第110話:ここが俺の家
屋敷から少し離れた広場に、ゴン蔵は着地した。
そこには立派な馬車が用意されていて、中には着飾ったエアリス姫とシアが乗っていた。
「え、こんな馬車、いつの間に!?」
「ふふ。ラインハ──いえ、ケン助を引き取りに行っている間に、グレッドに頼んでいたのですわ」
グレッド……。
「ウーク、乗うの。早く早く」
「お、おうっ。ってかなんだよ二人とも。綺麗になっちゃって」
「き、きき、き、綺麗ですか!?」
「ウーク、シアきえい?」
「あぁ、綺麗だよ。もちろんエアリ──」
「「どっちの方が!?」」
……え、それ重要なの?
ガタゴトと揺れる馬車の中で、二人にぐいぐい攻寄られる。
「どっちですの!?」
「シアとエアリス、どっち好き!?」
「お、おい、どっちが好きって」
「仰ってくださいルーク様!」
どっちのドレスが好きかって聞かれても、俺にはその手のセンスが壊滅的だって分かってるじゃん!
エアリス姫はいつだって上等な服を着ているが、今日のは完全なドレスだ。
淡いピンク色で、胸元は花をあしらった飾りがしてあってちっぱ──可愛らしい感じ……だと思う。
シアは白と青のドレスで、こちらは胸を強調するようなデザインだ。谷間くっきりの。
随分と攻めたなぁ。
二人ともスカート丈が短く、たぶん長いと土で汚れてしまうからだろう。
あぁ、そのうち街中の道も石を敷き詰めて歩きやすくしたいなぁ。
そんなことを考えていると馬車は止まって、ドアが開く。
まぁすぐ目と鼻の先だったしな。
「おかえりなさいませ、ルークエイン様」
ジョバンの後ろには島の住民たちがいた。
「出発前にはまだ未完成だったのに、この短期間で?」
「あぁ。そりゃあもう、骨が折れたわい」
「島の住民、全員で手分けして完成させたのさ。せっかくだしな、ご領主を驚かそうと思ってみんな頑張ったんだぜ」
そう言ってウィンクするのは、ギルドマスターのオレインだ。
つまり冒険者も手伝ってくれたってことだな。
「ささ、ルークエイン様。中へお入りください」
促されて前に進むと、シアとエアリス姫が屋敷の扉の前に立っていた。
そして開かれる──
「「おかえりなさいませ、ルークエイン様」」
え……。
開かれた扉の奥には、メイド服を着た女性らがずらりと立っていた。
いや、執事服を着た者やコック、それに庭師までいる。
全員が見覚えのある顔だった。
「ジョバンさんの頼みで、みなさまを島へお運びしたです、はいー」
「ロロトア!? てっきり商談ごとで来たのかと思ってたよ」
「はい。それもございますですよ」
あ、やっぱりそうなんだ。売れ行きはどうなんだろうな。
まぁ、それは後でいいか。
「うっうっ。ルーク様ぁぁ、本当に生きてたあぁぁ」
「もうアミったら。泣かないでよ」
「だってぇ。ルーク様が崖から落ちたって聞いたときは、絶対殺されたんだって思ってたからぁ」
比較的若く、俺のことを弟のように面倒を見てくれていた侍女が泣きだす。
そんな話を聞くと、やっぱりロクでもない家族だったんだなぁって思うよ。
「みんな、来てくれてありがとう。また一緒に働こう」
ガラスハウスで果物作り。怒鳴られて収穫に行って、錬金BOXでそれぞれ完熟させ……あれ?
「うっ、うっ。おいたわしや坊ちゃん」
「すっかりコキ使われることに慣れてしまっているのね」
な、懐かしい面子を見て、すっかり昔の自分に戻った気でいた。
いかんいかん。
もう俺は以前のルークエイン・ローンバーグじゃないんだ。
トリスタン島の領主──ルークエイン・トリスタンなんだ。
すぅーっと深呼吸をして一歩踏み出す。
ここが今日から俺の家なんだ。
「ただいま」
俺はルークエイン・トリスタン。男爵としてこの島を統治する者。
「そんな俺がなんで、せっせと頭痛薬を錬成してんだよ!」
「イタタタタタ。ご、ご領主、大声を出さねーでくださいよ」
「領主様……は、吐き気止め……うっ」
「あぁぁぁっ! ここで吐くなぁぁーっ!」
感動のご帰還から一夜明け、朝からシープーやモズラカイコたちに協力して貰って、二日酔いに効果のある薬草をかき集めた。
錬金術の本にあった薬草を覚えててよかったよ……。
っていうか医者が欲しい!
回復魔法が使える司祭も欲しい!
完成した頭痛薬のポーション、吐き気止めのポーション、胃の働きをよくするポーションを、症状に合わせて飲ませていく。
二日酔いでダウンしている島民は、冒険者も入れると五十人ほど。
今ここで襲撃なんて受けたら、ひとたまりもないだろうなぁ。
領主の仕事って、なんだろう。
そんなことを思いながら、食堂の床で転がる酔っぱらいの介抱を続ける。
元気になったら、彼らをコキ使ってやろう。
何をやらせようかな。
町の通りに石畳を敷き詰めたいな。
薬草集めを手伝って貰ったモズラカイコの為に、ドドリアン用のガラスハウスも建てたい。
ケン助が増えた分、魚の養殖場の拡張も必要だろう。
それから──
それから──
うん。
領主って忙しいな。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
110話にて6章(第二部)完結です。
このあと少し閑話を挟んでから、新章へと突入・・・予定です。
まだ閑話を書いている最中で、第三部の構成が固まっていない^^;
作家は誰もがフォロー数、★の増減で一喜一憂いたします。
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