3章ー 城へ
第53話:お城へ
トロンスタ王国の王都トロンジスターへとやって来たのは、ゴン太とエアリス姫の体調が落ち着いてから。
しかも馬車ではなく、ゴン蔵の背に乗っての入城だ。
そりゃもう、みんなビックリして指差しまくられたよ。
あと危うく攻撃されるところだったよ!
「父上、只今戻りました」
「お父様、只今戻りましたわ」
「ドラゴンに騎乗して戻ってくるなど、まったく……心臓が飛び出るかと思ったぞ」
柔和な笑みを浮かべた、白髪交じりの王が二人を出迎えた。
王子が王子なら、王様も王様ってことか。
玉座から下りてきて二人を次々にハグした後、次に俺を見た。
「エリオルの報告書にあったルークエインとは、そなたか?」
「はい、国王陛下」
王様に会うのなんて初めてだ。緊張はするけれど、シャキっとしなきゃな。
「密約書のほうも見せて貰った。まさか公爵家の者が、下賤な海賊どもとつるんでいようとは……」
「しかも冬季限定とはまた……」
大臣らしき恰幅の良い初老の男も加わって、呆れたように口を開く。
「あの、何故冬限定で海賊なんでしょうか?」
と、素朴な疑問を口にしてしまった。
「ふむ。オレゴリー、彼に説明してやってくれ」
「はっ! ルークエイン殿、トロンスタ海軍の将を務めるオレゴリーと申します」
随分と立派な髭のおじさんだ。いや、将軍をおじさんと呼ぶのは失礼かもしれないけど。
「ここアレストン大陸の南側海域は冬になると荒れやすく、波が高くなります。観光を目的とした船はほぼ出航いたしませんし、隣国を行き来する程度の商船も出ません」
「え、でもそうなると海賊行為の意味は?」
「多少の荒波にも耐える大型船は出航しております故。特に大陸から大陸を行き来するような船は、入港税が低くなるこの時期にこそ多いのですぞ」
と言っても、数日に一隻程度ですがと将軍が付け加える。
「だからこそなのだ。比較的陸から近い所でも、目撃者が出なくなる」
「あぁ……なるほど。観光船が出るような季節だと、あちこち船がありますもんね。あ、それに漁師の船も?」
「その通りでございます。この時期は時化のこともあって、極一部の海域以外は網を張るのも危険な状態。海を行く船が少なければ、大型船を襲っても誰にも見つかる心配がないのですよ。もちろん我々は自国の領海の巡回はしておりますが」
まさか隣国が巡回をせず、わざと海域を通る海賊船を見逃していたなんて……思いもしなかっただろうな。
しかもその海域近くをトロンスタ王国はもちろん、他の国や大陸に用のある商船も通る。
で、襲われると。
全部が全部じゃないだろうけど。
「しかし息子の婚礼品が戻って来たのは、本当に喜ばしいことだ。あちらの姫君たっての頼みであったからな」
「まったくです。制作に一年かかりましたからなぁ。戻らなかったらまた依頼を出さねばならない所でしたが、いやぁ、本当に良かった」
「うむ」
国王と大臣が頷きあう。
そりゃあ一年かけて作ったものがダメになって、もう一回お願いしますと言っても──。
魔導電話が届いても、お金の支払いは手渡しになる。
直接行って依頼して、制作に一年。西の大陸から取り寄せるのに数週間だ。
いやぁ、長い長い。
「ルークエインよ。私の方からアンディスタン王に親書と共にこの密書の写しを送ろうと思うが、よろしいか?」
「よ、よろしいもなにも、全てお任せいたします。自分が口出しすべきことではありませんので」
「そうであろうが、アッポントー公爵はそなたの祖父であろう」
「そ、ふ……あっ」
そうか。義母はアッテンポー公爵の娘だから、そう思ったのか。
そして国王は、俺と義母との間に血縁関係がないことを知らない。
「アッテンポー公爵は私の祖父ではございません。私の母は──」
身の上話を異国の王様にすることになるとはなぁ。
話を聞いた王様や大臣、他の重臣たちが、何故か涙ぐんで俺を見ている。
「辛かったであろう、ルークエインよ」
「い、いえ……成人の儀が終われば、こっそり家を抜け出す気でいましたので」
「はっはっは。なかなか気丈な方ですなぁ、陛下」
「うむ。エリオルの手紙には、貴殿が我がトロンスタに亡命したいという旨も書かれていたが」
「は、はいっ。奴隷船が沈み、漂着した島に愛着が湧きまして」
ゴン蔵とゴン太も俺たちと一緒に来ると言う。
ならなおさらあの島は都合がいい。
「今はアンディスタン領とのことですが、この件が片付けばトロンスタ領に戻るでしょうし。できればあの島に住まわせていただきたく、亡命を申し出ました」
「うむ。アンディスタンへは戻らぬか」
「国に恨みはありませんが、私を捨てた父の下へは戻りとうございませんので」
「あいわかった。海賊から大事な婚礼品を取り返してくれた功績、そして娘の命を救ってくれた礼。それをせねばな」
こ、功績!?
「私ひとりの一存では決められぬ。皆の者、ここにいるルークエイン殿に、辺境伯の爵位を授けたいがどうだ?」
「へ、辺境伯!? そ、そんな、勿体のうございます。自分はただ、のんびり自由気ままに暮らせればそれでいいので」
正直、爵位が貰えるのは嬉しい。嬉しいけれど、無人島での暮らしは面白かったし、トロンスタに来てからのいろいろなことも全部新鮮で楽しかった。
出来れば島と大陸を行き来して、あちこち冒険をしてみたい気もする。
「で、出来ればもう少し自由に動き回れる爵位のほうが……」
「欲のない男だ。いや……自由を欲したか。その気持ち、よく分かる」
優しく微笑んで、それからどこか遠くを見つめる王様。
きっと『王』という立場を捨てて、自由になりたいと思ったこともあったんだろう。
「ではルークエインには、男爵としての爵位を与えよう。みなのもの、反対意見があろうか?」
「なし」
「なし」
「同じくなし」
なしなしが何度か続いた。
「反対はおらぬようだ。しかしアンディスタンに今回のことを報告し、領土の返還を求める故まだしばらくは掛かろう。それまでここでゆるりとされよ」
「承知いたしました。ただ家族がいますので……」
ゴン蔵とゴン太はお城の中庭にいる。騎士たちの注目の的になっているだろう。
シアとボスたちは馬車と馬移動の騎士たちと戻って来ているはずだ。
とりあえず彼らが落ち着ける場所がないと。特にシーナは安静にさせてやりたい。
「お父様、夏の別荘をルークエイン様にお貸し与えください」
「夏の別荘か。なるほど、ここから馬車で半日の距離であるし、近くには山もあるのでドラゴン殿も寛げるだろう」
エアリス姫の一言で、豪華すぎる宿が決まった。
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