第139話:大地の幻獣
振り出しに戻った。
ひとまず町へ戻って冒険者ギルドで情報を探したが、これといって目ぼしいものは見つからず。
ただギルド職員も冒険者も、口を揃えてみんなこう言う。
「珍しいモンスターなら、ティアムン領にいるアルゲインという男が趣味で集めている」
──と。
しかも驚いたことに、アルゲインという男は召喚士ではないのだとか。
「え、召喚士じゃない?」
「あぁそうだ。モンスターを従わせているから、よく召喚士に間違えられるようだけどな」
「あの方はね、『調教の才』という『ギフト』を持っているのよ。召喚士のように魔法でモンスターをテイムするんじゃなくって、調教で従わせてるってこと」
とある冒険者カップルに酒を奢りながら話を聞いた。
「調教……」
と聞いて思い浮かべるのは、鞭持ってピシピシしながら火の輪っかを動物に潜らせるサーカス的なもの。
聞けば割と想像通りなんだが、召喚士のテイミングと違うので強制的な従属しかないそうだ。
「けどまぁ、アルゲイン卿は気位は高いが実力が伴ってない」
「そうそう。大口叩くわりに中級モンスターを従属させるのがやっとですもの」
「中級でも特に弱いほうだな。ほら、この前はウェア・ウルフの調教に失敗して、部下が何人か死んだとか噂になってたろ」
「あったあった。下級モンスターならたっくさん従属させているんだけどねぇ」
ウェア・ウルフは半獣半人のような姿のモンスターだったな。パワーとスピードがあって中級クラスの中でも中堅に位置するモンスターだったか。
「ま、そんなんだからアンディスタンの実家を追い出されたんだろ」
「え、アンディスタン?」
思わぬところで思わぬ国名が出てきたぞ。
「あら、違うわよ。あの人、自分から家を出たはずよ。伯父がアンディスタンの公爵で、でも父親は貧乏子爵。貧乏暮らしが嫌で伯父を頼ったら、そいつから見下されて、それに我慢できずアンディスタンを抜けたって話よ。伯父ってのが確か、最近謀反を起こして処刑されたはず」
・ ・ ・ ・ ・ ・ え?
なにそのどこかで聞いたような話。
「もしかしてその伯父って、アッテンポーとか言っちゃう?」
「んー……そんな感じだったかも?」
変なところで繋がりがあるのかよ。
あぁ、アルゲインって男に会うの嫌だなぁ。
「なんだあんた、アルゲインについて調べているのか?」
「え……いや。会いたいなと思ってさ」
いかつい男がやって来て、俺の隣の席に座った。
「ギルドの入口前にいた角シープーは、おめーのか?」
「あ、あぁ」
ボリスとシアは外で待って貰っている。ちらっと見ると人だかりが出来ていて、何をしているのか気になった。
「いいシープーだな。俺は召喚士なんで分かるんだよ」
「お、召喚士だったのか。ボリ──シープーは大人しくしてましたか?」
「おお。みんなからもてはやされてるぞ」
外面いいなぁ、おいつ。
このいかつい召喚士にも酒を奢り、アルゲインの事について尋ねた。
が、あまりいい顔はせず、一言「止めとけ」とだけ言った。
「お前さん、アルゲインにあの角シープーを売ろうとしているんだろう?」
「……売るかどうかはまだ決めていない」
「だったら止めとけ。あんな毛艶のいい角シープーは、そうお目にかかれないぞ。ずいぶんと賢いようだしな」
いかつい顔して動物モンスタースキーだな。
彼が言うには、アルゲインの調教はかなり酷いもののようだ。
従うまで鞭で打ち、従ってからも鞭で打つ。『調教の才』のおかげで、どこまでならモンスターが耐えられるか、どこからが耐えられないのか分かるそうな。
「殺されはしねー。けどそれじゃああんまりだろ?」
「……そう、ですね」
「それにだ。奴が今欲しがってるのは、伝説の魔獣だ。ドラゴンとかそういうのじゃなく、存在が噂されるレベルのな」
「噂?」
「あぁ。詳しく知りたきゃ『これが伝説の魔獣だ! 決定版』って本でも読むんだな。ギルドの書庫にもあるはずだ。金を払えば一般人でも見せてくれるぜ」
なんか急に、自分の著書を宣伝する作家みたいなセリフになってたな。
別に伝説の魔獣とかどうでもいいんだけど。アルゲインってのが犯人っぽいのか、そうでないのか。それが一番重要な訳で。
「そういやその本にいたな」
「いた? とは何が」
男はずいっと顔を寄せ、神妙な面持ちで口を開いた。
「大地の幻獣・角シープーってのがな」
「ボリス!? お前、進化したら大地の幻獣になるのか?」
『ペ、ペェ?』
「わかんないって」
分かる訳ないよなぁー。体は大きくても、こいつはまだ仔羊同然なんだし。
酒場を出てすぐ、冒険者ギルドへと向かった。
お金を払って本を読ませて貰うと、あの男の言った『大地の幻獣・ホーンシープー』というページが確かにあった。
本には三百年前に一頭だけ、存在が確認されたと書かれていた。
召喚士と共に長い間旅をした角シープーが、進化して大地の幻獣になった──とも。
本を読んだあと、すぐに食料と必要な物を買いこんで町を出た。
「問題はな、その本に書かれていた進化した角シープーの特徴なんだよ」
『ペ?』
『なんでしゅか、なんでしゅか?』
クラ助とケン助はボリスの背中に。ゴン太が俺の頭の上から周りの景色を楽しんでいた。
三匹は元のサイズに戻っても、移動がかなり遅い。なので小さいまま、ボリスの背中に乗って移動して貰うことにした。
興味津々なちびっこたちに聞かせたのは、
「毛艶がよく、他の角シープーたちより体が一回り大きい。パワーも一段階上」
毛艶は正直俺には分からない。だけど酒場であった召喚士は言っていた。
ボリスの毛艶が良い、と。
俺から見ればボリスもボスも、もふもふに違いはないと思う。
「シア。お前から見てボリスとボスの毛艶に違いがあると思うか?」
「んー……みんなもふもふで気持ちいいぉ」
「だろ? 毛艶はいいんだよ、きっと他の角シープーを比べても。それに体の大きさだ。ボスも、そしてボリスもでかい」
『ンッペー! ペウペェー』
「僕も進化できうって聞いてう」
それは分からない。分からないが、分かるのはボスたちは進化した角シープーの特徴を持っているということだ。
それにパワーだ。
本国で角シープーを見たことあるとう騎士が言っていた。
ボスの技は桁外れだって。
その時にはステータスの実のせいだと思っていたが、よくよく思い返せば出会った当初からそうだったんだよ。
ダンジョンに潜るときに、ボスが見せてくれたホーン・デストラクション。あれで木が吹っ飛んでいたが、騎士が知る角シープーのそれは、木に握りこぶし大の穴を空ける程度だって。
ボスは出会った当初からその兆しがあったのかもしれない。
あの時聞こえた声が……
あれがボスの声だったなら……
ボスは間違いなく、
「大地の幻獣に進化する」
『ペッ!』
急いでティアムン領に向かわないと。
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