第144話:鎖
「な、なにが起こった? 何故俺様の鎖が箱の中に!?」
混乱中のアルゲインを他所に、すぐさま箱の中身を付与した。
拾い集めていた枝は二、三十本はある。
さて、これはどうやって使えばいいのかな?
蓋をして鑑定をすると、今までのように投げて使うタイプじゃないことが分かった。
【枝を振ることで調教の鎖を飛ばせる。からめとった相手が抵抗に失敗すれば、一時的に対象を体の自由を奪ったのち混乱させることが可能。何度も繰り返し痛めつけることで、完全に支配下に置くことが出来る】
なんて嫌らしいスキルだよ。痛めつけるって……くそっ。
「くそったれ! これでも食らえっ」
鷲掴みした枝を振って鎖を飛ばす。同時に傍にいたシアに枝を拾い集めて貰った。
なるほど。この鎖は俺と繋がってなきゃダメなのか。
鎖を出した術者と対象を繋げて、それが従属関係を成立させる仕組みみたいなのなんだろうな。
アルゲインに向かって伸びた五本の鎖は、四人の冒険者とひとりの兵士を絡めとった。
「うぅ、くっ……」
「魔術師には抵抗されるか……そうだよな。こっちは魔法は素人なんだし」
抵抗判定ありのスキルだと、魔術師はやっぱ強いよ。
と思っていたのに、五人全員が力なく倒れた。
まさか魔術師も抵抗に失敗したのか?
そういや、総合的なステータスの値でって言ってたよな。
筋力とかその辺で俺が勝ったのか。
『ン、ンン、ンンンンッペエエェェッ』
「ボリス!?」
『ンッペンペンッペエェ!』──お前の術になんかかからない!
そんな声が聞こえた気がした。
ボリスは奴の鎖に抵抗できたのか!
「ちっ。燃えカスでは効果が薄かったか。父親にさんざん使ったランタンだからな……新しい魔石じゃなきゃダメか」
『ペペペェッ、ンペエェーッ』
ボリスの足はまだおぼつかない。
「ウーク、枝っ」
「サンキュー、シア」
『怒ったでちゅ』
『ボスおじちゃんを早く返せ!!』
『"バブル・ボムボム"でしゅ』
クラ助の頭上からシャボン玉が勢いよく飛び出し、それが着弾すると爆ぜた!?
え?
シャボン玉の……手榴弾?
そんな魔法、いつどこで覚えてくるんだよ!
いや教えてるのク美だろうけどさ。
優しいお袋みたいな顔して、きっちり最強魔獣らしく育ててんじゃん。
こわっ!
ゴン太もゴン太で冷気のブレスを吐いて、まともに浴びた兵士は寒さで動けなくなっている。
「チビたちばかり任せていられないな。てい!」
鎖枝を掴んで振る。これ、目視した相手に自動で飛んでいくのか。
ただホーミング機能はなく、真っ直ぐにしか飛ばないので躱される。
しかし俺たちを囲むように密集していた兵士たちだ。先頭が躱しても後ろの奴に当たる。
その全ては抵抗に失敗し、ぱたりと倒れた。
「ウ、ウーク! さっきの奴、起きちゃった」
「さっき? げ、冒険者どもか。ちっ。もう正気に戻ったってのか」
「ああぁぁぁっ"ファイア"」
いきなり魔法かよぉーっ!
と思ったら俺たちにじゃなく、まだ無事な兵士に向かって飛んでった!?
あ、この魔術師、混乱状態だわ。敵と味方の区別が付いてない。
けどいつこっちに魔法が飛んでくるのか分からないから危険だな。
剣を抜いて駆け出した俺は、奴が次の魔法を詠唱している間に──
「寝てろ」
そう言って殴り飛ばした。そして文字通り吹っ飛んで行った。
うん。筋力が高すぎたな。
残りのメンバーも同じように完全に気絶させ、気づけば立っているのはアルゲインと数名の部下だけに。
「な、何故だ。何故貴様が俺様の『調教の鎖』を使える!?」
「さぁ、何故かな。ボスを大人しく返せば、教えてやってもいいぜ」
「くっ。だったら──望み通りあわせてやろう!」
お、なんか逆ギレ?
アルゲインが首にぶら下げた笛を吹く。やや間があって、屋敷の傍の森から地響きが聞こえて来た。
嫌な予感がする。
その予感はすぐに現実のものとなった。
『ペェーッ』
『ンベエェェーッ!』
「ボス!?」
先頭を走って来るのはボスで、その後ろから何十、いや何百というモンスターが追いかけて来た。
くそっ。奴のモンスターにボスを襲わせているのか!?
「今すぐ助けるぞボス!」
「はははははははは。その必要はない!」
「な──「ウーク!」
シアの声に振り向くと、彼女がこっちに向かって突進してくるところだった。
タックルされ、地面に転がる。
と同時に白い巨体が今さっきまで俺が立っていたところを通過していった。
ボリスか?
『ンペェッ』
違う。ボスなのか!?
「ボス、変っ」
「ボスが変?」
立ち上がりながらシアが言う。
木にぶつかってそれをへし折ったボスが振り向いた。
ボスの黒かった瞳が……赤い。
「くははははははっ。さぁ殺れ。お前の元主人を、その角で突き刺して殺すのだ! そうすればきっと、きっと進化は訪れる!」
『ウゥ……ンベェェェェェェェッ!』
嘘だろ……調教済みだってのか!?
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ネビュラチェー〇
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