第115話:閑話-小さな冒険3

「わぁぁぁ」

「すごーいっ」


 僕とゴン太は今、海の中にいる!


「ちゃんと呼吸も出来るんだぁ」

「海の中って、こんな風になってたんだねぇ」

「でしゅ」

「でちゅ」


 ク美おばさんの魔法で、僕たちは海の中でも呼吸が出来るようになった。


「でもおばさん、この魔法があればルークたちが養殖場を作るときに──」

「ふふ。魔法と言ってもね、媒体が必要なのよ。さっきあなたたちが食べた海藻がソレなのよ」

「あの海藻はこの辺の海にはないのでしゅ」

「ぼきゅが捕まっていたあの辺の海に生えていたでちゅ」

「クラーケンもね、幼いうちは寝ている時に海中で上手く呼吸が出来なくなる時があるの」


 だから海藻の生えている海で子育てをするんだって。

 クラ助はもう必要ないみたいだけど、ケン助はご飯をあまり食べられなかったから心配だったみたい。


「美味しいの探そうよ」

「あ、ゴン太」


 ゴ、ゴン太、泳いでる!?

 まだ小さい背中の翼をパタパタして、まるで飛んでるみたいだ。

 いいなぁ。僕も泳ぎたい。


 だけど前にお父さんと一緒に溺れちゃって、寒かったし。

 毛もびしょびしょで、体が重くて沈んじゃうし。


「ボリス、行くでしゅー」

「う、うん。待ってぇー」

「ボリス、泳げるよー。大丈夫ぅ」

「泳げないよぉ。僕にはゴン太みたいな翼はないんだから」

「じゃあボリス引っ張るでしゅー」

「ぼきゅも手伝うでちゅ」


 右前足をクラ助が、左前足をケン助が引っ張ってくれた。

 ふわりと浮かんだ僕の体。


「わぁ、飛んでるみたい」

「さぁ、行こう!」


 ゴン太がパタパタと羽ばたいて泳ぎ出す。

 すぐに振り向いて、


「ところで美味しい魚って、どこにいるの?」






 ルークの島を北のほうからぐるっと周って、西のほうに向かった。

 それで、西の端っこの方まで来たんだけど、なんとここに!


「わぁっ。海の中に洞窟がある!?」

「穴の向こうは、島の中にある池に繋がってるでしゅ」

「おかあしゃんは体が大きくて入れないでちゅけど、この中にとってもとっても美味しいお魚がいるんでちゅ」

「おかあしゃんが一度腕を伸ばして一匹だけ捕まえられたでしゅが……」

「それからは奥の方に逃げちゃって、もう届かないんでちゅって」


 それで二匹は穴の奥に行こうとしたけれど、暗くて怖いから途中で引き返してしまったと。

 陸から行こうとしたら、狂暴なモンスターもいるからダメだって、ク美おばさんに叱られちゃったって。


「四匹なら怖くないでしゅ!」

「ゴン太、ボリス、一緒に行って欲しいでちゅ!」


 僕とゴン太は顔を見合わせ、そして頷いた。


「美味しいは正義!」

「美味しいは正義!」

「美味しいは正義でしゅ!」

「美味しいは正義でちゅ!」


 僕たちは正義の名の下、勇敢に海底洞窟へと立ち向かうのであった!!

 

 小さな穴だけど、僕らもそもそも小さい。一匹ずつ並んで進むと行けそうだ。

 そこで問題になるのが、


「だ、誰が一番に入る?」


 ってこと。


「そ、そうだ。ジャンケンをしよう!」

「ジャンケンでしゅか」

「そう、ルークに教えて貰ったんだ。これがグー、これがチョキ、これがパーだよ」

「やるでちゅ!」

「負けるもんかっ」


 ジャンケンは僕も知っている。ルークたちがやっていたのを見ていたから。

 よぉし、まずは──グーだ!


「ジャンケン──ポン!」


 あ、ゴン太もクラ助もケン助も、みんなグーだ。クラ助たちは器用に五本の腕でグーを作っていた。


「ボリスの負けだな」

「ボリス、チョキでしゅね」

「え? え? 僕だってグーだよ」

「チョキでちゅよ」


 チョキ? 違うよ、グーだ……あ。


 僕は自分の前足の爪を見て愕然とした。


 チョキだ。


 チョキしか出せないんだ。


「ゴ、ゴン太酷いよ!」

「えぇ、なんでだよぉ」

「自分が怖いからって、絶対僕が負けるジャンケンで勝負なんてっ」

「え……あっ。……じゃあボクが先頭で行くから。ボクは超強いドラゴンの子だから、怖くないやい!」

「ぼ、僕だって勇敢な角シープーの子だし、怖くないもん! 僕が先にいくっ」


 海底を蹴って穴へと突進する。

 だ、大丈夫。怖くない!

 僕は勇敢な角シープーなんだ!!

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