第30話


 暗くなるまでの間に、準備を整えてある。

 付与石を大量に用意したのだ。


 夜になると荷運びをしていた人たちが鎖に繋がれ、船倉へと閉じ込められた──らしい。

 シアは夜目が利く。そんな彼女が教えてくれた。

 暗くなると俺にはなんにも見えない。松明の明かりがうろうろしているぐらいには分かるが。

 それをボスに寄り添って──正しくは毛に寄り添って見ていた。


「ボスは分かるが、シアも夜目が利くんだな」

「あい」

「よしボス。俺たちを下まで運んでくれ」


 ボスの背に跨りしっかり毛を掴む。またあの斜面を下ることになるが、上りより下りの方が怖いよな。

 そう思っていたが。


「え、ちょ、待って。まさか直接おりいぃぃっ」

「にゅはははははははははは」

『ンベエエエェェェーッ』


 ウソーーーーーーんっ。

 裏手から下りるものとばかり思っていたのに、まさか真正面から下りるとかぁぁっ。


「な、なんだあの声は?」


 さっそく見つかってるじゃねーかーっ!

 すかさず雌シープーの協力で得た『ウィンド・ストーン』を投げつける。


「白い化けも──ぎゃあっ」

「うぎゃっ」


 見張りだったのだろう。海賊二人組は風の刃に胸をざっくり切られ、その場に倒れた。

 悲鳴を聞きつけ、海賊たちが駆けつけてくる。

 この岩山には自然に出来たのか、それとも砕いて作ったのか、とにかく洞窟がある。

 奴らの隠れ家がここのようだ。

 その洞窟からぞろぞろと海賊たちが出てきた。出てきたそこに──


「食らえ! 『ニードルクエイク・ストーン』だ!」


 ボスの地属性遠距離魔法の『ニードルクエイク』。それを付与した石を四つ掴んで投げつける。

 ドギャンッドギャンと岩が針の山のように突き出し、海賊どもが次々に空へと舞う。


 洞窟からまだまだ海賊が出てくるので、今度は『アイス・ストーン』だ。

 特に洞窟の入口にばら撒けば、出てくる奴らが次々に転倒。それだけで頭を打ち付け、動かなくなる奴らもいた。


「何人倒した?」

「がうぅぅぅぅっ……い、いち、にぃ、さん、しぃー……しぃー……」

「あー、分かった。今度数字の数え方を覚えような」

「あいっ」

『ベベベェ』

「あ、さんじゅー、なな?」


 モンスターの方が賢いじゃん!


 三十七人か。まだいるのかな?


「おい、さっきから騒々しいぞ──な、なんだこりゃあっ!?」

「か、頭ぁ。大変ですーっ」


 五人ほど新規で出てきたが、仲間が倒れているのを見て凍結トラップを踏むことなく引き返してしまった。

 まぁいいや。


「さて、洞窟以外に海賊は──お、向こうで見張りしてた奴らかな。四人ぐらいこっち来てるぞ」

「がるるるるぅっ」


 タンっとシアが駆け出す。


「ボス頼むっ。ここは俺ひとりで大丈夫だ」

『ベ』


 ボスがすぐさま追った。

 シアの足も速いが、ボスはそれよりも早い。すぐに追いつき、横に並んで海賊へと突進していった。

 俺の目にはボスの白いもこもこがぼぉっと浮かぶように、そしてシアの銀髪が光って見えているだけ。

 ただ男たちの悲鳴が聞こえているので、一方的に蹂躙しているんだろうな。


「くそっ。誰がこんなことを!?」

「俺だ」


 洞窟の奥から姿を見せたのは二十人ほど。その中にあのデブ商人の姿もあった。

 その頃になるとじわじわと氷が解け、そしてぞろぞろと出てくる。と同時に石を投げる。

 あれ?

 これ何の石だっけか?


 投げたのが石だと分かっていたからか、それとも見えなかったのか。避けもしないでまともに石を食らった海賊が、後ろに立つ仲間を巻き込んで吹っ飛んだ。ズガァーンっという音と共に。

 あぁ、必殺角石か。

 

「は?」

「え?」


 唖然とする海賊たちに、次々と石を投げつける。

 四つ目を投げた所で、立っているのはデブひとりになった。


「な、なんなんだおいっ。き、貴様、俺になんの恨みがある!?」

「なんの? おいおい、俺の顔を見忘れたのか? まぁ数日しか世話になってなかったけどさ」

「貴様の顔? ……ぶひっ。き、貴様、ローンバーグ侯爵んところのガキじゃねーか!? 生きてやがったのかっ」

「残念だったな。しっかしお前、まさか侯爵に略奪品を貢いでいたとはなぁ」

「ぶひっ。な、何故それを!?」


 さっき岩山の上から聞きました。

 

「けど、侯爵にそんなことして、何の得があるっていうんだよ。あ……もしかして白豚義母の父親が、南西海軍の司令官だったっけ?」

「ぶひっ」


 明らかに狼狽えた。

 そうか。海軍にコネ作って略奪行為を見逃して貰ってたのか。

 だが年中そんなことしていたら海軍と海賊が繋がっていることもバレてしまうだろうに。


「な、なにが希望だ?」

「いや、特にない」

「がうっ」


 シアが戻って来て、俺の隣に立つ。その尻尾はビンビンに逆立っていた。


「お、お前はまさか……あの小汚ねぇーガキか!? くそっ。捕まえた時に洗っておけばよかったぜ」

「ううううぅぅっ」


 唸り声を上げるが、シアは飛び出さない。


「俺が右」

「あい」


 二人同時に地面を蹴る。


「ひっ。ま、待てお前たち! 金が欲しいか? 宝石か? お、俺の下で働けば、全部手にはい──」


 奴の言葉はそこで終わった。

 足の速いシアが先に奴の下へ到着し、爪で首を掻き切る。

 一歩遅れて右から俺が、僅かに残った首の皮を断ち切った。


 満月の夜空に舞う醜い生首。

 月の女神セイフェラシア様。汚らしいモノを見せてしまって、ごめんなさい。

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