第114話:閑話-小さな冒険2
「ゴーンー太。あーそーぼっ」
ゴン蔵おじちゃんの家には、今日も冒険者が来ていた。
負けるのが分かってるのに、どうして挑みに来るのかなぁ。
『ま、参ったぁ』
『ふむ。十分持ち堪えたか悪くない』
疲れ切った冒険者に、ゴン蔵おじちゃんが労いの声を掛けてる。
たった十分で褒められるなんて……。
ううん。ゴン蔵おじちゃんをその辺のモンスターと一緒にしちゃダメだよね。
僕のお父さんよりずっとずっと強いし。あとクラ助やケン助のお母さんも。
「ボリスー、今日も浜に行く?」
「うん、行こうっ。ケン助が早く島に馴染めるように、島のことをいっぱい教えてあげないとね」
「ケン助が早く元気になれるように、ルークからステータスの実を貰って行こうよ」
「そうだね!」
魚にステータスの実を付与して貰ったほうがいいのかなぁ。
とりあえずルークに相談しよう。
「父ちゃん、行ってくる」
「うむ。決して二つ以上のステータスの実モドキを食べさせるでないぞ」
「分かってる! でもそんなにお腹痛くなるの?」
「ルークエインに聞くといい」
僕とゴン太は町へ向かった。
座り込んでいる冒険者の人たちが『ゴン蔵さん、モンスター語も喋れるのか?」って聞いていたけど、そんなの当たり前じゃん。
ゴン蔵おじちゃんやゴン太は、人語を喋れるだけ。あとドラゴン種族の中には、ドラゴン語という特殊な言語を話せるのもいるんだって。
ゴン太は喋られないけど、ゴン蔵おじちゃんは喋れる。いつかゴン太もおじちゃんから学ぶって言ってた。
角シープー語って、あるのかなぁ。
『ケン助用?』
「そう!(ペェー!)」
『ケン助が早く元気になるように、アレの実を付与した魚が欲しいのー』
『もう元気じゃないのか?』
『もっと元気にー』
「ケン助のほうがクラ助より体が小さいし、お兄ちゃんなのにかわいそう」
僕はルークの言葉が分かる。何故なんだろう?
だけどルークは僕の言葉を理解できない。
なんでだろう?
僕の言葉はゴン太が通訳してくれる。今日はシアおねえちゃんはいないみたいだ。
『アレを付与したものを食ったら、体が大きくなるわけじゃないと思うけどなぁ。まぁいいけど』
『お魚だよ!』
『生きたのは町にはないぞぉ』
「いいよ。鮮度が高ければクラ助もケン助も食べるから」
『いいよ。鮮度が高ければクラ助もケン助も食べられるから』
みんなで造ったお屋敷にルークが入っていく。
待っている間、窓からお屋敷で働く人間の女の人たちが僕らを見ていた。
『本当に可愛いわねぇ』
『わたくし、こんな間近で角シープーやドラゴンを見るの初めてです』
『凄いわよね、ルーク様。角シープーは穏やかなモンスターだけど、まさかドラゴンよ! ドラゴンまで従えてしまうんですもの』
従えているんじゃないよ。
でも……お父さんもゴン蔵おじちゃんも、それにク美おばさんも、みんなルークのことを気に入って、名前を貰ったんだ。
名前を付けられることを受け入れるってことは、『めいゆうをむすぶ』ってことなんだってお父さんが言ってた。
難しいことはよく分からないけど、親友みたいなものなのかな。僕とゴン太、クラ助ケン助みたいに。
『おーいゴン太。もう味付けしちまった魚しかないんだけど。大丈夫か?』
ルークがお皿を持って出てきた。
ふわーっといい匂いがする。煮つけの魚ってやつだ!
『きっと大丈夫! 美味しいもんっ』
「僕もそれ好き! とっても好き!」
『そうか。じゃあちょっと待ってろ。こっそりやらなきゃいけないからな』
ルークがまたお屋敷の中に入って、暫くして戻って来た。
『じゃあこれな。一切れで一つ分付与したぞ』
「こっちはー?」
ルークは二つの包みを差し出した。ゴン太が持っているほうが付与が付いているらしい。
『ボリスに渡したのは付与なしだ。ケン助だけにあげたら、クラ助がかわいそうだろ?』
「僕も欲しかった……」
『僕たちも欲しかったぁ』
『おいおい。じゃあ帰りにクラ助たちに頼んで、魚を貰ってこい。明日、調理を頼んでやるから』
『はーい』「はーい(ペェー)』
浜辺までは、ルークが作ってくれたゴン太用『車』で向かう。
小さな馬車なんだけど、引っ張るのは僕。
車に乗り込むのも簡単。丸くなっているベルトに頭を通すだけ。
「行くよー」
「いいよー」
走るのは自信あるんだっ。
あっという間に浜に到着すると、クラ助とケン助の姿が見えた。
「二匹ともー、お土産持って来たよぉ」
「美味しい魚だよ!」
それを聞いて二匹が嬉しそうにやって来た。
「わぁ、いい匂いでしゅ」
「くんくん。ふわ、ふわわわわー」
「ケン助はこっち」
「クラ助のは僕が持って来たヨ」
僕が差し出した包みを、クラ助は長い腕と吸盤を使って器用に解いて行く。
あぁ、美味しそう。
「美味しいでしゅ!」
「美味しいでちゅ!」
ケン助、これで大きくなれるかなぁ。
でもルークが言ったように、ステータスの実を食べたからって大きくなれるか分からないもんね。
もっともっと美味しいお魚をいっぱい食べさせてあげたいな。
だけど僕は……泳げない。
お魚を取ってあげたいけど、僕には無理。
それにルークたちが作った養殖場もあるしなぁ。
「ボリス、ゴン太、ありがとうでしゅ」
「ありがとうでちゅ」
「どういたしまして。そうだ、ルークにお魚を取ってこいって言われたんだ」
「お魚でしゅか? 大きいのでしゅ?」
「食べるなら大きい方がいいよねボリス!」
「大きいのいいね!」
養殖場で泳いでいるお魚は、大きいのもいる。あれ一匹全部食べられたら、満腹になるかなぁ。
「あまり大きいのだと、お料理するのが大変よ」
ざざぁーんっと海からク美おばさんが出てくる。
ク美おばさんは大きいから浜へは上がってこれないらしい。クラ助とケン助も、いつかそうなるのかなぁ。
「んー、じゃあどのくらいの大きさがいいのかなぁ」
「中ぐらいでも、すっごくすっごく美味しいのにするでしゅ!」
「そうでちゅ!」
す、すっごくすっごく美味しい魚!?
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