第146話:なんか進化したみたい

「ボ、ボボ、ボ、ボリスさん?」


 いったい何が起きたんだ?

 ボリスが突然喋り──いや、人語を喋りだしたし、毛の色が変わってるし、なんか逞しくなってるし!?

 あれ、そういや角も伸びてる?


「あぁ……あぁぁ……なんたることだ。間違えたのか、この馬鹿どもめ!」


 アルゲインは気絶して転がったままの冒険者らを蹴り飛ばした。

 間違えた? どういう意味だ。


「進化だ! 大地の幻獣、角シープーへの進化! 俺様の中で今もっともトレンディなモンスターよ!」

「は? え? だ、大地の幻獣? ボリスが進化!?」

「ボリス、凄いお!」


 ほ、本当にボリスが進化?


「体格に恵まれ、通常の角シープーよりも全ての能力において突出していることが条件と噂されていたが……父親がそうだと思っていた。だがまさか息子のほうだったとはな」


 体格……比較対象がいないので分からないが、ジョバンたちも大きいとは言っていた。

 角シープーを見たことのある冒険者も、口を揃えて大きい大きいと言っていた。

 でもそれはボスに対してであって、ボリスのことはではない。


 ただ、ボリスを大人の角シープーと間違う人は多かった気がする。


 つまりボリスも子供にしてはデカいってことか。


「男爵よ。その角シープー、この俺様に献上しろ!」

「はぁ? 何言ってんだ。するわけないだろう。あんたば──」


 おっと、俺も一応貴族のはしくれだ。「バカか」なんて下品な言葉は止めて、上品にいかなきゃな。


「あなたはおバカでございますか?」


 よし、完璧だ。

 

「ぐぎ……ぎさま……俺様をバカにしているのか!?」

「え? そう言ったつもりなんだが」

「ぎぎぎぎっ。ぎざ、ぎ、貴様っ。よくもこの俺様を侮辱してくれたな! その角シープーを俺様の物にし、ほえ面をかかせてくれるわ! "調教の鎖"!!」

「おっと、やらせるか! 調教の鎖スタッフ!」


 別に口で言う必要はない。だけどつい対抗心が出てしまった。

 木の枝から伸びた俺の鎖と、アルゲインの掌から伸びた鎖。二つが弾かれる──と思ったら、アルゲインの鎖が直前で起動を変えた。


 え、あんな動きも出来るのか!?


 鎖はボリスを狙っていたが、軌道を変えたことでボスの方へと飛んでいく。


『オ父サン! 危ナイッ』


 ボリスが地を蹴った。

 たった一度の跳躍で、その体はボスの下へと到着した。


 は、はえーっ。

 いやそれよりも──


「ボリス!」

『僕ノオ父サンヲ、虐メル奴ハ許サナイ!!』

『ンベッ』


 ボリス……お前……お父さんのバカとか言っておいて、本当は大好きなんじゃないか。


『オ父サンハ……オ父サンハ……僕ガ今カラオ説教スルンダカラ、邪魔スルナアァァァァッ』


 羊毛から炎のような光が湧きだす。それがアルゲインの鎖を跳ね返した。


「ボス……先に言っておくよ……南無」

『ン……ンン』


 身の危険を感じたのか、ボスがじりじりと交代する。


『オ父サン。ドコ行クノ』

『ン、ンベエェ……』


 ボスも巨体だが、ボリスの体はそれに近づいている。進化、恐るべし。


「くっ。跳ね返したかっ、そ、そうだ。こやつが確か……」


 なんか後ろで声がするなと思ったら、アルゲインはまだ諦めていないようだ。

 さっさと終わらせるか。


「ふはっははははは! 新品の魔石ランタンだ。食らえ!」

「げっ。持っていやがったのか!?」

「"調教の鎖"!」

「今度こそさせるかよ!」


 奴の掌から鎖が伸びる。

 俺が振る枝からも鎖が伸びた。

 まっすぐアルゲインの鎖に伸びていくが、奴のソレは寸での所で軌道を変える。


 分かっていれば対処は簡単だ。

 

 一本目・・・の枝を振った後、二本目三本目、四本、五本とを僅かにタイミングをずらして投げるだけ。

 狙ったのは一本目に投げた鎖の上下左右。


 アルゲインの鎖が軌道を変えた瞬間、後発の俺の鎖が進路を塞いだ。

 奴と俺の鎖がぶつかり合い、キーンっと音を立ててはじけ飛ぶ。

 物体のない物同士でも、スキルならぶつけられるのか。


 ぽーんっと空に舞い上がった調教の鎖は、弧を描いて落ちていく。

 跳ね返って来た鎖と繋がった枝から手を離せば、俺の調教の鎖は消え、そして──


「ぎゃふんっ」

「あ……」


 アルゲインが投げた鎖は、アルゲインの頭に落下した。


「じ、自分の調教の鎖が命中すると、どうなるんだ?」


 アルゲインの奴、ぼぉーっとしているけど……はっ、そうだ!


「みんな、大丈夫──か?」


 ボリスとボスのことばっかり見ていて、後ろの状況を見ていなかった。

 いくら雑魚とはいえ──と思ったのだけれども。


『雑魚っしゅね』

『弟よ、仕方ないでちゅよ。こいつら陸モンスター中、最弱の雑魚でちゅから』

『ボクらみたいな子供でも倒せちゃう雑魚でよかったねぇ』


 いや、君らが強すぎるんじゃないですかね?

 やっぱ親が上級モンスターだと、子供もそれなりに強いのか。


『ボスおじちゃん、どうなるの?』


 とてとてとゴン太がやって来て、心配そうにボスとボリスを見つめた。

 で、


『え? ボ、ボリス??』

『わぁーっ。ボリス、燃えてるでしゅ!?』

『ど、どうしたでちゅか、ボリスは?』

「あぁ、なんかな……進化したみたいなんだ」

『『えぇー!?』』


 まぁビックリするよなぁ。

 

 ボリスは蹲るボスを見下ろしている。


「ボ、ボリス。とーちゃんは別にお前のことを嫌っている訳じゃないぞ。それは調教スキルで無理やり従属させられてるんだ。そう責めてやるなよ」

『オ、オ父サンハ、本当ニ僕ノコト嫌ッテナイ?』

「ないない。今はまだ奴のスキルが解けてないからぼぉっとしているが、大丈夫だって」

「ウーク、あっちから人がいっぱいくうよ」


 あっち?

 シアが指さすのはティアットの町の方角。

 やって来たのはイスル公だった。


「ルークエイン男爵、無事か!?」


 そういやこの人、いつのまにかいなくなってたなぁ。

 

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