『錬金BOX』で生産＆付与無双！ なんでも錬成できる箱で無人島開拓はじめます

第145話：オ父サンナンカ

『ンベェエェェーッ！』

「待てボス！　おい、目を覚まっ」

　蹄を鳴らし、ボスが突進して来た。

　くっそっ。巨体だから躱すのも一苦労なんだよ！

　地面を転がるようにしてボスの突進を躱し、すぐさまアルゲインに向かって走る。

　従属させられたモンスターを解放させる手っ取り早い方法は、召喚士を倒すことだ。

　だからといってアッサリ人を殺せるほど俺も鬼畜じゃないし、何よりそれをやってしまっても許される立場にもない。

　いくら相手がボスを誘拐した犯人だからって、それを理由に殺せば国際問題になるかもしれない。

　だから奴自身が術を解きたくなる状況を──

「うげっ」

　アルゲインに調教の鎖を使うか、それとも実力行使で脅すかしようと思ったのに、奴の周りにはモンスターがうじゃうじゃ集まって来た。

　こ、これ全部、奴が調教したのか？

　召喚士って、こんないっぱい使役できるんだっけ？

「ふ、ふん。驚いているようだな男爵。あぁそうとも。俺様は数百、いや数千数万のモンスターすら従属できる！　召喚士などと一緒にされては困るなぁ。はぁーっはっはっはっは」

「ちっ。調教スキルに使役の上限がないってことか。しかし、質より量か……雑魚ばかり、よくもまぁこんなに集めたものだ」

　アルゲインを守るように取り囲んでいるのは、ゴブリンやスライム、コボルトといった、ファンタジーでは定番の雑魚モンスターばかりだ。

　ゴブリンやコボルトは集団生活をするタイプだし、群れを見つければ数の確保は簡単だろうけど……。

　けどやっぱりどうしても言いたい。

「なんで雑魚ばっかりなん？」

「ぐはっ」

　その言葉はアルゲインに刺さったようだ。

　傷むはずのない胸を押さえ、肩を震わせている。

『ンベェェーッ』

「げっ。またボスがこっちにっ」

「ボス、ダメェ」

『ンッペェーッ！』

　駆けつけようとしたボリスを、アルゲインのところの雑魚モンスターが取り囲む。

　雑魚だろうと、数十匹に取り囲まれればボリスだって……それにあいつはまだ子供なんだぞ！

「馬鹿野郎っ！　お前は自分の大事な息子を危険な目に会わせるのか！　それが親だってのかっ」

『ン、ンン、ンベェ……ベェーッ！』

　くそっ。俺の声は届かないのかっ。

「ウーク危ないっ」

「俺はいい！　シアはボリスたちを守ってやってくれっ」

「で、でも──」

　駆け付けようとするシアを止め、ボスと一対一で対峙する。

　俺たち……親友だよな？

　家族でもあるよな？

　俺はそう信じている。

「それとも……家族だと思っていたのは俺だけだったのか？　なぁ、ボス」

『グ……ゥ……ンベ……』

　赤く染まっていたボスの瞳が、じわぁっと黒みを帯びてきた。

　黒くてつぶらな瞳が、本来のボスの色だ。

　まだボスの中に自我が残っているんだな！

「負けるなボス！　あんなもやしみたいな男のスキルなんかに、負けるな!!」

「もやしとはなんだ、もやしとは！　えぇい、さっさと殺せっ"調教の鎖"！」

　アルゲインから一本の鎖が伸びて来た。それと断ち切ろうと剣を振るが、スキルの鎖は物質的なものではなくて適わなかった。

『ンベエエェェーッ』

「やめろぉ！」

　再びボスが蹄を鳴らす。その目は黒から再び真っ赤に変わった。

　届かないのか……。

「ボスウウウゥゥゥッ」

『ンベェエェェェ！』

「え、いや待てそれはマズいって！」

　ボスの角が光った。そして後ろ脚で立ち上がり──それニードルクエイクだろおぉぉっ。

　躱せるか？

　と思うと同時に、

　これ範囲攻撃じゃん！

　という絶望にも似た思考が浮かぶ。

　防御、防御──ゴン蔵の盾！

　ポーチに手を突っ込んで盾を取り出す。

　にゅっと出て来た盾で一瞬視界が遮られ、構えた瞬間目にしたのは──

『ンッペェーッ！』

「ボリス！？」

　──の後ろ姿だった。

　あいつっ。親父と正面からやり合うつもりかっ。よせ！

『ンペペェ。ペェーッ！』

『ンベェェーッ』

『ペッ！？　ン、ンンンン、ンペェーッ！』

　え？　なに？　何話してるの？

　ってかボリスのやつ、角光らせて親父に突進しにいったぞ！？

「ボリスやめろ！　ボスは調教されているだけなんだっ」

『ンッペェェェーッ！　オ父サン、僕ノ声、聞イテクレナイッ。オ父サン、僕ノコト嫌イナンダッ』

「ボ、ボリ……ス？」

　なんだ。

　なんで急にボリスの言葉が分かるようになったんだ？

　俺の脳内変換が現実になっているのか？

『ンベェーッ』

『オ父サンナンカ、大嫌イダァーッ！』

　角を光らせたボスと、角を光らせたボリス。

　体の大きさではボスが勝っている。力だってボスの方は……

　なのにボリスが勝つような気がした。

　だってこいつ……　

「は、はは。羊毛光ってんぞ、ボリス」

　まるで今のボリスの内面を現しているかのように、その羊毛は燃える炎のように赤く染まっていた。