第127話:寝不足

 ドドリアンハウスのガラスを真っ先に再錬成をし、完成したガラスはロクと義理息子カールさんに任せて町の修理へ。

 その頃には家の者がガラス片をあらかた拾い集めてくれたので、サクっと錬成。

 全部の修理が終わったのは、どっぷりと陽もくれた時刻だった。


「はぁ……疲れた」

「お疲れ様です、ルークエイン様。しかし被害がこの程度でよございましたね」

「あぁ。まぁ地震には驚いたけど、確かにあれは震度3ぐらいだったかも」

「しんど? なんでございましょうか」

「あ、こっちの話」


 この世界には地震の規模を示す専門用語なんてない。

 大きいな小さいか、その程度だ。


「けど、震源地はどこなんだ……」


 ダンジョンの入口がある山は小さく、あれは火山じゃあない。

 この島もプレートの上にあるとか、そういうのだろうか。

 調べる術はないんだよなぁ。


「わたくし、本国で調べてきましょうか?」

「姫。調べるって、何をです?」

「はい。この島が我が国の領地であった時の、島の状況をです。過去にも地震があったか、調べることはできますので」

「それは有難い。お願いできますか?」


 屋敷の食堂で遅めの夕食の席で、エアリス姫がそう言ってくれた。

 姫はシアに視線をやり、


「わたくしがいない間、抜け駆けは許しませんわよ」


 という。

 抜け駆け? いったいなんの話だろうな。






 翌朝。余震でもきやしないかと気になってあまり眠れず。


「ルーク様。せめてお昼寝をなさってくださいね」

「はは、子供じゃあるまいし」

「大人でもお昼寝はしますっ。いざという時に寝不足では、力を発揮できませんわよ」


 うっ。まぁそうなんだけど。

 明るいうちに少し休んでおくかな。


 魔導転送を使って王都へ向かう姫を見送り、それから町をぐるっと一周。


「家が一軒も倒壊しなかったのは、本当によかったな」

「お掃除だけー。よかったねぇ」

「あぁ、よかった──ん?」


 今日は久々の晴れ間がのぞき、空を見上げると黒い影が。

 それは急下降してきたゴン蔵だった。


『主よ、ちと話がある』

「ゴン蔵、どうしたんだ?」

『うむ。まぁ乗れ』


 そう言われ、差し出された手に俺とシアが乗った。

 乗ってすぐにゴン蔵は飛び立ち、海岸へと向かって羽ばたく。


『ルークエインよ。去年の主の誕生日のおり、島を出てやや南にちっさい島があっただろう。覚えておるか?』

「あー、ちっさい島ね。お前がごろ寝すると尻尾がはみ出した」

『そうだ。その島が気になっての』


 気になる? なにが気になるっていうのだろう。

 まさか、あの小さい島が実は……巨大亀の甲羅だったー!!!


「なーんてな」

「う?」

『どうした、ルークエインよ』

「いや、なんでもない」


 とか馬鹿なことをやっている間に、島の南側の海岸へと到着した。

 この辺りは特に開拓も何もしていない。

 砂浜に下りると、ゴン蔵は南の海上を指さした。


『見えるか、ルークエイン』

「無理です」


 お前は見えてるのかよ。人間とドラゴンの基本性能を、一緒にしないでくれ。


「ウーク、煙でてう」

「煙?」

『煙ではない。水蒸気だ』


 水蒸気?

 シアが見ている方角も、ゴン蔵が指さしたのと同じ方角だ。シアにも見えているのか。

 しかし水蒸気って、なんで海の上で?


『去年のあの島。着地したのち感じたのだがの。我は氷竜だ。氷を司るドラゴンだ』

「それがどうしたんだ?」

『我は火を嫌う。熱も嫌う。そして雷もだ』


 ゴン蔵が何を言おうとしているのか、まったく見当もつかない。

 いったいどうしたんだ?


『ルークエインよ。あの小島の下に、海底火山がある』

「海底か……海底火山!?」


 海底火山があって、地震があって、水蒸気が出ている。


 お、おいそれって……。


『海底火山噴火の兆しだ』


 それはちょっと、マズくないか?

 船でだいたい半日ぐらいか。そんな距離にある海底火山が噴火なんかしたら……。

 溶岩とか、そのあたりの影響はそうでもないかもしれない。

 だが津波は?

 規模が大きければ、確実に島を襲うだろう。


 海岸から町まで、距離にして2kmぐらい。

 届く……よな。


 海岸より多少は海抜が高いだろうが、雀の涙程度だろう。


『ク美が戻って来たぞ』

「ク美が? 調査して貰っていたのか」

「ウーク、海底火山ってなぁに?」

「ん。海の中にある火山さ。火山は知っているか?」

「知ってう……怖いね……」


 シアが寄り添う。腕を絡め、不安そうに顔を摺り寄せた。

 その肩を抱き寄せ、大丈夫だと言って安心させる。


「ク美、小島を見に行ったのか?」

『はい』

「どうだった?」


 俺の質問に、ク美は瞳を伏せる。


『近いうちに、噴火しそうです』


 彼女の言葉は重く、そして声には悲壮感が漂っていた。


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