけど。

 それでも月に20個ぐらいは口にしていたし。


 無駄に筋力は高かったよなぁ。




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EXP1~の更新もしております。

https://kakuyomu.jp/works/1177354055235116548


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