第27話


「一日二粒ならお腹を壊さないようだな」

「うぅ」


 五粒食べてリバース地獄を味わった三日後。それでもステータスアップの魔力に取りつかれた俺は、一日何個なら平気かという検証をした。自らが実験台になって。

 五粒でダメだったんだし、四粒ならいいだろと思った。でも後になってお腹を下した。三粒でもだ。

 その結果、体調が戻るとステータスは元通りに。


 で、二粒なら下痢になることも、リバースすることもなく。

 結局十日目に無事な個数が判明したという。


「分かったところで、木に実っているブドウがそろそろ限界なんだよなぁ。」


 木にはまだブドウの房がいくらでもついているが、そろそろ腐り始めているモノもある。

 結構食べてはいるが、木の数が多い。全体の1%も食べれてないだろう。

 けど付与する食材として、ブドウは都合がいい。りんごだと一個丸々食べなきゃならなくなるだろうし、一口で食べられて、一度に大量に手に入るブドウはコストパフォーマンスにも優れている。


「腐らせず、長期保存できる方法でもあればなぁ」


 ドライフルーツとかは保存が効くのかな?

 ブドウと言えば干しブドウがあるけれど……。

 錬成でやってみるか。


 ステータスの実の効果を付与したシャインマスカットを『錬金BOX』に入れて、干しブドウになれー、ドライフルーツになれーっと念じる。

 はい、箱光りましたねー。

 出来上がってんじゃん!


 効果があるのかどうか。蓋をして今度は鑑定。


【ステータスの実ランダムの効果を持つシャインマースカットのドライフルーツ。ステータス上昇効果あり】


 俺はガッツポーズを作った。






「ボスたちの毛……もう伸びまくってるな。早くないか?」


 毛刈りをして一カ月は経っているが、5センチほど残していた毛は四倍の20センチぐらいにまで伸びている。


『ンベェェ』


 ドヤ顔でにんまり笑うボス。


 ガラスハウス2で栽培する人参がついに収穫可能になって、初物をシープーたちに食べて貰おうと持って来たのだが──。

 空から白い物が降ってきて、人参を食べさせつつ彼らの毛に体を埋めた。気持ちいい。


「さすがに途中まで『錬金BOX』で成長させた人参だから、一カ月で成長しきったなぁ」

「うわぁーい。うきぃー。きえーっ」

「シアは寒くないのかー?」

「なーいっ」


 確かにシアは寒さに強いようだ。俺はウールのダウンジャケットを手放せないが、シアはセーターすらいらないと言う。

 ただ肌触りが気持ちいいからと、ノースリーブのワンピースを所望するので錬成してやっている。パンツはちゃんとシーツで錬成したのがあるから、ノーパンではない。俺もだ。


「ステータスの実で体力が8増えたせいか、体力は付いたと思うんだが、寒さへの耐性はまったく関係ないみたいだな」

『ベッ。ン、ンベェベェベェェー』

「ん? どうしたボス。おーい、シアー。通訳してくれー」

「あ~い」


 ボスはシアに何かを訴えかける。するとシアが俺にこう言った。


「ボスー。食べたいってぇ」

「食べたい? 人参をか?」

「ううん」『ベー』


 一人と一頭が同時に首を振る。


「実ぃ。ステータスの実ぃ」

「は? モンスターも食べるのかよ」

「うん」『ベェ』


 食べられるそうだ。

 一言二言シアに伝えて、彼女が俺に通訳する。この通訳もシアの発音練習には役立っていた。


「守るーって。かおくを」

「家屋……いや、シープーが小屋を守るのに、ステータスの実はいらないな」

「ちあーう! かぁー、ぅぅぅじょぉ、くぅー」


 難しいな。かーじょーくー……。


「あぁ、家族か」

「そう!」

『ンベェ!』

「なるほど。家族を守るためにもっと強くなりたいのか」


 ボスは頷く。

 なんたってボスの子供が、もうすぐまた増えるからな。

 この島の東側──つまりこちら側は、比較的ランクの低いモンスターしかいない。だが西側は2ランクほどアップする。森が深いからだ。


「分かった、分けてやるよ。ただし一日二粒までだ。それ以上食うと地獄を見るぞ」

「お腹ぎゅるぎゅるーの、おえぇー」

『ベ、ベェェ……』


 ふ。モンスターでさえ知らない事実だったようだ。


 宿に戻って付与干しブドウを持ってシープーの下へ。その頃には空から落ちてくる白いモノ──雪は本格的に降り始めた。

 シープーの毛を刈らせてもらって、それで絨毯でも錬成しようか。あと毛布ももう一枚欲しい。


 暖炉用の薪は──お向かいの宿屋から頂こう。誰も使ってないんだ、怒られたりもしない。


「無人島暮らしもなかなかいいが、いつかは大陸に行ってみたいな。お前も家族に会いたいだろう」

「かーじょ、くー? ウークも会いたい?」

「いや全然」

「はやっ」


 だってそうだろ。

 俺を追放し、更には奴隷商人に売り飛ばしたような親だ。会いたいなんて思うはずが……。

 もしかしてシアもそうなのか?


「ま、まぁ大陸に行きたい理由はちゃんとあるんだ。例の宝石とかさ。売って金にすれば、ちゃんとした布とかもたくさん買えるだろ?」


 布があれば衣類やカーテン。他にもいろいろ錬成できる。

 今はシーツを洗って錬成した物で賄っているから、すべてが白なんだよ!


「調味料とか、野菜の種とか。そういうのも買えば、この島ももっと豊かになる。いいと思わないか?」

「おおぉぉぉ! イイ!」

「だろ?」


 先日、東の海岸に行った時だ。めちゃくちゃ波が高かった。冬場は海が荒れるって聞いたことはあるけど、ここもそうらしい。


「春になって波が穏やかになったら、頑張って船の建造もしてみるか。あの小舟を改造するだけでもいいんだけどさ」

「おぉ、シアがんばりゅー」

「あぁ、一緒に頑張ろうな」

「おー!」

『ンペェー』


 俺とシアの間にボリスが首を突っ込んで来た。

 小型犬から大型犬サイズに成長としているボリスだが、顔は幼く愛らしい。


「大陸に行っても、またここには戻って来る。ここは──俺の故郷だ。新しい人生を歩む俺にとっての、故郷になるからな」

「シアもーっ」

『ンペェー』

『ンベェェ』


 ボスもやって来て、その鼻を擦りつけてくる。

 ここが故郷なら、シアやボスたちは俺の家族みたいなものだ。


 もしこの先、島に人が訪れたとしても。

 大陸でもシープーなら羊毛として飼育されている。飼育シープーだと分かるように目印でもつけておけば、襲われることもないだろう。

 もし彼らを襲う人間が現れれば、俺が全力で守る。


 ま、今は暮らしを良くするのが先決だ。


「という訳で、ボス。毛をくれ!」


 島での暮らしを発展させるための第一歩を、これから行うのであった。

 まずは絨毯を錬成しよう。



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