第129話:さぁ来い!

「さぁ、来い!」

『……本気か?』

「…………本気だ!」

『今物凄く溜めたであろう!』


 浜辺でゴン蔵と向き合い、俺は『錬金BOX』を構えていた。


 津波を発生源近くで凍らせる。


 この作戦の為に、俺もゴン蔵の氷ブレスが欲しい。そう思ったから、俺に向かってブレスを吐け! とお願いしている。


「ブレス石欲しいんだよぉ」

『それは分かっておるが、ちょっとでもミスれば主よ、死ぬぞ?』

「そこはゴン蔵がミスしなきゃいい訳だ」

『主が死んだら我のせいか!?』

「まぁまぁ。ブレスの規模を絞って、これっくらいの太さで箱の中にブパーッってしてくれりゃあいいんだし」


 っと、その前にステータスを確認しておくか。




 ルークエイン・トリスタン

 人族  16歳  男

 

 筋力:249  肉体:207  敏捷:178

 器用:130  魔力:135


【才能】

 錬金BOX59


【ギフト】

 付与20




「肉体200超えてるんだけど、堪えれると思うか?」

『高いのぉ。ステータスの実も、一日二個とは言え、塵も積もればなんとやらか。まぁちゃんと的を絞ってやるわい』

「頼む。箱のサイズは295センチだし、かなり大きいからたぶん大丈夫だろう」


 ただこのサイズになってくると、箱の重さ自体はなくても大きくて視界を塞ぐんだよな。

 次のレベルアップで箱の一辺が3メートルになってしまうし。

 そのうち透過オプションとかつけばいいんだけどな。


『ではゆくぞ、ルークエイン。覚悟はできておろうな?』

「出来てない! さぁ、来いっ」


 ゴン蔵が息を吸う。

 そして頭を仰け反り、そこで呼吸を止めた。


 そこから先は箱で見えなかった。

 見えなかったが──


「きゃあぁぁぁーっ!?」

「うわぁぁーっ、ウーク死んじゃうのおぉぉーっ」


 そんな悲鳴が聞こえて横を見ると、森から出てきたエアリス姫とシアがいた。

 

「へ?」


 ぽすんっと、箱の中に何かが入った感触が伝わる。


「お! ゴン蔵ブレスゲット」

「なな、なにをなさっているのですがルーク様!?」

「ウーク危ないっ。ゴン蔵、めっ」

『我、なんで怒られるん?』


 なにか勘違いをしているような二人に、事情を説明。

 すると──


「危ないに決まっています!」

「ウーク、ゴン蔵、反省すう!」


 やっぱり怒られた。理不尽だ。


「だから、ゴン蔵ひとりだとカバーしきれない所もあるだろ?」

「そこはク美様にお願いすればよいのではないですか?」

「いやダメだ」

『え、わたくしダメなのですか?』


 ク美も出てきた。

 ダメに決まっているだろう。


「考えても見てください。地震が起きて津波が発生するってことは、高確率で海底火山が噴火した時です」

「そ、それはまぁ、そうですけど」

「ってことはですよ。そんな噴火の発生源にク美を行かせることになるんです。焼きイカになったら、どうするんですか!?」

「あっ──そ、そうでしたわ。ゴン蔵様でしたら上空からブレスを吐けるでしょうが、ク美様は……」


 もちろんク美にも協力はして貰う。だが噴火口からずっと離れた場所でだ。

 もし津波がすり抜けた場合、ク美には逆サイドから水の防壁で少しでも勢いを殺して貰おうと思っている。それがどこまで上手くいくか分からないので、ボスのブレスで凍結させるのが一番確実なんだろうな。


「──という訳なんだ。ク美、いけそうか?」

『はい。ゴン蔵さんがブレスで固めた氷を乗り越えた津波でしたら、その時点で津波の規模も速度も落ちているでしょう』

『ふん。取りこぼすものか』

「ただ津波は一方方向に発生するものじゃない。中心から波紋のように広がるだろう。だからゴン蔵だけに頼ってもいられないんだ」


 だから俺がゴン蔵ブレス石でカバーする。

 まぁ実際は島に向かってくる津波だけをどうにかできればいいんだろうけど、どうせなら全部防ぐ。


 問題はどうやって海上まで行くかだな。


「ゴン蔵の背中に乗せて貰ったんじゃ、分担する意味もないしなぁ」

『いっそあの島で待機するか?』

「噴火したら真っ先に死ぬ奴じゃん」


 そう言うとゴン蔵がニタァーっと笑う。

 まったく、ロクなドラゴンじゃないな。


「しかしルーク様。実際に火山がいつ爆発するか、分からないのでしょう?」

「えぇ、まぁ。兆しがあるってだけなので」


 もしかしると噴火しないで、このまま収束するかもしれない。

 それならそれで有難いんだけどな。


「いったいいつまで、噴火に怯えて暮らすことになるのでしょうか……」

「何事も無ければそれが一番ですけどね」

「地震、シア嫌い」

「あぁ、俺もだ」


 南の海を見つめ、俺は少し不安になった。

 いつ噴火するのか。

 今? 明日? 明後日?

 時間は? 寝ている間に噴火したら、計画通りに津波を止められるのか。


 不安で仕方がない。


 だけどそれを表に出すわけにはいかなかった。


「大丈夫。いつ噴火しようと、俺がこの島を守ってみせる」


 そう虚勢を張る。


『あぁ、ではこうしませんか?』


 その時、ク美の明るい声がした。


『計画的に火山を噴火させるのです』


 ──と。


「け、計画的に?」

『うふふ。計画的に、ですよ』


 いったい、ク美は何を言っているんだ?

 ご利用は計画的なのか?


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