第169話:一つ目のダンジョン

「ディサイド迷宮豆知識!」


 町の冒険者ギルドでダンジョン内の地図を購入。

 地下十二階構造で、買った地図は主に次の階層へと続く階段までのルートぐらいしか描かれていない。

 それで十分。


「植物系と昆虫系のモンスターが多い!」

「でもモンスター全然いないぉウーク」

「……ディサイド迷宮豆知識その2! 固定砲台型のモンスターには近づくな!」

「モンスターいないぉウーク」

「……ま、豆知識その3!」


 地下三階からはトラップが出現する。

 ある場所を踏むと足元が開いて穴に落ちたり、壁のある部分に触れると毒液が天井から落ちてきたり。

 だが……


「ダンジョンコアが破壊されて、トラップが機動しなくなっているみたいだ……」

「豆知識役にたたないねぇ」

「くそぉぉぉっ。これ金払って買った情報なんだぞ! なんだよあのギルド!! 役に立たない情報をニコニコ顔で売りつけやがって!!」


 地図を買うついでに「どうですか?」と言われてついつい買った俺が馬鹿だった。


 つい……ついさ。

 自分が冒険者になった気になって、うきうきしちゃったんだよ。

 ハイテンションMAXだったんだよ。


 よく考えたらコアがないダンジョンなんだから、当たり前じゃん。


 地図を見ながらずんずん進み、時々冒険者とすれ違うことも。


「ギルドで雇われた冒険者は、各階層に残っているモンスターを倒したり、未発見の隠し通路なんかがないか調べたりするのが仕事なんだ」

「隠し通路!? あうの?」

「さぁ?」


 ただモンスターがいる間だと、おちおちそういうのを探している余裕もない。

 だから──そして見つかればこの国の利益にも繋がる訳で。結構必死なようだ。


「とにかく俺たちは最下層を目指すんだ。そんでコアを回収しなきゃな」

「コアあうの?」

「それなんだよなぁ」


 コアを破壊した奴が持ち出していたらどうなるか……。

 そういや島のダンジョンと国境のダンジョンには、コアがちゃんと残っていたっけ。

 何十年も前に破壊されたものなのに、誰も持ち出さなかったんだな。






「一階層進むのに一日かぁ。最下層まで十日以上かかりそうだな」

「お肉足りうの?」

「肉限定で話すな。まぁ大丈夫だ。帰りは転送魔法陣が出るからな」


 これまで二つのダンジョンを復活させて、ボスを倒せば必ず出てきた転送魔法陣。

 そもそもダンジョンはそういう仕様になっている。

 ボスを倒すと一定時間だけ、転送魔法陣が出てくるのだ。


「もしコアが見つからないとか、転送魔法陣が出てこないとかあっても、最悪の場合は携帯用の魔導転送石を使うさ」

「島に帰うの?」

「最悪、な。まぁ水は二週間分あるし、食料はもっと用意してあるから徒歩で帰ることもできるかもな」


 その場合、節約必須になるけれど。

 ただ購入した地図を見ると、地下八階に湧き水があると書かれていた。

 コアがなくなって水も枯れている可能性もあるが、一度寄っておこう。


「よし、じゃあ夜中の見張りだけど──じゃんけんをします!」

「おぉー! でもウーク、モンスターいないのに見張りいうの?」

「ん、一応な。まだどこか奥の方で生き残っている奴がいない友限らないし。それに、冒険者がいるからな」


 二人してぐっすり眠っていたら、あまりよろしくない冒険者に装備とか盗まれる可能性だってある。


 島にいる冒険者だって、みんなが気のいい連中じゃないんだよ。

 実際、ギルドには冒険者同士の衝突で怪我をした人がいるとか、モンスタートレインをしてきた奴に押し付けられたとか、ドロップ品を横取りされたとか、そういう話はあるようだ。

 冒険者の絶対数が少ないから、そういう不届き者はすぐに見つかってギルマスにぶん殴られ逆島流しにされているけど。


「という訳だ。どちらか片方は起きてないとな」

「うぅ。人間ってどうして同じ仲間から、もの奪うのかなぁ」

「そうだなぁ……数が多いってのも、原因の一つなんだろうな」


 種族人口が少ないと、お互い助け合わなきゃ絶滅するのが分かり切っている。

 この世界ではいろいろな種族がいるけど、人間はやっぱり多いんだよ。

 多いからこそ、敵対することも多くなってしまう。


 いやな因果だよなぁ。

 次に転生するときは、超絶イケメンエルフとかがいいな。


「んじゃージャンケンやるぞぉ」

「負けないおぉー」

「最初はグー! じゃんけんポン!!」

「シアの勝ち!! 勝ったら、どうするお?」


 勝った方は先に寝るか後に寝るかを決められる。

 そう答えると、シアは先に寝る! といって寝袋に潜り込んだ。そして秒で寝る。


 俺は地下二階の地図を眺めながら、最短ルートを探して筆でなぞっておく。

 もちろん携帯用筆記用具も常備しているぜ。

 日ごろから筆記用具を持ち歩くのは、貴族のたしなみだ。

 ──といってジョバンが用意してくれたものだ。


 地下三階から十二階まで全てに目を通し、最短ルートを探して書き込んで……今日は体力も随分あまったし、明日から少し駆け足で移動するかな。


「さてっと、そろそろ交代して貰うかな。シア、おいシア」

「うにゅー……」


 ごろりと寝返りを打つシアだが、一向に起きる気配がない。


「おい、交代してくれよ」

「むにゅう……ウークぅ……すきぃ」

「はぐっ」


 ま、待て。まてまてまて。

 寝ぼけてヘッドロックするんじゃない!

 おっぱ、おっぱい当たってる!

 柔らかいからっ!

 いやそうじゃなくって苦しいから!

 おっぱいで窒息死するからぁぁぁーっ!


「にゅふふぅ」


 ……も、もう少しだけ寝かせてやろう。

 でももう少しだけだからな!

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