第113話:閑話-小さな冒険1
「こうやるんだ(ンペェー)」
「わぁ(ペ)」
「さぁやってごらん(ンペペー)」
今日から弟妹のジーナ、ニース、キャロル、キャスバルに、人参の収穫の仕方を教えることになった。
僕はお兄ちゃんだから、四匹にちゃんと教えてあげなきゃいけない。
「こらっ。葉っぱを食べちゃダメだろ」
「えぇ~」
「葉っぱを食べたら、人参を掘り起こすのが難しくなっちゃうんだぞ」
僕たちは人間のような指がない。土を掘るのも力任せになっちゃうから、人参がボッキリいったりするんだ。
それを弟妹たちに教えながら、上手に人参を収穫するコツを説明した。
「人参を収穫したらこのバケツに入れるんだぞ」
「「はーい」」
バケツはルークが錬成してくれたもの。僕ら角シープーが咥えやすいように、大きめサイズなんだ。
バケツにお父さんとお母さんたちの分も合わせて十本入れたら、これを咥えて水場へと向かう。
『お、お兄ちゃんじゃないか。妹や弟に人参の洗い方を教えに来たのか?』
「そうだよ(ンペー)」
井戸の周りにはルークの部下の騎士さんたちがいた。
僕知ってるんだ。騎士っていうのは主君を守ったり、人間の国同士が戦争になると国を守るために戦う人だって。
ゴン太のお父さんのゴン蔵おじちゃんに教えて貰ったんだ。
でもこの島の騎士さんは畑仕事をしてる。家造りもしてた。
ゴン蔵おじちゃんの言う事って、本当なのかなー?
「お兄ちゃん!? こ、これ、どうやって洗うのっ」
「あ、ごめんごめん。まずはバケツの中の人参を、この桶にひっくり返して出すんだ」
野菜の洗い場には、浅くて大きな桶が置いてある。
隣にはルークが錬成した『じゃぐち』ってのがあって、ハンドルをキコキコ押すと水が出てくる。
「こうして前足をかけて、キコキコするんだ」
「わぁー。お兄ちゃんやらせてぇ」
「キコキコしている間しか水は出てこないからね」
水が出てきたら人参の葉っぱを咥えて、水の中で軽く振り回す。
こうして土を落としたら、汚さないように気を付けてバケツの中に入れるんだ。
「お父さんたちは土がついたまま食べていたんだよ」
「えぇ!? つ、土って食べられるの兄さん?」
「食べれなくもないよ。でも……苦いんだ」
僕も少しぐらい土のついた人参を食べたことがある。
土を食べてもお腹を壊すことはないし、うん●と一緒に出てしまうから大丈夫なんだけど……でも美味しくはない。
食べずに済むならその方がいい。
「お兄ちゃん、どうしてお父さんたちは土を食べていたの?」
「それはねニース。お兄ちゃんが生まれる少し前まで、この島は人間が住んでいなかったんだよ」
「そうだったの!?」
「でも今はいっぱいだね」
僕が生まれた時は、ルークとシアお姉ちゃんの二人だけだったなぁ。
あ、シアお姉ちゃんは人間じゃないけど。
ゴン太がクラ助、ケン助も人間の言葉を話せて羨ましい。
僕たち角シープーも、他のモンスターより知能は高いし、魔獣種族だし、いつか言葉を話せるようになるのかな。
今度お父さんに聞いてみよう。
「さぁ、人参を綺麗に洗ったらバケツに入れて」
「「はーい」」
お家に帰って来た僕らは、さっそくお父さんに収穫を報告。
「ふむ、ふむふむ。55点だな」
「「えぇーっ!?」」
お父さんは収穫した人参を、いつも綺麗にしている台の上に並べていく。
「これは葉っぱをつまみ食いしてある」
「「うっ」」
「これは先っぽが折れている」
「「うぐっ」」
「これは土がまだ残っている」
「「うぐぐっ」」
「明日も頑張れ」
「「はぃ」」
みんなシュンとしてしまった。
だけど美味しい人参を手に入れるためには、努力を怠ってはいけないんだ。
「さぁ、では今日の恵みに感謝して食べようぞ」
「「わーいっ」」
お父さんがみんなに一本ずつ、人参を配っていく。
さっきみたいに厳しいことを言うお父さんだけど、でも本当はとっても優しいんだ。
こうして人参を配るとき、僕ら子角シープーから順に、より大きく、綺麗なものを配ってくれるんだ。
そして自分は一番小さな人参を食べる。
僕もお父さんのような角シープーになるんだ。
「どうしたボリス」
お父さんを見ていたのがバレちゃった。
僕もお父さんのようになりたい──なんて恥ずかしくて言えないよぉ。
あ、そうだ。
「あのねお父さん。僕たち角シープーは人間の言葉を話せないのかなぁ?」
「急にどうした?」
「シアお姉ちゃんは人型と魔獣型の姿を併せ持つ種族だから納得だけど、ゴン太やクラ助、ケン助も人語を話せるんだよ。僕も……僕も……」
僕もルークとたくさんお話したい。
人参を栽培してくれる『のうみん』のおじさんたちにお礼が言いたい。いつも美味しい人参をありがとうって。
だから人語を話したいんだ。
「人語……か。そうだな」
お父さんはそう呟いて家の外を見つめる。その方角には町があって、そこにはルークがいるはず。
お父さんだってきっと、ルークと直接お話したいはずなんだ。
きっと……
「まぁこれを食べろ」
「ステータスの実が付与された人参ブロック?」
これもルークがくれた物。
一日二個までにしなさいって言われてる。食べるとステータスのどれかがプラスされるんだって。
でも他の人間にそのことを教えちゃダメなんだ。
ステータスの実っていうのはとっても珍しくて、滅多に手に入らないモノだ。
「でもルークのあの箱の力を使えば、たっくさん作れるのでしょ?」
「そうだな」
「じゃあそれを売れば、ルークはお金持ちだし、内緒にする必要もないんじゃないの?」
ルークはお金がたっくさん欲しいって言ってた。
珍しい物は高く売れるって、ゴン蔵おじさんが言ってた。
じゃあ──
「しかしそれでは人間世界のモノの流れが変わってしまうのだ」
「モノの流れ?」
「そうだ。貴重なアイテムが安易に量産できるようになれば、そのモノの価格は下がってしまう。そうなると、苦労してそれを手に入れた他の人間はどう思う?」
「え……えぇっと……どうなるの?」
お父さんは僕をじっと見つめた。
それから、
「答えは自分で見つけるのだ」
そう言って、伸び始めたお母さんたちの毛を繕いはじめた。
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*ボリス視点なため、いつもとキャラのセリフ括弧を変更しています。
モンスター語=「」
人語=『』
*ドラゴンノベルスコンテストの中間発表にて、こちらの『錬金BOX』が
選考を突破しておりました。
読者選考有でしたので、これもフォローや★を入れてくださった方々のおかげです。
ありがとうございます!
まだ最終選考が残ってますし、受賞出来る作品のほうが少ないと考えると……
ふ、ふふふ……心臓の毛が抜けて、カビが生えそうです。
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