第179話:いいものだった
ボスが討伐されると、当たり前のように地面が揺れて拡張工事が始まった。
それに関しては金銀冒険者も驚き、そしてテンションが上がっていた。
「今すぐ突撃だ!」
「いや待て。十分な備えを用意してだなぁ──」
「食料は十日分しかないんだぞ。その間にアレも消えるだろう」
アレっていうのは、地上へと出るための魔法陣。ボスを倒して一定時間経つと消えてしまう。
「誰か帰還用の簡易転移装置持ってないのか?」
「俺らは持ってるから、食料がもつだけ潜ってみるか?」
「いいねぇ、行こうぜリーダー」
「お、おい。それって時間制限?」
「残念。人数制限」
「頼む! 譲ってくれないかっ」
「だが断るっ」
複数のパーティーがいるもんだから、あるパーティーは簡易転移装置持ちであるパーティーは持ってないとかで揉めている。
元気だよなぁ……今すぐ新エリアに突撃しようなんて……。
俺はそろそろ地上に出て、風呂に入りたいよ。
けど彼らは必死だ。
簡易転移装置持ちが現れた階段から下りようとすると、それを引き留めて値段交渉を始めている。
いったいいくら積み上げていく気なんだよ。金持ちだなぁ。
「なんでそこまでして地下に下りたいんだろうなぁ」
「なんでだおうねぇ」
生暖かく見守る俺たちに、別の冒険者が教えてくれる。
「そりゃあな、あの下は前人未到の地だ。どんなモンスターがいて、どんなドロップがあるのか。宝箱はあるのか。何が出るのか。それらすべてが情報としてギルドに売れるんだよ。それにだ──」
「それに?」
彼は目を輝かせた。
「なんでも一番乗りって、わくわくするだろ?」
「はは。まぁそうですね」
だけど食料が少なければここからだって徒歩で地上に戻ることは出来ない。
十日分の食料ってことは、今日、ここから地上に向かう工程分だ。
半日程度地下に潜っても、大した情報は得られない。生息モンスターの情報ぐらいだ。
その程度だとたいした情報料にはならないんだとか。
何日か籠って、せめて宝箱を見つけたい。だからどうしても簡易転移装置が必要なんだと。
「しかし、持ってるパーティーが一つじゃなぁ……」
そう零す彼のパーティーは、魔法陣からの帰還を選んだようだ。
簡易転移装置かぁ……。
あれって量産できるのかな?
「君たちも地下に下りるのか?」
「え? いや、俺は上に戻りますよ。風呂に入りたいですし」
「え? じゃあ彼女が持ってる転移装置は使わないのかい?」
「ん?」
彼女が持ってる?
何のことだと思ったら、彼が見ているのはシアだ。
正確にはその手に持った石。
昨日拾った奴だ。キラキラしているから、シアが拾って来たんだけども。
「これ、昨日拾った物なんですよ」
「は? おいおい、それは簡易転移装置だぞ? しかも上書き可能タイプじゃないか」
「えぇ!? こ、これ転移装置だったんですか?」
しかも上書き可能。
もちろん一度使うと消滅する消耗品タイプで、呪文を唱えたて石に位置情報を記憶させるとそこに転移できるというもの。
ただしその位置情報、呪文を唱えるごとに場所を上書きできるものらしい。
「拾いものか……どこに位置情報があるか分からないな」
「ですね……使って確かめても……」
「消耗品だからなぁ。その時点で使えなくなる。まぁダンジョンに落ちてたってことは、誰かが落としたんだろうし。可能性としては地上がもっとも確率が高いんだろうけど」
確かめることができない。
いや、出来る!!
「じ、実はですね──」
「本当にいいのか?」
「えぇ、いいですよ。ただやり方を教えてください。位置情報の記憶のさせ方」
シアが拾った石を、錬金BOXで量産。
【転移魔法が付与された石】を大量に作った。もちろんこっそりと。
石は全部で十個あったんです、と嘘をつき、そのうち一個はここの位置を記憶させ、残りは地上の位置を記憶してここに戻って来るのだ。
それを彼らに売る。
まずは位置情報の記憶のさせ方を教えて貰ったが、魔法の呪文そのものだった。
「"石に込められしマナよ。我立つ場所を記憶せよ"──と、これでいいんだな?」
「キアキア光ったおぉ」
「それで上書き完了だ。あとはあっちの魔法陣で地上に出たら、残り九個も同じように呪文を唱えて位置を上書きしてくれ」
「一個ずつやるんだぞ。石を全部持ってまとめてやろうとすると、失敗しやすいらしいからな」
「分かりました。じゃあ行ってきます」
シアと二人で魔法陣を使って地上へ。
「うわっ。まぶし!!」
「暑いぉウーク。石、石ごしごししてぇ」
「っと、そうだった」
ダンジョン内は涼しいから、温度調節の必要もなかったもんな。
シアの腕輪にある石を擦って涼しくしてやってから、簡易転移装置の位置情報の上書きを開始。
九つ全部終わると、さっきダンジョン内の位置を上書きした石を使用する。
使う時も呪文だ。それも教えて貰っている。
「"記憶せじ場所へと通じる扉よ、開け"」
「扉じゃなくって、ぐうぐうした光だねぇ」
「そういうツッコミはしちゃいけません」
「あい」
そう。扉ではなく、ぐるぐると渦巻く丸い光が出現する。
その中に入ると、次の瞬間にはダンジョンの中。そして金銀冒険者が目を輝かせて待っていた。
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