第94話

 地下十階をクリアし、更に十一階も。

 結局ボスは見つからず、十二階へと下りる階段が見つかった。


「というのは分かった。で、なんでお祭り騒ぎな訳?」


 あっという間に冒険者が集まって、飲んで歌えのお祭り騒ぎが始まった。

 わざわざ食堂から酒を樽で注文して運び込み、料理まで持って来て。


「いやぁ、十二階ですよ? めでたいじゃないですか」

「そうそう。ぐわーっはっはっは」


 何故……。絶対こいつら、タダ酒飲みたくて来てるんだろ。

 だって、


「じゃあご領主様。これ請求書です」

「うちはこっちで」


 食堂のおばちゃんたちが二人、請求書を持って来たから。


「ル、ルークエイン様、いったいこれはどうなって?」

「どうなっているんだろうなぁ。俺にも分からない。けどまぁ……いいさ。エアリス姫、これお願いします」

「ジョバンは経理は出来ませんの? わたくしひとりでは、そろそろ手いっぱいですわ」

「あ、はい。侯爵家でも農場関係の経理は行っておりましたので」

「まぁ助かりますわ。明日、引継ぎをしますのでよろしくね」


 うんうん。労せずして経理担当をゲットできた。

 

「それで、十階と十一階を攻略したパーティーは?」

「んあ? 今ギルドで報告してるはずっすよ」

「おいーっ! 肝心の功労者がいないのに、お前ら騒いでたのかよっ」

「ぶわははははははっ」


 くっ。この酔っぱらいどもめっ。

 まだ辛うじて酔いが回ってない連中の話だと、この前の冒険者解禁で島に渡って来た者だという。

 なんでも金級冒険者なんだとか。


「お、功労者が来たぜ」


 そんな声がしてドアの方を見ると、男女二人ずつのパーティーの姿があった。

 ひとりは獣人だ。犬のような耳と尻尾が──あれ?


「シア、あの四人組って」

「おぉぉ~。ラッツだぁ~」


 パタタとシアが駆けて行く。それを見たあの獣人、ラッツが一瞬驚いた顔をし、そして笑みを浮かべ、それからギョッとした。

 今のはアレだな。


 最初の驚きは「お前誰!?」みたいな。

 次に「おぉ、あの時のお嬢ちゃん」みたいな。

 で、最後に「はぁー!? なんで大きくなってんの!?」みたいな。

 たぶんそう。


「あなた方が島に来ていたなんて、知りませんでしたよ」


 大陸行路のダンジョンに行く途中立ち寄った、オーギュスの町で出会った冒険者だ。

 なるほど、金級だわ。


「お前さん、あの時の坊主じゃないか。君もこの島で一攫千金を夢見て来たのかい?」

「あー……えぇっとその……俺はこの島の、えっとですね」

「なんでぃホーク。ご領主様と顔見知りか?」

「「ご領主?」」


 口を揃えた一行に、俺は苦笑いで応える。

 犬獣人のラッツの耳がピーンと立ち、尻尾が毛が逆立ったようになっているのが面白い。


「ま、待ってくれ。え、領主? え?」

「あー、まぁー……そうなってます。ルークエイン・トリスタン。あなた方に出会った時は別の名前でしたが、それはもう捨てました」

「き、貴族だったのか!? あ、いや、だったんですか?」

「あー、いいですよ。普通で。っていうか俺も普通に喋るんで」


 いやいやと頭をペコペコ下げる男二人と、それをあたふたしながら見つめる女性二人。

 盾持ちの男──さっきホークって呼ばれてたな。彼に向かって手を差し出す。

 パーティーリーダーはきっと彼だろうから。


 その手を握ろうとして、一度引いてズボンで拭うとようやく握ってくれた。


「ホ、ホークです。このパーティーのリーダーを務める重戦士だ。階級は金……ってのは前にも言ったか?」

「聞いた。ラッツの名前も分かるが、女性二人の名前は知らないな」

「よ、よろしくご領主様。ずいぶん若いからビックリしちゃったわ。私はマリーナ。弓使いだけど、短剣も得意よ」

「サ、サラです。神官です。お、お怪我をされましたら、仰ってください。すぐに『回復ヒーリング』しますっ」

「ありがとう、サラ。ようこそ、トリスタン島へ。まぁ今のところ、最小限の施設しかないんだけどさ」






 四人から十二階層までの話をザックリと聞いた。

 七階の、以前のボス部屋にはモンスターが湧かない。それに入って来ない──というのは前々から聞いていた。

 改めてその話を四人からも聞き、あることを思いついた。


「いっそ七階の元ボス部屋を、冒険者の休憩場所にしたらどうだろう?」

「今でもそうなってますよ、ルークエイン様」

「テントを張ったり?」

「そうそう。一応念のために見張りは立てていたけど、他にもパーティーがあるから見張りはひとりでも十分だったわ」


 テントではなく、宿のようにベッドの持ち込みとかも出来るんじゃないだろうか。

 その場所には地上へ出るための転移装置も残ったままだという。

 行きだけ頑張れば、帰りは楽できる。


 俺のアイテム袋に資材を入れて持って行けば、簡単に作れるよな?


 ダンジョン内宿屋。



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