第31話

「助けに来ました……というのは少し違うけど、でも助けに来ました」


 俺自身よく分からないことを言って、船倉に閉じ込められている人たちを解放した。

 警戒されながらも、こちらの事情を掻い摘んで説明すると理解してくれたようだ。


「そうか。奴らが言っていた、貴族のぼっちゃんってのはあなたの事だったのですね」

「ありがとうございます坊ちゃん」

「ありがとうございます」

「止めてください。俺はもう、あの家の人間だとは思いたくないのだから」


 そう話すと、たぶん海賊から俺のことを聞いていたのだろう。みんながみんな俯いて、坊ちゃんとは言わなくなった。代わりに名前を尋ねられる。


「俺はルークエインだ。母から貰ったこの名前だけを名乗らせてもらうよ」

「分かりやしたルークエイン様。それでその……後ろの獣人の少女は良いとして……アレはなんですか?」


 彼が言うアレというのは、ボスのことだ。


「一見すると角シープーみたいですが、めちゃくちゃ大きくありやせんか?」

「あぁ、やっぱり大きいんだあいつ。だろうなぁとは思っていたんだ。えぇっと、あいつの名前はボスで、俺の家族なんです」

「家族? いやでもモンスターでしょ? そりゃあシープーは温厚で、家畜としても飼育できるとはいいますが」

「お互い協力し合って、この島で生活している。だから家族なんだ」


 船乗りたちは首を傾げたが、そもそも温厚というのは周知されているらしく、驚くだけで怯えたりはしていなかった。


「今度は皆さんのお話をお聞かせください。あぁ、まずは外に出ますか。ここじゃあ寒くて敵わない」

「同感です」


 そうして全員で船を下りる。で、そこかしこに転がる海賊たち。


「……海に叩き落としておきますかね」

「石を括りつけやしょう」


 鬱憤が溜まっていたんだろうな。船乗りたちは船からロープを持って来て、テキパキと海賊に結んで海に叩き落して行った。


「これで少しは気が収まるでしょう。殺された仲間の恨みもありましたし」

「そうですか……まぁそのままにしておくのも、見た目にも悪いし助かります」

「あっしはアグラと申しやす。一応甲板長をやっておりました」


 アグラと他数人で洞窟内に入り、温かい暖炉の火の傍に椅子を持って来て座った。

 へぇ、暖炉の真上に穴があって、煙突みたいになってるのか。


「それで、皆さんはいつから奴らに?」

「はい。今から二カ月近く前です」


 俺がこの島に来て、だいたい二カ月だ。もう少し長いかな?

 島に流れ着くまでに三日掛かっているのを考えると、奴らも同じぐらい海を漂流していたようだ。

 救命ボートに乗っていたのは三十人ほど。奴らを救助し、食べ物まで分けてやって──


「三日後に奴らが本性を現して、うちの船長や仲間を半数ほど殺しやがって……」

「船を乗っ取られたあと、奴らは仲間と合流するといってアンディスタンの港に向かったんです」

「そこで仲間が三十人ぐらい増えまして」


 港を出航してからは南に進路を取り、てっきり南の大陸に向かうのかと思いきや。

 途中で進路を北東に。そしてこの島に到着したそうだ。

 たぶんあの夜に船を襲った化け物を避けるために、進路を大きく南寄りに取ったのだろうな。


 船乗りは二十五人いた。この人数で船の操舵は可能か尋ねると、


「問題はありません。ただこの時期の時化をこの人数で乗り越えるには、若干不安はありますが」

「じゃあ大陸に戻るのは、波が少し穏やかになってからかな」

「その方が安心しますわ」


 今夜は洞窟で夜を明かし、明日はみんなで町に移動するか話し合った。

 ただ町の建物はすぐには使えない。修復しなきゃならない箇所も多い。


「なら儂らはここで寝泊まりします。船には食料もだいぶありますし、釣り糸を垂らせば魚も取れるでしょう」

「じゃあ野菜や果物を持ってきます。野菜は多くは無いのですが、果物はたっぷりあって」


 みかんとりんご、それにレモンはまだまだ元気だ。ブドウはもうお亡くなりになっているが、何十房と干しブドウにしてある。


 彼らはさっそく、夕食の準備に取り掛かった。作ったのは海賊だけど。


 食事を済ませ、俺たちの寝る場所を確保。

 それからこのアジトの中を見て回った。

 船乗りたちも同じようにアジトの探索をしている。彼らは荷物をここまで運び入れた後、その先には行かせて貰えなかったらしい。


「宝の隠し場所を見られたくなかったんでやしょう」

「意外と警戒心が高かったんだな」


 が、それもボスとシアの鼻にかかれば、あっさりと見つかった。

 そこには金銀財宝がそこそこ。


「もっとがっぽがっぽあるもんだと思ってた」

「おそらく南や西の大陸で売りさばいているのでやしょう。それでもこれだけの金銀宝石は、相当な金額でやす」


 誰かがごくりと喉を鳴らすのが聞こえた。

 

「持ち主が分かるような物は手を付けない方がいいでしょう。でも硬貨なんて名前が書いている訳でもないし、貰っても文句言われませんよ」


 たぶんと付け加え、彼らが持ち帰ることを見て見ぬふりをすることにした。

 

 俺はというと──あるモノを探している。


「シア。見つけたい物があるんだ。もしかすると沈んだ船にあったかもしれないけど」

「なーに?」

「紙だ。俺を奴に売った男──その、父親なんだが、そいつと海賊の船長、もしくは義母やその父親と交わした密約の証拠品でもあればなと思って」


 海賊であると同時に、奴は商人だ。きっと密約書を作製しているはず。

 封筒か、それとも紙だけなのか。もしかするとどこかに義母の実家であるアッポントー公爵家の家紋があるかも。

 うろ覚えの家紋を地面に絵で描いてシアに見せる。


「こんな模様の印が押されているかもしれない」

「さがすー」

「頼むよ」

『ンベ』


 ボスも絵を見ていた。

 お宝のある部屋の奥に別の部屋があり、そこが怪しい。


『ベベェ』

「え、ボスが見つけたのか!?」


 そしてやっぱりあった。

 ボスが見つけたのはガラスの大きな瓶。湿気対策かなぁ。

 中には紙が入っていて、さっき俺が描いた絵に少し似た蝋印が見えていた。


 蓋を開け中身を見る。

 そこには確かにアッポントー公爵の名と、ローンバーク侯爵の名があった。他にゲリノムという知らない名前が一つ。これが海賊商人の名だろう。

 内容は──


「略奪行為は冬季限定とする。追跡はするが、捕縛はしないものとする。大型商船の出向情報のリーク。略奪品の一部横流し……最低だな」

「さいてー?」

「そうだ。海の上だってそれぞれの国が、陸地からある程度の距離までは守ってるんだ。海を守るべき海軍の半分を指揮する公爵が、海賊に他の船を襲う許可を出すなんて最低だろ?」

「うわぁ、ひどいねぇー」

『ベェー』


 ほんと、酷いな。

 けど。 


 ふふん。これをアンディスタン王国に持って行って、王様に見せたらどうなるかなぁ。

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