第95話

 三日かけて風石三百個、付与氷を百個用意した。

 まずはこの数を顧客に売りさばいて、使った感想を伺うそうな。

 それによっては、もう少し価格を弄るかもしれないという。

 高くなるか安くなるかは、客の声次第。


 三日間での収入は56,000L。金貨56枚になった。

 ぐひひ。いい稼ぎだ。

 と言っても、この程度の金額はすぐに消えるというのを最近になって知った。


「ルークエイン様。何も住居の家具まで、あなた様が用意してやる必要はないのでは?」


 必要な物を記載した書類に目を通しながら、ジョバンがそんなことを訪ねてきた。


「いやいや。何もない島だぞ? こんな所に移住して貰おうって言うんだ、それぐらい用意しなきゃダメだろ」


 冒険者も増えてきた。戸建てではなく、長屋のような感じで職人が住める建物も何軒か出来ている。

 グレッドは鍛冶屋をするというから、なら他の職人を募集するかと思ったが、鍛冶職人も増やせと彼は言う。

 商売敵になるだろうと思ったんだけど、


「馬鹿かおめー。何百人って客を、俺ひとりで相手させようってのか?」

「……あぁ……そっか。需要が高すぎて供給が追い付かないか」

「そういうこった。ここのダンジョンがどんくらい大きいのか分からねーからな。ひとまず俺以外にも三人ぐらいは必要だろう」


 ダンジョンが大きければ大きいほど、やってくる冒険者の人数も増えてくる。

 ギルマスが昨日になって「拡張してくれ!」と懇願してきた。

 まぁ俺も必要だよなって思ってる。

 同時に職員の雇用を本部に頼むって。


 さて、ジョバンとの話に戻そう。


「木材は島で調達できると言っても、あまり切り開き過ぎると禿げてしまう」

「禿げ……」

「お前の頭の事じゃないから、押えなくていいって」

「……森の面積が狭くなるのは、あまりよろしくありませんね。魔物の生息区域がなくなれば、人の住む場所にも出て来てしまうでしょうし」


 そうなんだよ。ゴン蔵も『これ以上は引き抜かぬ方が良い』って言い始めたし。


「一応さ、植林はしてあるんだ。けど元の大きさに育つまで、何年もかかるし」

「左様でございますね。はぁ、まだまだ収入が少のうございますな」


 ため息を吐きながらも、ジョバンは背筋をピンと伸ばしてキラキラした目をしていた。

 やりがいを感じてくれているならそれでいい。

 ジョバンに任せてもいだろう。


「ところでさジョバン。明後日ぐらいから数日、俺はいなくなるけどいいか?」

「……は?」






 ダンジョンの地上と地下、どうにかして楽に移動できないかと考えて思いついたのは──。


「あのね……ウーク、これでいいの?」

「そう。その玉に向かって話掛けるんだ」

「分かったぉ。あのね……ウーク、本当にロイスいるの?」


 ロイスに魔導転送装置を設置して貰うことだ。


『いるから……要件を早く言ってくれないかお嬢ちゃん』


 魔導通話を使うと、魔力を消費する。

 ステータスの実をこそこそ食べてはいるが、魔力が上がる確率は相変わらず低い。

 やっと35になった程度で、これだと魔導通話を使うとすぐにバテてしまう。

 なので俺の倍近くあるシアにこうして頼んでいるのだが……相手が目の前にいないのに話しかけるという行為に慣れないようだ。


「あのね、ウークがね……ロイス?」

『はいはい、ルーク様が?』

「いたぁ。あのねウークがね、ダンジョンの中に宿屋を建てたいんだってぇ」

『はぁ。それと俺と、どう関係が?』

「元ボス部屋に魔導転送装置を設置して欲しいんだよ」

『無理。魔素が濃くて魔導転送は置けません』


 え、ダメなのか?


『けどまぁ、似たようなものを設置してやりましょう」

「え、似たような?」

『そちらに向かいます。王子の許可を頂くので、しばしお待ちを』


 魔導通話が切れ、三十分ほど待つとロイスが転移の魔法陣から現れた。


「お待たせしました。じゃ、行きましょうか」

「行くってどこに」

「ダンジョンですよ。元ボス部屋って何階にあるんだ?」

「七階だぉ」

「七階かぁ。数日で行けますね」


 一度行ったときは五日で到着したが、今回はモンスターが出る。戦闘しながらだともっと掛かるだろう。

 さすがに今すぐ行くとは思わず、なんの準備もしていない。


 ジョバンに外出することを伝え、心配され、お城の魔導師が一緒だと話してようやく納得してくれた。

 それからロゼッタの所で弁当を作って貰い、野宿用の調理キットや食材、毛布などをアイテムボックス袋に詰めていざ出発だ。


「この辺に設置して欲しいんだ」


 ダンジョンの入口にある小屋のすぐ脇に、地下へ降りる魔法陣を設置したい。


「分かりました。じゃあサクっと行きますか」

「あ、呪文を唱えなくていいのか?」

「は? ここから詠唱して七階まで行けと? 俺に死ねと? 地下から詠唱して魔法陣乗ってここに出てこればいい訳でしょ」


 そうだった……。何も地上から呪文を詠唱しっぱなしで行かなくてもいいんだった。


「という訳なので、サクサクっと行きますよ」

「お、おぅ」

「おぉー! エアリスも行くぉー」

「「エアリス姫!?」」


 俺とロイスが驚いて辺りをキョロキョロすると、フードを目深に被った人物がやって来た。

 背丈からして完全に子供──エアリス姫だ。


 フードを外して俺をキッと睨む。


「またわたくしを置いて行こうとしましたのね! わたくし、ぜぇーったい離れませんからぁっ」

「あぁーっ。ウークだめっ。エアリスダメなのぉ」

「ダメじゃないものっ。ルーク様はシアだけのルーク様じゃないんだからっ」

「やぁーっ」

「モテモテですね、ルーク様」


 右から左から、俺の腕を取り合う二人。

 いつか半分にされてしまうのだろうか。


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*新作投稿始めました。

異世界転移「スキル無!」~無能だからと捨てられたが、授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだった~

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918190946


こちらは異世界転移物となっております。

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