第83話

『あぁ、やっと繋がったね』


 魔導通話を設置して数分後、電話が掛かって来た。

 これを使うのは初めてだけど、面白いことに音がなるんだな。

 チリンチリンという、ベルの音だったけど。


 通話相手はエリオル王子だ。

 あれ以来一度も会ってないし、声とはいえ久しぶりだな。


「お久しぶりです、エリオル王子。お元気でしたか?」

『元気と言えば元気だけども、退屈な毎日でもあるよ。君たちと過ごしたあの日々は、本当に楽しかった』


 ずっとお城の中なんだろうなぁ。それは同情する。


「あ、魔導通話と魔導転送、ありがとうございます。これで大事な用があっても、直ぐにお伝えできますね」

「あぁ、そうだね。それにこうして簡単に会うことも出来るし」


 ん?

 なんか今、声が近かったような。


「ルークエイン、こっちだこっち」

「こっち? うえぃ!?」

「はっはっは。そう驚く必要はないだろう。魔導転送があれば、簡単に来れるのだから」

「お兄様はこれが目的で、魔導転送を設置したのですわ。ね、お兄様」

「否定はしない。はっはっは」


 いや否定しようよ!


 王子が魔法陣から下りると、もう一度魔法陣が光った。

 出てきたのはアベンジャスだ。出てきて早々、ため息を吐いている。

 大変だな……。


「ルークエイン、島を見てみたい。いいだろうか?」

「それは構いませんが。見ると言っても町と東の海岸ぐらいですよ? 他はモンスターの生息地域なので、お連れできません」

「分かっている。私が訪れたあの時から、どのくらい変わったのか見てみたいんだ」


 それからちらりとロイスを見た。

 ロイスは首を振って「嫌だ」と意思表示。


「うん。ロイスは休んでいてくれ。それとテトンツァもだ」


 名前を呼ばれた中年魔導師は頷き、兄弟弟子に肩を借りて立ち上がった。ロイスはアベンジャスに。


「ルークエイン、申し訳ないが二人が休めるところをお借りできるだろうか?」

「屋敷はまだ未完成でして。宿でいいならご自由にお使いください」


 一番近い宿まで案内し、そこで二人にはゆっくり休んで貰うことに。

 同行するのはアベンジャスと弟子の魔術師、俺とシア、エアリス姫。それと数人の騎士だ。


 まずは居住区になっている町の中心部をぐるりと一周する。

 王子が以前来た時は、それこそ廃墟同然だった町は、半壊していた建物は取り壊し、瓦礫すらない。

 全部俺が再利用するために錬成したから。


「随分と町らしくなってきたな」

「えぇ。でも冒険者を大勢呼び込むとなると、それに合わせた施設も必要ですし。施設が出来ればそこで働く者もいる。となると労働者の家も必要ですから」

「まだまだ足りないってことか」

「今年……いや、来年いっぱい掛かりそうですね」


 だけどその前にある程度の制限をかけて、冒険者を呼ぶつもりだ。

 でないと冒険者ギルドが機能しないし、あそこの収益の一部が俺に渡ることになる。

 そのお金でまた町を開拓しなきゃならない。


 ひとまず、今いる冒険者が百人ぐらい。更に追加で百人は呼びたいらしい。

 今ある宿の建物で、ちょうどそのぐらいは受け入れられる。


「じゃあ次に海へ行きますか。あ、新しい道を作ったんですよ」

「ほぉ。別のルートをか」

「えぇ。大型船が入れるように、海賊どもが使っていたあそこを利用しようと思いまして」

「ゴン蔵がねぇ、穴開けたんだよぉ」

「そうなんです。おーい、ゴン蔵おぉぉぉぉっ」


 大きな声で呼べば来てくれるゴン蔵。

 王子やアベンジャス、魔術師も一度見ているのでそこまで驚きはしないし、島に駐在にしている騎士たちは言わずもがなだ。


『お、人の子の王子ではないか。ふむ、魔導転送で城を抜け出して来たな』

「はは、その通りですゴン蔵殿。ゴン太は元気ですか?」

『我が息子は浜辺で遊んでおるよ』

「その浜辺まで俺たちを連れて行って欲しいんだ。いいか?」

『容易いことだ。手で運ぶには人数が多い。背中に乗れ。落ちるなよ』


 ゴン蔵の浮遊魔法で俺たちの体が浮き、その背に着地する。

 ふわりと舞い上がったゴン蔵は、ゆっくりと、だけど三分足らずで海岸へと到着した。


「ふあっ!?」

「なっ!?」


 王子が急に変な声を出した。アベンジャスは王子の前に立って剣を抜く。

 あぁ、ク美がいるのか。

 いやぁ、アベンジャスって凄いな。咄嗟の時でも主を守ろうとしてるんだから。


「お兄様、アベンジャス。あちらはク美さんですわ」

「く、くく、くみ?」

「えぇ。ルーク様が救った、クラーケンのク美さん。あ、ほらあそこの小さいのがク美さんのお子様で、クラ助っていいますのよ」


 エアリス姫がどや顔で紹介する。


『先に言っておくべきだったな、ルークエインよ』

「そう、だな。申し訳ありません王子。驚かせてしまって」

「い、いや……ははは」


 顔、引きつってますよ王子。


『あー、とーちゃん』

『おじしゃん、またお仕事でしゅか?』

『ンペェー』

『うむ。働きもせず、ただ飯を食らうほど落ちぶれてはおらぬからな』


 いや、めちゃくちゃ働いてくれてるけど、食べる量少ないから申し訳ないんだけど。

 だけどゴン蔵がそんなことを言うもんだから、キッズたちが自分も働くと言い出す。

 いやいや、お子様は食べて遊んで成長してくれればそれでいいんだ。


「ま、まぁ島はこんな感じです」

「そ、そうか。いや、さすがにクラーケンには驚いたが、だけど君らしいな」

「そ、そうですか?」


 どこがどう俺らしいのかは聞かないでおこう。


「最初は早く交代を寄こしてくれと催促の手紙が、騎士隊長から来ていたんだけどね。なるほど、帰りたく無くなる訳だ」

「で、殿下っ。そんなことはありませんっ」

「じゃあ今日にでも、私と一緒に城へ帰るかい?」

「え……そ、それはその……」

「という訳だ。正式にシャテルドンにはトリスタン島領主、ルークエイン・トリスタン男爵に仕えることを命じる。これは国王命令だ」

「はっ。謹んで王命、承ります」


 あ、そういうことになっちゃったか。

 まぁこの数カ月、一緒に汗水垂らして町の復興に尽力を尽くしてきた者同士。気心も知れていい。


「シャテルドン、これからもよろしく」


 彼に向かって右手を差し出す。

 するとシャテルドンは膝をつき、剣を差し出した。

 騎士の忠誠を示す動作だ。


 なんとなく気恥ずかしさを覚えて頭を掻くが、ここはしっかり受け取らなきゃならない。

 騎士の忠誠を受け取る主君としての動作は──


 彼の剣を抜き、その刃を肩に当てもう一度「よろしく、シャテルドン」と言った。


「この命に変えましても、ルークエイン男爵のお命、そして島をお守りいたします」

「ありがとう」


 島──そう言ってくれたことが嬉しかった。

 そこにはシアや姫、角シープー一家、ゴン蔵親子、ク美親子も含まれている。

 だから嬉しかった。


「あ、そうだルークエイン」

「え、はいなんですか?」


 剣を返しながら、王子の突然の声に少し驚く。

 ちょっと今、感動していたのになぁ。


「実はね、例のダンジョンが──」

「例の? あぁ、大陸行路近くのですか」


 王子は頷き、そして笑顔でこう言った。


「どうやら拡張されているみたいなんだ」


 ──と。

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