閑話

第111話:閑話1-1

 夏が終わり、収穫の秋が訪れた。


『ンペェー』

『ペ』

『ンペペー』


 ボリスがジーナ、ニース、キャロル、キャスバルを連れて人参畑に来ている。

 どうやら人参の引き抜き方を教えているようだ。

 逞しくなったなぁ、兄ちゃん。


「ご領主。お願いします」

「オッケー。んじゃあ"錬金BOX"」


 収穫した野菜の内、成長しすぎている奴はさらに成長を加速させて花を咲かせ、種を実らせる。

 苗植え時期をずらしているので、この先も暫く収穫は続くな。


 収穫すれば、今度は種から植える。次の収穫は春だ。

 ま、ガラスハウスを量産したので、冬の間も何かしら収穫できるけどな。


「さて、これが終わったらドドリアンハウスだな」

「モズラカイコ用ですか。あいつら、すっかり懐いてしまっていますね」

「案外可愛いだろ?」


 モズラカイコはドドリアンが大好物だが、だからといって毎日寄こせとは言わない。

 その辺り、角シープーと同じだ。

 ボス曰く(通訳込み)、実りはいつでもある訳ではない。だから大事に食べるのだと。


 モンスターって偉いよなぁ。


 そう言うと、ボスはそれを否定した。

 

 ──俺様が偉いのだ!


 と、言ったらしい。

 意味分からんし。


「よし。今日の分はこれぐらいにして終わろう」


 収穫した野菜は農家の奥さん方が経営する八百屋で売られている。

 八百屋というネーミングは、もちろん俺が付けた。懐かしい言葉だ。

 売り上げの二割が税と、そして畑の使用料、種や苗木の代金として頂いている。


 あとは農家の皆さんに任せて、俺は騎士たちを連れて果樹園へと向かった。


「ロクー。お待たせ。手伝いに来たよ」

「坊ちゃん。おやまぁ、騎士の皆さんまで。坊ちゃんに付き合わされて、大変ですねぇ」

「いやぁ、最近自分の職業がなんだったのか、忘れてしまいそうですよ」

「何言ってるんだ、ライエルン。お前は騎士だろう。あの時の、ボスが穴を空けた船を修理して、それも下さったんだ。あれを動かせるのはお前たちだけなんだからな」


 ただ軍船を動かすには、ちょっと人数が少ないという。

 その辺りはトロンスタ王に相談して、騎士の雇用数を増やす許可を貰っている。

 貰ったはいいけど、どうやって募集すればいいのかなぁ。


「ブッドウはワインにしてみるのもいいかもしれません」


 ロクが葡萄の収穫をしながらそう言う。

 

「こちらの品種は生食用に適していますが、もう少し斜面の上の方に行くと、皮が分厚く粒の小さい品種ですので、ワイン向きですね」

「え、ここの葡萄園って違う品種もあったのか。や、でも緑のと紫のがあったし、そりゃそうだよな」

「全部で四種類のブッドウがありますよ坊ちゃん。それにしても、相変わらずブッドウをブロウと仰る癖は治りませんねぇ」


 元日本人だから仕方ないだろう。とは言えず。

 

 そうか。葡萄の品種も結構あったんだな。

 俺は果物が熟れているかどうかの判断をするのは得意だけども、品種の見分けとかはからっきしだ。

 植物の病気だって、本で見た知識にロクのアドバイスを聞いて、なんの薬を錬成すればいいのか考えているだけだし。


 ワイン造りって、女の人が歌いながら葡萄を踏みつけるんだっけ?

 それっで実を潰して皮とか種と果汁を分離する作業だろ?

 なら錬成で余裕だな。


「ロク。ブッドウの果汁を分離したら、そのあとはどうするんだ?」

「樽に入れて、専用の酵母を入れて寝かせるんですよ」


 じゃあ一度分離錬成した後に、その酵母を入れてから錬成すればいいのか。

 思ったより簡単だが、失敗しても嫌だし、少量でまずは試すか。


「その専用の酵母ってのは島でも手に入るんだろうか?」

「いやぁ、ないですねぇ。大陸のほうで仕入れてきませんと」

「そっかぁ」

「男爵。こういう時こそ魔導転送ですぞ」


 お、そうか!

 いやぁ、ロイス様様だな。






 そして忘れていた。

 魔導転送がトロンスタ王都の城と繋がっていることを。

 

「わたくし、お父様とお兄様にご挨拶をしてまいりますわ」

「そ、それなら俺も」


 エアリス姫とシア、あと酵母のことを知るドワーフのロゼッタさんと保護者役のシャテルドンと部下二人が同行している。

 お城に来て、買い物をしに来ただけですじゃあマズいだろう。


 いや、それよりもだ。


「この格好、マズいかな?」


 俺以外は汚れた格好をしていない。まぁここにいるメンバーの中では、俺だけが汚れ仕事していたからだけど。


「だから出発の際に『本当にその格好で行かれますか』と聞いたではありませんか」

「いや、もう少し具体的に教えてくれれば着替えたさ」

「ふふ。ルーク様、わたくしのお部屋にお越し下さいな。侍女に言ってお召し物を用意させますので」


 魔導転送で戻ればいいだけなんだが、まぁいいか。


 姫の部屋の前で騎士たちは待機する。ロゼッタさんは姫の部屋の中で寛いでいるが、ここは部屋の中にまた部屋がある造りだ。

 さすがお姫様の部屋だよなぁ。デカいぜ。


 姫の寝室で侍女に着せ替え人形のように弄られ、最終的に決まったのは──


「これ、派手すぎやしませんか?」


 襟や袖の返しが真っ赤な、白いタキシード。中の服は真っ青で、ズボンも白い。

 で、肩には金のふさふさがあって、右肩だけに真っ青なマントを掛けたスタイルだ。


 どう見ても王子様ルックじゃん。


「さっ、さっ。ルーク様。わたくしと一緒・・、お父様にご挨拶しに行きましょう!」

「あー、はい」


 エアリス姫に手を引かれ部屋を出る。

 シアが前方に回り込んで仁王立ちした。


「がうっ。エアリス、何か企んでうの」

「な、なにを仰いますかしら」


 企んでいるのか?

 え、なにを?


「うふふふ。若いねぇ」

「若すぎるのでしょう」

「え? ロゼッタさん、シャテルドン。どういうこと?」


 にまにまと笑うロゼッタさんと、ため息を吐くシャテンドン。

 何なんだよ。いったいなんなんだ!?


 知ってることがあれば話せよぉ!

 

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