5章 商品開発
第85話
七の月も終わりに近づく頃、遂に冒険者ギルドが本格始動した。
しかも島に来たのは百人を超える冒険者たちだ。
「ギルマス、大丈夫なのかこの人数」
「あー? ったく、あっちのギルドがちゃんと人数制限かけてくれなかったんだよっ。クソがっ」
「……ご機嫌斜めだな、ギルマス」
「人、いっぱいだねぇ」
「そうだな。汗臭いし、外に出よう」
冒険者ギルドのトリスタン支部は、正直小さな建物だ。二階建てのコンビニ程度。
二階がギルマスと副マス、たったひとりの受付嬢の部屋になっている。
そんな中に百人超えが詰めかけ、滞在登録をしようとしているのだ。
「この状況じゃあイライラしても仕方ないか」
「暑いしねぇ」
「暑いなぁ」
照り返す太陽の下、俺とシアは鋏を持ってある場所へと向かった。
角シープー小屋だ。
「おーい、ボスゥ。毛刈りするぞぉーっ」
『ベッ。ベベベェーッ』
「いいぉー」
ん?
ボスはシアに何を頼んだんだ?
と思って見ていると、シアが大きめの氷を魔法で作りだしていた。
なるほど。涼むために氷を欲しがっていたのか。
『ンベェベェ~』
「おぉ、そうなの?」
「シア、キャロはなんて言ったんだ?」
「んとねぇ、ダンジョンモンスターから取れる魔石があったらねぇ、それに雌シープーの風魔法の力を込められるんだってぇ。そしたら暫くの間、勝手に風を送り出せるって」
え、なにそれ。まるで扇風機じゃん。
「それがあれば、少しは涼しくなるのに~って言ってるの」
あぁ、なら。
「氷の横にその魔石を置けば、涼しい風を送れるぞ」
「え、本当!?」
『ンベッ!?』
「シア。俺は毛刈りをしているから、冒険者ギルドで魔石を何個か貰って来てくれ」
「うん、行ってくるぅ」
シアが駆けて行くと、その後を追う者がいた。
騎士だ。
俺たちが好き勝手歩き回るから、無言でいつも誰かが護衛にって付いて来てくれている。
「ベルディル、ちょっと手伝ってくれ」
「はっ」
小屋の陰にいた騎士ベルディルが出てきた。
さすがにこの時期に甲冑を着たりはしない。ちょっとお洒落ではあるが、ラフな格好だ。
「俺が鋏で刈るからさ、ベルディルは毛を集めてそっちの箱に入れておいてくれ」
「了解しました。しかし毛刈りは十日前にもしませんでしたか?」
「うん。けど伸びてるだろ?」
「伸びてますね……角シープーの毛は、伸びるのが早いという話は聞いたことありますが、まさかここまでとは」
そうなんだよなぁ。
角シープーの毛は、本人たち曰く、一日1センチは伸びるという。
20センチほど伸びた後はおだやかーに伸び、30センチを超えると抜け始めるそうだ。
今は10センチほどしかないが、この暑さだしな。
「小まめに刈ってやったほうが、少しは涼しいだろ?」
「まぁ確かに。この毛は冬には有難いでしょうが、夏は暑いだけですね」
「シアが帰って来たら涼しくなるぞ」
「そうなのですか?」
話しながらボスたちの毛を、根元から綺麗にカットする。
毛刈りも最近は慣れてきれ、上手く出来るようになった。暫くこの毛は、島民用に使うとして、そのうち輸出出来るようになるといいなぁ。
そんな話をベルディルとしながら毛刈りをしていると、シアが走って戻って来た。
振り向くともう一人の騎士が肩で息をしながら必死に付いて来ている。
森の中ではシアの足は相当速いからなぁ。大変だっただろう。
シアが持って来た石を雌シープーが蹄で踏みつけ、それから『ンン~』っと力む。
そして石がぽぉっと光った。
それを咥えて氷の横にぽろっと置き、今度は蹄で叩いた。
するとふわぁーっと風が吹き──
「おぉぉぉ、天然のエアコンだぁ」
「はぁー、涼しいですねぇ」
「じ、自分も……あぁ、生き返る」
男三人で並んで、氷越しに送られる風を満喫した。
「あぁ、そういえば男爵。さっきギルドで、地下十階が見つかったという話を耳にしましたよ」
「十階かぁ。結構深いなぁ」
「えぇ。これからボスを探すために探索をするそうです」
『ベ?』
反応したのはボスだ。
「いやいや、ボス殿ではなく、ダンジョンのボスモンスターのことですよ」
『ンベェー』
分かっててやってるだろ、お前。
「十階かぁ、見つかるかなぁ」
「見つからなければまだ地下があるってことですよぉ。はぁ、涼しい」
エリオル王子から聞いた「どうやら拡張されているみたいなんだ」という言葉。
冒険者に最下層の調査を依頼し、直ぐに地下八階へ続く階段が見つかった。
もともと地下七階だったダンジョンは、その後順調に攻略が進み、遂に十階だ。
いったいどこまで大きくなったのやら。
そしてどうしてこんなことになったか……。
まぁ。
原因は核の再生だよなぁ。
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