第138話:犯人でなきゃいいんだけどなぁ。

 着替えを持ってこなかった。

 だからシアは俺のシャツを着て寝ている。


 別に何もやましいことはしていないのに、なんでこんなに罪悪感というか、ドキドキしなきゃならないんだ。

 明日、俺の分も含めてまずは着替えを買わなきゃな。


 そして翌朝。


「シアも行くぅ」

「行けるわけないだろう! そんな裸同然の恰好で町を歩く気が!」

「う? ウークの服、来てうし平気」


 平気じゃない!

 むしろ兵器のほうだろうっ。男を魅了する兵器だよ!


 駄々をこねるシアを置いて町に出て、それから急いで服屋を探した。

 はぁ……女物の下着買わなきゃならないとはな……。パンツはまだいいとして、ブラジャーってサイズどうなってんの?

 Aカップではない。Bでもない。CでもDでもないだろう。いや実際カップサイズの測り方とか知らないけどさ。


「あ、あのー、すみません」

「は……い?」


 女性用下着専門店へと入った俺。店員さんから不審者を見るような視線を向けられた。


「……い、妹が! 妹がその……下着を、その……汚して、しまいまして」

「い、妹さんなんですね」

「はいっ。妹なんです! そ、それでですね、替えの下着が必要になりましてっ」


 店員さんは分かってくれたようだ!

 身長と、あと体形を伝えると、それに合うサイズのパンツとブラジャーを持って来てくれた。

 けどなんかな……めちゃくちゃレースだのフリフリだのついてて、パンツに至っては布の面積が少ない。

 ちょっと刺激的なんですけど。


「もう少し大人しめの、ないですか?」

「あ……はい、お待ちください」


 再び店員さんが品物を持って来る。うん、今度のは良さそうだ。

 しかしこの世界のブラジャーって、まじまじと見たのは初めてだが、地球のソレとはずいぶん違う気がするな。

 もう俺の記憶も曖昧になってきているけどさ。


 細かいサイズはなく、特大、大、中、小、特小の五段階に分かれているそうだ。

 調節は胸元の紐でするのだという。


「へ、へぇ。そうなんですねー」

「えぇ。お客様のお連れ様の様子ですと、恐らく中では少しきつそうな気もしまして、大にしておきました」


 大……でかいな。

 俺の服を着せた状態で、こんなんだというのを口頭とジェスチャーで伝えた結果のサイズだ。

 実際どうかは分からない。

 けど小さいよりはまだ調整の利く、大きめサイズのほうがいいだろうと。


 それを買って次は服だ。

 店を出るとき店員の女性がにやにや笑っていたのは気にしないことにしよう。


 冒険者向けの服屋での買い物はまだいい。身長と体重を伝えれば服を出してくれるから。

 だが問題もある。


「銀髪の獣人美少女ちゃんねぇー。じゃあこれはどうかしら?」

「露出が多い」

「ぼいんちゃんなんでしょ? いいじゃない、このぐらいでぇ」


 おネエ言葉の男が出してくるのは、それも胸の谷間がくっきりはっきり見えそうなのや、ちょっとの風でおパンツ丸見えのようなデザインの服ばかりだ。


「せめて下はズボンにしてくれ……」

「んふふ。可愛いーの選んだげるわ」


 服の上から谷間を隠せるような上着でも買ってやろう。

 おネエ店員があれでもない、これでもないとやっと見繕って来たのはハーフパンツだ。丈は……まぁ膝上だけどこのぐらいならと妥協できる。

 それから丈の短い肩掛けポンチョと、あとは俺の服。

 おネエは俺のも見繕ってくれたが、僅か三十秒で持って来た。シアのときは十分以上掛かってたのに、この差は……。


「んふふ。まいどありー」


 おネエの投げキッスを躱しながら店を出ると、早くも懐が寒くなって来た。

 女物ってたっけーなぁ。






「ピッタリぃ」

「そうか、よかった」


 顔を覆っていた手を除け、服を着たシアを確認。

 ポンチョを着てないとやっぱり兵器だな。


「宿を出たら屋台で飯を買おう。あいつらの分も必要だしな」

「おー!」


 馬小屋でボリスたちと合流し、ゴン太とクラ助ケン助をシアの鞄へ。

 それから屋台で飯を大量購入し、まずは町の外へと向かった。

 首都は城壁に囲まれた町で、壁沿いに門から離れるようにしてぐるっと周れば、あっという間に人の気配はなくなる。

 更に茂みに入って、そこで朝食にした。


「そういや、体が小さいけど食べる量はどうなんだろう?」

『いっぱい食べれるでしゅ』

『小さいの維持するのも大変なんだよー』


 さっき買ったの、三日分を想定していたんだけど、こりゃあ今日で終わるなぁ。

 

 食後は衛兵に聞いた屋敷へと向かう。

 城壁からそう離れていない所に高台があって、その上に屋敷が見える。

 が、そこへ登るための道は遠いようだ。


 屋敷に到着するのに三十分ほど掛り、ようやくたどり着いたそこで──


「召喚士? あぁ、アルゲイン様でございますね? 面会のご予約は?」

「いえ、ありません。し、召喚士の方がここにいると聞き、その──こいつの具合を見てもらいたくて田舎から出てきました!」


 と、ボリスをぽんぽんっと叩く。


『ンペ!?』


 ボリス、上手くやってくれ。頼む。


 と視線で語る。


「角シープーですか。どこか具合でも悪いと?」

「そ、そうなんですが、よく分からないもので」

『ペ!? ペ、ペ……ンン、ンン、ンー』


 ボリスの演技が始まった。お腹が痛いフリかな?


「おや、体は大きいのに、声は仔シープーのようですね。太らせ過ぎたのでは?」

「あ、こいつ大きいんですか──」

「ダイエットさせなさい。ちなみに召喚士であるアルゲイン様はここにはいらっしゃいません」


 な、んだって?


「ティアムン公爵に呼ばれ、先日お戻りになられました」

「戻った……ってことは、ここが自宅ではなく?」

「ここはティアムン公爵の別荘でございます。アルゲイン様は公爵に雇われた、専属召喚士ですので」


 公爵と聞いて、何故かイヤーな予感がするのはアッテンポーのせいだろうな。


 はぁ。願わくば、そのアルゲインってのが犯人でなきゃいいんだけど。

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