第96話
「はっはっはっは。そりゃそりゃそりゃそりゃあぁぁーっ」
ダンジョンに入ってから俺は、一度もモンスターと戦っていない。
そろそろ夜になる頃だ。野宿する場所を決めなきゃな。
「もうっ、ロイス! ルーク様の活躍が見れないではないですかっ」
「え、活躍したいのか、ルーク様は?」
敬語だったりタメ口だったりと、不思議な喋り方をするロイスは、キョトンとした顔で俺を見る。
「わたくしが見たいの!」
「なるほど。ではお断りしますー。わははははははは」
楽しそうだなほんとに。
ロイスの快進撃のおかげで順調に進み、元ボス部屋には五日目に到着した。
おかしいな。モンスターがいるはずなのに、いなかったときと同じ日程で到着するなんて。
「では俺は魔法陣の解析をしますんで、その辺で遊んでてください」
「解析?」
「ダンジョン内に魔導装置は置けません。魔素が濃いので、転移が発動するときに干渉されて、どこに飛ぶか分からなくなるんですよ」
「ダメだっていうのは、そういう理由だったのか」
だから最初から設置されている魔法陣を解析し、同じ波長の魔法陣を別に作ることで、道が繋がるらしい。
もちろんそんな芸当、魔導師であっても誰もが出来る訳じゃないと彼は言う。ドヤ顔で。
「まぁ俺にかかればこの程度の魔法陣解析なんて、ちょちょいのちょいですよ!」
じゃあその間に宿を建てる準備をするか。
転移装置が出来てから大工を呼ぶことにしてある。それまでに木材をここで錬成して、直ぐに作業が出来るようにしておきたい。
「エアリス姫、シア。部屋を
「おぉーっ」
「お任せください、ルーク様っ」
「じゃあこんな感じでよろしくお願いします」
俺が考えた快適ダンジョン宿!
の図を渡して、あとは任せる。
アイテムボックス袋から1メートルぐらいの長さに切った丸太を取り出し、箱の中へ。
グレッドにこの話をして、必要な木材の寸法をメモしてあるのでその通りに錬成していく。
ダンジョン内なので雨も降らなければ風も吹かない。強度はそれほど必要なく、とにかく部屋のような形になればそれでいい。
プライバシーっていうのかな。
落ち着いて眠れる空間があればいいんだ。
持って来た丸太の半分ほどと錬成し終えると、ロイスが「よっしゃーっ」と歓声を上げていた。
「終わったのか、お疲れさ……あ」
労いの言葉をかける間もなく、ロイスは魔法陣に乗って消えてしまった。
えぇーっ。
「まぁロイスったら。ひとりで帰ってしまいましたの?」
「シアたちはぁ? シアたちどうするの?」
うぅん。帰るだけならそりゃあ、魔法陣に乗れば帰れるから心配はないけれど。
さてどうしたものか。まだ錬成しなきゃならない木材は残っているし。
と思っていたら、誰もいないのに魔法陣が光り──ロイスが出てきた。
「完了っと。地上の魔法陣は入口から直ぐの、先が行き止まりになっていた脇道に設置しましたよ」
「あ、転送陣を設置するために上に行っただけだったのか」
「え、まさか俺が姫やルーク様、お嬢ちゃんを置いてひとりで帰ったと思っていたんですか!?」
「いや、あの……その……」
一瞬そう思った自分を恥じた。
そうだよ。ロイスはそんな薄情な男じゃない。はずだ。
「じゃあ俺、終わったんで今度こそ帰りますね。あ、ちゃんと姫を連れ帰ってくださいねー」
「え……」
俺たち三人が唖然とする中、ロイスは今度こそひとりで帰ってしまった。
こ、今度は恥じなくていいよな?
それから二日後。
大工二人に来て貰っての作業では、もう俺の出番はなくなっていた。
俺頑張った。錬成いっぱい頑張った。
「宿賃はどうしますの、ルーク様」
「んー、魔石と交換でもいいかなぁっと思っているんだ。風石の材料をタダでゲットできるし」
「あぁ、それはよろしいかもですね」
「ご飯屋さんあるといいねぇ。じゅるり」
食いしん坊め。
まぁでも必要だろうな。
けど魔法陣で繋がったのなら、わざわざあそこに竈とか作る必要もないだろう。
ダンジョン入口に屋台でも作って、そこで買い物をして貰えばいい。
その方がこれから中に行くぞって冒険者も利用できるしな。
宿──ボックスタイプの二十部屋には、扉に鍵をかけて貰うことになっている。
その鍵を管理するスタッフも雇わなきゃな。
「まだまだ人材が足りないなぁ」
「移住希望者をどんどん募らなくてはいけませんね」
「もっといーっぱい、人来うといいねぇ」
そうだなぁ。そうなるともっと忙しくなるんだろうなぁ。
ダンジョン入口近くの魔法陣前に注意書きの看板を立て、それから後ろを振り返った。
そこには地下七階へと通じる魔法陣がある。
「忙しくなる前に……ちょっとぐらい冒険してもバチは当たらないよな?」
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*新作投稿始めました。
異世界転移「スキル無!」~無能だからと捨てられたが、授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだった~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054918190946
こちらは異世界転移物となっております。
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