第86話
ボスたちの毛刈りを終えた翌日。
あることを思い立って再びシープー小屋に来ていた。
「で、雌のシープーが使う風魔法を魔石に封じ込めると、こうなる」
「お……おぉぉ!?」
グレッドを連れて来て、この魔石エアコンの仕組みを説明。
これには氷が必要だが、試した結果『錬金BOX』で量産が可能だった。
そして魔石もだ。
ヒントは角シープーが作った風魔法を封印した魔石。
『錬金BOX』にシアの凍結魔法、それと魔石と水を入れる。
凍結魔法で水を凍らせるが、あとでカット錬成するので魔石をバラバラに配置。
氷のブロックが出来たら、大きめなブロックサイズにカットして──魔石に凍結魔法を付与する。
これでエアコンの元が完成だ。
「で、俺にこれを見せてどうすんだ? 俺にくれるってんならありがたく貰っていくぜ」
「やってもいいけど仕事はしてくれ。氷を近くに置かなきゃ冷たい風は出ないんだ。だから氷のブロックと風石を上手くセットで置ける物を作って欲しい」
「なるほど。受け皿を作れってことか」
「どうせなら、家のインテリアとして見栄えの良いモノとか、壁に掛けられるのとかあるといいなぁと思って」
いろいろね、俺も学んだんだ。
何事にもデザインセンスが大事だって!
そして俺はデザインセンスがない!
もう認めちゃうもんね。
それに、なんでもかんでも俺が錬成していたら、職人の仕事がなくなってしまう。
ま、俺の想像力だと、細かい細工だなんだの出来ないから、やっぱり手作りは必要なんだよ。うん。
「氷の石じゃあダメなのか?」
「あ、それは試したけど、石の状態だと見た目が違うだけでやっぱり石でしかないんだよ」
「あぁ、ご領主が投げなきゃダメなんだったな」
「そ。最後に付与を使うのは、そうすることで氷が溶けなくなったんだ。石だと冷たくもなんともないけど、元々冷たい氷に付与すれば、冷たいまま溶けなくなる」
これを応用した冷蔵庫の発案もした。
「となると、嬢ちゃんが頑張らなきゃいけなくなるな」
「え、頑張るの俺……」
「シア頑張るお。ウークのために、いっぱい頑張る!」
いやあの……付与用の魔法は一度石にやったら、あとはがんがんコピー出来るんだけど。
……ま、いいか。
グレッドはまず、試作品を作ってから実際に使って見て具合を確かめるという。
それまでは適当に石の受け皿を錬成して、暑い夜を乗り切ろう。
「もちろんわしの分も作ってくれるんだろうな?」
「シアもぉ」
『ベベェェ』
とりあえずシープー小屋に二個、グレッドの家に一個、シアの部屋、俺の部屋。そうなるときっとエアリス姫も欲しいという。
見つかったら他の連中も……。
「グレッド、急務だぞ」
「おうよ」
『錬金BOX』の中に氷の付与ブロックを入れ、ある家を訪れた。
「まぁご領主様っ」
「こんばんは。ロクはもう寝てるかな?」
出迎えてくれたのはロクの娘のレイアさん。母親に似たらしく、わりと綺麗な人だ。
「坊ちゃん。こんな時間に寝るほど、年ではないですよ」
「そうか?」
「そうですよ」
笑顔のロクがやって来た。
野菜畑は町の北東に広がり、だがロクの住む家は南西にある。ここの方が果樹園が近いからだ。
「しかしこんな時間にどうしたのです?」
「うん。暑いだろうなぁと思って」
「そりゃあ夏ですからねぇ。暑いに決まっていますよ」
「そうか。ならこれを使ってくれ」
家の中へ通して貰い、適当な場所を見つけて箱の中身を取り出した。
「わっ。すっげーでっけー氷だぁ」
「こおりだー」
子供たちがやって来て、冷たい氷に触れて喜んでいる。
「なんですか、坊ちゃん」
「エアコンって言うんだ。あー、俺が勝手にそう命名した。こっちはシープーの風魔法を封じた石なんだ」
この風石はオン、オフが可能。
石を壁に打ち付け衝撃を与えると──ふわぁっと風が吹く。
それを氷の傍に置けば、
「わっわっ。じーちゃん、これ涼しいよ!」
「きもちいいねぇ」
「あら、本当だわ。はぁ、涼しい」
「そんなんか? 俺も──おぉ! これは気持ちいいっ」
「しぃーっ。まだ数が無いので他の家の者には知られたくないんだ」
全員が「あっ」という顔をして声を潜める。
「風を止めるときはこうやって──石を叩けばいい。結構しっかりガツガツやってくれ」
「また風をだすときはー?」
「ときはー?」
「また叩く。こうだ」
風石のオフとオンを実際に見せ、それから人にまだ知られて欲しくない事情を話した。
「なるほど。商売品にするのですね」
「商売? いや、俺はそこまで考えていなかったが」
「いやいやいや、それは考えた方がいいでしょう。島の者に売るのが嫌だと仰るなら、本土の商人に売りつけてみてはどうです?」
「商人……かぁ」
けど商人を呼び寄せている間に、夏は終わりそうだけどなぁ。
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