第87話
今日で七の月も終わる。
トロンスタ王国に渡って、島へ戻って来て──この四カ月はあっという間だったなぁ。
「よし。モズラカイコたち、ありがとうな」
『ズモモモモモ』
「これで四つ目の生け簀が完成だ。ドドリアンはどんな感じだ?」
『ブモモ、ズーズモモモモモ』
モズラカイコの言葉を、今日はジーナが通訳してくれる。
『ペェ~。ペペペェ~』
「ロクっておじーちゃんがねぇ、土とか見てくれてぇ、よくなったってぇ」
「そっか。ロクは果物栽培の天才だからな」
そういえばロクって、なんの『ギフト』を貰ったんだろう。
きっと果物関係の能力だろうな。
モズラカイコたちから貰った糸を歩きながら錬成し、網状にまでする。
それを町に戻って出来上がっている分と繋げれば完成だ。
「よし、海に行くか」
『ペェ~ペペェ』
荷車は用意してある。
完成した網をそれに乗せ、引くのはベルティルとブルックハルトの二人の騎士だ。
この二人がいつも俺の護衛としてついて来る。そしてついでに手伝って貰っている。
「じゃあ二人とも、よろしく」
「承知しました。ところで今度はなんの魚を放流するんです?」
「んー、そこは船乗りに任せてるよ」
「おっきなのがいいねぇ」
「大きすぎると、あまりたくさん飼えなくなりますわよ」
飼う……いや、飼育しているわけじゃあ……。
荷車に俺とシア、エアリス姫が乗り込んで、網が落ちないよう抑えて海岸まで行く。
到着したら網を小舟に乗せ、ガラスヘルメットを被った俺とシアがざぶざぶと海の中へ歩いて入る。
呼吸用のホースの先は小舟の上なので、船乗りがうまいこと操舵して付いて来てくれた。
俺もシアも四回目の作業で慣れてきたのか、一時間と掛からずに終わった。
「ルーク様ぁ~、シア~。お昼にいたしましょう~っ」
歩いて海から出て来たところで、そう声が掛かる。
「お昼ご飯!? ウーク、早く行くのっ」
「分かった。分かったってば」
ガラスヘルメットを脱ぎ、シアが俺の手を引いた。
ざばざばと海から上がって、姫たちの待つテントへ。
このテントも俺考案。
運動会でよく見かける白いテント。アレだ。
こっちの世界じゃあ野宿の為に使うテントが当たり前な形で、ただの日除けに使うようなものはない。
でもあったっていいじゃないか!
特にこの作業は、浜辺で待っててくれる人に大人気。
あと船乗りたちにもだ。
テントの下に簡易テーブルと椅子が置かれ、そこでランチを楽しむ。
「この『ほれーざい』のおかげで、こんな時期でもお弁当が傷まないのがいいですわね」
「えぇ。これなら受け皿なんて用意しなくていいし、ゴムの袋に入れるだけなんで大量生産も可能ですね」
「男爵はそれで御商売をするのですか?」
「んー……各家にこれの大きい版を配ろうと思っているんだが、それぐらいは時間があれば出来るけど」
大きい版=冷蔵庫のこと。
ただこれ、木製じゃダメなんだ。
一番いいのは鉄だけど、鉄は貴重だ。さすがに使えない。
となると次の候補は石。
まぁ鉄にしろ石にしろ、重いんだよ。そこに氷を敷くんだから尚重い。
そんなもん、ここで造って船で輸送って……重量的にどうなんだろう。
ま。氷付与だけ作って、器は現地で用意させるのが一番なんだろうな。
「商売するにしても、どうすればいいのか分からないからなぁ」
「わたくしも、商人の知り合いはおりませんわ……あ、でもお父様に頼めば──」
「あ、いや姫。そこまでしなくても。別に売りたいって訳じゃありませんから」
「そう……ですの? あ、シア! それはわたくしが食べようと残していたのにっ」
「がうがうがうっ。がうがうがうぅっ」
商売かぁ……。
まぁ冒険者ギルドも稼働しはじめたし、八の月から少しずつ収入も増えるだろう。
ギルドが冒険者から買い取った素材を大陸に輸出、もしくは島で加工して武具にして販売。
それらの売り上げの一割が、税収として俺の所に入って来る。
お金のことはよく分からないから姫様に任せてはいるけれど……とはいえ王族の姫に経理をお願いして大丈夫だろうか?
どっかでそういうの専門でやってくれる人を募集しなきゃならないんだろうなぁ。
ランチが終わり、ちょっとお腹を休めてから作業再開だ。
まず大きな桶三つを用意する。これは最初の生け簀の時に錬成したもので、今は船乗りのアパート横にある物置小屋に片付けていた。
んで海水を入れます。ざばー。
次、魚を用意します。産卵時期の雄雌でなければいけません。
おぉ、結構大きいな。シャケみたいな魚だ。
「んじゃー、やりますよ」
「おう、頼む」
「へい」
魚を用意した船乗りが、一つの桶の中で雌の腹をぐっと抑えて桶の中に卵をぶしゃーっとする。
そこへすかさず雄の腹を抑えて精子をぶしゃーする。
その桶を『錬金BOX』へ。
蓋をして成長促進を促します。
箱の中の桶には、稚魚が。
外に出して、一部を別の桶に移動。そしてまた箱へ。
この時、海水を分解錬成して底に溜まった『微生物やプランクトン』の塊を数個入れておく。
幼魚になりました。
更に一部をもう一つの桶に入れて──ここでまた微生物やプランクトンの塊を投入。さらにパンくず!
何度か繰り返して50センチほどに成長したら、生け簀へ放流。
「こいつら何食べるんだろう?」
「小魚やエビとかじゃないですかね? その辺はさすがに漁師でもないんで、よく分かりませんが」
「……同族の幼魚……」
「……ど、どうですやろ?」
俺と船乗りが生け簀を見つめる中、隣のシアが残っている魚の幼魚桶を──投げた。
「シ、シア!?」
「ご飯だぉー」
いやご飯ってあんた。食べなかったらただ逃がしただけになっちまうぞっ。
食べたら食べたでそれは……
「あ、食べてる食べてるぉー」
「え!?」
バシャバシャと音を立て、シャケっぽい魚がその幼魚──いや、兄弟たちを……食べている。
元気よく、
嬉しそうに。
「……共食い……」
「……しかも兄妹っすね……」
「あら、魚は魚を食べますのね。これなら餌の用意も楽ではありませんか。ねぇ、ルーク様」
エアリス姫もにこにこと見ている。
それってつまり、こいつらの卵から錬成幼魚を作って食わせればいいじゃんってこと?
がくぶるする。
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