第81話:再会
船が到着し、木製タラップが掛けられた。
「ルーク坊ちゃん!」
「ロク! なんでここにロクがいるんだよっ。娘さんはどうしたんだ!?」
言いながらも両手を広げてロクを出迎えた。
嬉しくないはずがない。嬉しいに決まっている。
「えぇえぇ、娘と娘婿、それに孫も一緒です」
「孫!? 孫なんていたのかロク!!」
「今年で七歳と、四歳の男の孫がねぇ」
はは。ロクにも孫かぁ。あぁ、でもロクって六十歳ぐらいだったもんな。いてもおかしくはないか。
いつまでも優しい俺のおじさんじゃ、ないもんな。
「トロンスタ王国から各農村に、トリスタン島への移住希望者を募る話が来ましてね。いやぁビックリしましたよ。島の主の名前がルーク坊ちゃんじゃないですか。家名は違いましたが」
「あぁ、うん。話せば長くなるんだが……荷物は?」
「衣類ぐらいしか持って来ておりません。家やらなにやら、用意されているとあったもので」
「あぁ、十分だ。ロク、島にも果樹園があるんだよ。俺ひとりじゃあ見きれなくってさ」
「お任せくださ──ひぃっ!」
「どうしたロク?」
突然顔を引きつらせ悲鳴を上げるロク。
いや、彼だけじゃない。
船から下りてきた他の移住者も、そして船員も、みんながある一点を見つめてガクブルと震えていた。
振り返ってその方角を見て納得。
「おいゴン蔵。いきなり出てくるなよ。ク美を見習ってくれ」
『……すまんのう』
『あ、お呼びになりました?』
ザザァーっと音がして、船の背後にク美登場。
「ぎ、ぎゃああぁぁぁっ」
「ク、クラーケンだあぁぁぁっ!」
おいおい……。
こめかみに手をやり、それからため息を吐いて彼らに説明する。
本当は町でゆっくり茶でも啜りながら説明したかったのになぁ。
説明してもすぐには理解しようとしない移住希望者に、仕方ないとばかり俺は困った顔をしたク美がいる海へと入って行った。
服はもうベトベトだし、今さらだからいいや。
「おーい、ク美ー」
「ル、ルーク坊ちゃん!?」
「大丈夫だロク。ク美は温厚なクラーケンなんだよ。息子がいて、その息子を守るためにアンディスタンの南海上にいたんだけどな」
『み、みなさん。クラーケンのク美です。驚かせてしまい、申し訳ありません』
俺を腕の上に乗せ、それからぺこりと頭──いや胴か?
とにかくお辞儀をした。
『おかあしゃんは優しいのでしゅっ』
「わっ。じ、じーちゃんっ」
お、あれがロクの孫か。
七歳の上の子だろうな。桟橋のすぐ近くから顔をだしたクラ助を見て、驚いてロクにしがみついている。
『ぽく、クラ助でしゅ。ルークに名前を貰ったんでしゅよ』
嬉しそうに体を揺らすクラ助を見て「可愛い」と漏らす女性の声が聞こえた。
種族が違えど、子供ってのは可愛いものだ。
ク美に桟橋へ下ろしてくれるよう頼みみんなの下へ。
「ク美がいれば、もし周辺に海賊なんかが現れても、容易に撃退できるんだ」
『はい。私も上の息子を海賊に殺されました……海賊だけは私、許せませんっ』
『おにいちゃん……』
兄を思い出して涙を浮かべるクラ助を見て、ロクの孫が貰い泣きをしはじめた。
「じーちゃん……このイカ、かわいそう」
「そうだな、かわいそうだなぁ。じゃあカッツが友達になってあげなさい」
「友達?」
ロク孫がクラ助を見る。
泣いていたクラ助だが、友達という言葉に反応して目を輝かせた。
『ぽ、ぽく、人間のお友達、欲しいでしゅ!』
「そうなの? 僕ねぇ、カッツっていうんだ。よろしくね」
『はいでしゅ! よろしくでしゅ』
クラ助が腕を伸ばすが、さすがに海面から桟橋の上までは届かない。
それが分かっていたから、ク美が直ぐに腕を伸ばしてクラ助を持ち上げてやった。
白くて細長い子クラーケンの腕と、日焼けした人間の子供の手。
その二つが重なり、握られた。
種族が違っても、こうして分かり合えるんだな。
ちょっとうるっとしたところで──
「"奇跡をもたらすマナ──時空を介し──言霊を届ける媒体となれ──"」
「は? なんだ、これは」
「そ、そこをお通しくださいご領主様っ!」
「はい?」
船から新たに下りてきた一行。その先頭にいたのはロイスだが、なんか物凄い形相だぞ。
「あ、ルーク様。ロイスとあそこの彼を急いで町へお連れしましょう」
「エアリス姫、どうしたんですか、あれ?」
「魔導通話と魔導転送を設置するための、魔法ですわ」
にっこり微笑むエアリス姫とは対照的に、ロイスと、もう一人の魔術師が青ざめた顔で呪文を詠唱し続けていた。
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