第170話:コアの仕様

 地下十二階まで下りるのに八日掛った。

 二日目から駆け足で走り抜けたから、一階クリアに一日掛かることはなかったけれど。

 それでも八日だ。なかなか時間が掛かったな。


「で、問題はだ──」

「人いうねぇ」

「いるねぇ」


 ギルドに雇われた調査依頼を受けた冒険者だろうな。

 五人ほどがボス部屋をうろうろしていた。


 まずいなぁ。人前でコアの修繕をする訳にもいかないし。何よりまずはコアを探さなきゃいけないってのに。


「ん? なんだ新入りか。ここはもうあらかた調べ尽くしたし、コアの残骸も見つけたから撤収するところだぞ?」


 俺とシアを見つけて冒険者のひとりがそう声を掛けて来た。


 コアの残骸……見つけた!?

 

「コア見つけたぉ~?」

「おう、見つけた見つけた。まぁあれで全部かどうか分からないけどな」

「わ、分からないって?」

「そりゃあお前、粉々になってんだから分かる訳ないだろう」


 やっぱそうなってたか。

 綺麗にスパっと切られてたりしたら楽だったんだけど。


 しかしだ。その粉々の残骸を持っていかれちゃ困るんだよ。

 欠片が一つでもなければ元通りに治せないんだし。


「コ、コアの残骸……は? 持ち帰るんですか?」

「ん? 持ち帰る?」


 首を傾げた冒険者は、俺たちをじっと見てそれから笑った。


「はっはーん。お前さん、新人だな? いい装備をしているところを見ると、どこぞの貴族の三男坊とか四男坊とかか」

「え……あぁ……」

「はっはっは。いいっていいって。家督を継げない貴族の坊ちゃんってのも、なかなか苦労するってのはよく耳にするからな」


 そ、そうなのか。

 まぁ跡を継げるのはひとり。せいぜい補佐にもうひとり残るぐらいか。それだって政略結婚とかで、どっかに婿養子になったりするんだろうし。

 男児が四人も五人も八人もいたら、家を出て冒険者なんてのもあるんだろう。


「それでだ。コアってのはな、ダンジョンの外には持ち出せないんだよ」

「持ち出せない? え?」

「というより、このボス部屋から持ち出せないってほうが正しいのか」


 そう言って彼が部屋の奥にあった玉座の方へと向かう。

 俺とシアもそれについて行くと、彼が玉座の後ろにあった台座の前で俺たちを待っていた。

 そこには島と国境ダンジョンで見た、七色に光る石──の欠片がいくつも置かれているのが見えた。


「これを持って出る」

「え、あ、はい。え、俺が持つの?」

「まぁその方が分かりやすいだろうからな」


 で、彼が手招きをするのでボス部屋の外へと一緒に向かった。

 欠片は俺の掌にある。

 そのままボス部屋を出ると──


「おぉ?」

「石飛んでったねぇ」


 一歩出た瞬間に、小さなコアの欠片がふわぁーっと浮き上がってボス部屋に戻ってしまった。

 ただ台座に戻った訳じゃなく、適当に飛んで行ってポテっと落ちた。


「な?」

「へぇ。持ち出せないって、こういうことだったんですか」

「そ。じゃあさっきの欠片、拾って台座んとこ置いといてくれ」


 ……どこ落ちたっけかな。

 言われてシアがすたたっと駆けて行って、きらりと光る欠片を摘まみ上げた。

 さすがシア。視力の良さは半端ないな。


「んじゃあ引き上げるか。お前らはどうするんだ? もうここでの調査は何も残っちゃいないが」

「えぇーっと……俺たちはどこかに隠し通路がないか調べる調査でして。どうせだからボス部屋もと思ったんだけど」

「それも調べた。何もないよ」

「じゃあここで休んで、明日引き上げます」

「そっか。じゃあ先上がるわ。おっつかれ」


 うん。なんか気さくでいい感じの人だったな。

 でもここにいられると面倒だし、一緒に引き上げる訳にもいかない。


「シア、飯の準備でもしよう」

「やったぁーっ!」


 荷物を降ろし、引き上げていく彼らからも分かるように野宿の準備に取り掛かった。

 実際今の時間って夕方ぐらいなんだよな。

 このままボス戦も辛いし、今夜はしっかり休んで明日に備えたい。






「ここのボスはカオスリザードマンだ」


 シアが肉を頬張りながらこくこくと頷く。彼女の足元にある皿に、そっと野菜を盛る。そして「食え」と目力で訴えた。


「シアそれ知ってう」

「え? 知ってるって?」

「でも地上のカオスリザードマンだけおね」


 地上のカオスリザードマンか。

 この世界のモンスターって、なんで地上とダンジョンとに別れたんだろうな。

 しかもダンジョンに生息している方は、明らかに前世の俺が知るゲームみたいな仕様だし。


 そんで地上のモンスターは純粋なファンタジー系物語のように、雄と雌から産まれてくる。

 

 姿形、特性はまったく同じでも、生き物としての生体はまったく別物っていうね。

 それにダンジョンモンスターの方が、地上のまったく同じそれより少し強い。

 比べたことがある訳じゃないけど、一般的にはそう言われている。


 そういたダンジョン角シープーとか見たことないなぁ。

 いたとしても、進化したボスとかボリスに比べりゃ弱いんだろうけどさ。


「シア。カオスリザードマンを知ってるってのは、戦ったことがあるとかそういうことか?」

「シアはない。シアのお父さんとお母さんが戦ったぉ」


 う。これは聞いてもいい話なんだろうか?

 もし……もしもだぞ。

 カオスリザードマンとの戦いで、シアのご両親が命を落としたとかだと──


「お父さんがダダダーンでバーンってやったら、カオスリザードマン死んじゃったぉ」

「あ……そう。シアのお父さんって、強いんだな」

「あい!」


 で、どうやって倒したかという肝心なところは、ダダダーンで、バーンで、詳しくと尋ねるとギュイーンだのバキッだので全然分からない。


「お父さんがね、鱗が硬かったって」

「あ、そう」

「あとね、寒いの苦手っていうてたの」

「ほー。じゃあ氷石主体でいくか」

「うん!」


 ギルドでは、ボスはカオスリザードマンだった──という、過去形の情報しかくれなかった。

 いないボスの情報を詳しく聞くのは、いろいろ怪しまれそうで聞けなかったんだけど、シアが知っていてくれて助かった。


 シアのクロウにも、氷を付与して持たせるか。

 じゃあ俺の剣にも──


 剣を錬金BOXに入れて、ゴン蔵ブレス石を突っ込んで付与っと。


 うぅん、なんだろうなこの──なんでも都合よくくっついた属性剣は。


「おぉぉぉぉっ」


 シアも感嘆な声を上げる魔法剣は、刃の周りを炎がぐるりと巻き付き、その外周をパチパチと静電気が迸る。そして刀身自身は青白く光って、冷気を発していた。


 熱いのか冷たいのか痺れるのか、どれなんだよまったく。

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