第130話:計画的・・・

「どうだった、ク美?」


 海底の溶岩道を調べに行ったク美が戻って来た。


『はい。あの小島からこちら側と、その真逆の方向に溶岩の通り道があるようです』

「島にも伸びているのか……こっち側が噴火する可能性も考えなきゃならないか?」

『いえ。大丈夫だと思います。ずっと深く沈み込んでいますし、寧ろ小島より南側のほうが噴火の危険があるかと』


 そうか、それはよかった。


 ク美の計画的にとは、こちら側から火山の噴火を誘導させるというもの。

 島民の避難準備を整え、それから意図的に噴火させる。


 やり方はいたってシンプルで、ク美が海中から溶岩溜まりに向かって攻撃。


 これだけだ。


 ク美は攻撃と同時にその場を離脱。

 噴火して津波が発生すれば、ゴンと俺とでそれを凍らせる。


 噴火させるのは一カ所だけではなく、小島の南側でも同様に行う。


『その方が噴火のエネルギーを、より多く分散させられますので』

『そうなれば正常化も早いだろうし、その後の心配も少なくて済む』

「溶岩道から溶岩を絞りだすのか」

『そんな感じです』


 俺たちはさっそく、それぞれに分かれて準備をすることに。


「姫、ク美の作戦をみんなにも伝えるので、人を集めて貰えますか?」

「わかりましたわ」

「シアはボスを呼んで来てくれ。あいつらは暫く山に避難をして貰わなきゃならないからな」

「わかったお」


 そして俺は、箱の中のゴン蔵ブレスを付与するために石を集めた。

 とりあえず百個ぐらい作っておこう。

 それからポーチの整理だ。


「うぅん、いっそ石ごとにディメンション・ポーチでも錬成するかなぁ」


 ぼろぼろのアイテムリュック──は卒業している。

 去年の誕生日のあと、エアリス姫とシアが新しいのをくれた。

 リュックのままだが、生地はしっかりしているし、ポケットもいくつかあって見た目も機能性も優れた鞄だ。

 それにディメンション・フォールを付与しなおしたのだが。

 何もアイテムボックスは一つじゃなくていいもんな。


「とりあえず今回は氷系付与石だけでいいし、ディメンション・フォール石を量産するだけにしておくか」


 アイテムリュックを箱に入れ、ただのリュックとディメンション・フォールとに分解。

 リュックを出して、代わりに石を大量投入して付与。

 石一つとリュックを再び錬成してアイテムリュック完成っと。


「あとはポーチに付与して、石を入れておこう」






「──という訳で準備ができ次第、計画的噴火を行う」


 集まったのは昨日とほぼ同じ顔触れだ。違うのは冒険者だろうか。

 ダンジョン内にいる冒険者に伝えるため、昨日からダンジョンに入ったのもいるようだ。

 窓の外にはゴン蔵とボスも来ている。


「し、しかしルーク様っ。何もあなたが海上に出られなくても」

「じゃあ危険な作業を、ゴン蔵とク美の二人にだけやらせるって言うのか? 二人は俺の部下じゃない。友達だ。

 同時に二人は人間ではない。モンスターだ。にも拘わらず、二人はこの島を守ろうとしてくれているんだ。俺だけぬくぬくと安全な場所で待ってる訳にはいかないだろう?」

「いやだからって……他の者にやらせればよいではないですか」


 それが出来ないから俺がやるんじゃないか。

 付与した石は、俺以外の者が投げても反応しない。俺にしか出来ない仕事なんだ。


「大丈夫だ。万が一津波に飲まれてもいいように、ク美がコーティング魔法を付与してくれるから」


 俺の周囲を空気を含めて水泡で包むという魔法だ。

 これがあれば津波に飲まれて海中に沈んでも息が出来るし、水泡なので浮く。


 なので予定としては、ゴン蔵かク美に運んで貰い、シアの氷魔法石で海上を凍らせてスタンバイ。

 なるべく広範囲を凍らせて、走りながら石を投げたいと思っている。


 こんなバカな作戦、普通なら考え付かないよな。

 ふっふっふ。俺の『付与』が冴えわたるぜ!


 ──で、結構みんなに反対はされたものの、最終的にそれが出来るのは俺しかいないってことで話はまとまった。


 出来るだけ早い方がいい。

 時期を待ってなんて言ってたら、避難が出来ていないうちに噴火してしまう。


「日暮れまであと五時間だ。騎士団第一小隊と海軍騎士団以外は、全員魔導転送から王都に避難させてくれ」

「お父様には魔導通話で既にさきほどご連絡いたしました。ご安心ください。一時避難用の住居はすぐにも用意できますわ」

「ありがとうございます、エアリス姫。では全員、島民の避難を開始させてくれ!」

「「はっ」」


 避難自体はそう時間は掛からないだろう。

 島民の数は四百かそこいらだし、あちこちにばらけて住んでいる訳でもない。

 俺は窓辺に立って、外のゴン蔵とボスに話しかけた。


「ボス。家族を連れてゴン蔵の巣穴に避難してくれ。もし津波が氷を抜けるようなら、みんなと一緒にもっと高い所に上るんだぞ」

『ベェェー、ベベ』

『自分に出来ることはないのかと言っておるが』


 うぅーん。ボスに出来ることと言っても、ゴン蔵のように空も飛べないし、泳ぐこともできないもんなぁ。


「お前は家族と、あとモズラカイコたちを守ってやってくれ。しっかり南の海を監視するんだぞ」

『……ベェ』


 不満そうな返事だな。

 仕方ないじゃないか。適材適所ってものがあるんだし。


『ボス。ゴン太を頼むぞ』


 ボスは無言で頷いた。

 その様子を見ていたのだろうか、島ではあまり見かけない冒険者一行がやって来て、感心したように頷いていた。


「噂はお聞きしておりました。しかし古竜をこんな間近で見られるとは驚きです」

「はは。あんたらもゴン蔵に挑みに来た冒険者か?」

「……タイミングが悪かったですよねぇ」

「そうだな」


 今の間はなんだ?

 ゴン蔵目当てじゃなかったのか。

 それに、彼らの興味はゴン蔵よりもボスなんじゃないか?

 視線はゴン蔵なんだが、ちらちらとボスの方も見ているようだ。


「さて、我々もダンジョンに避難しようか?」

「あぁ、そうだな」

「津波が来るにせよ来ないにせよ、ダンジョン内なら安全だからな」


 そう言いながら、冒険者一行は山へと向かった。

 

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