第20話

 ご懐妊!

 おめでとうっ──と言っている場合じゃない!


「どうやってこの巨体を運ぶか……シーツにくるんで引っ張っていくか? いやシーツが途中で破れるだろうな」

「あうぅっ」


 考えろ。考えろ。

 こんなことなら箱の中に、何か入れておくんだっ……いや、入ってるぞ。

 雨漏りを防ぐために錬成しようと集めた椅子やテーブルが!


 シープーのサイズをざっと計る。だいたい210センチぐらいか。

 なら幅110センチ、長さは220センチの木材を二枚錬成しよう。

 厚みは3センチで念じると、十六枚の板が完成した。

 使うのは三枚でいい。あと釘も必要なんだよなぁ。


「釘……。剣を錬成するか」


 剣を放り込んで、短剣と、削った分の鉄で釘を作った。

 

 板を二枚並べて、その上に向きを変えて一枚を真ん中に乗せる。それを釘で固定してっと。

 残りの木材で今度は小さな車輪を錬成だ。

 車輪は全部で八つ作り、板に取り付ける。もちろん、ちゃんと転がるように。


「シープー、この板に乗せるからな?」

『ン、ンベェ』


 まずはシーツを彼女の体の下に押し込み、それを引っ張って板の上に乗せた。

 シーツを押し込むとき、なんとなく内側から蹴られたような感触があった。


「お前のお腹の子は無事だぞ。今俺の腕を蹴ったからな」

『ンベッ。ンベェェ、ンベェェ』


 安心したのか、シープーは気を失ってしまった。

 早く地上に連れて帰らないと。


「シア、俺が前からロープで引っ張るから、お前はシープーの体ごと押してくれ」

「あいっ」

「じゃあ行くぞっ」


 でこぼこしたダンジョンの地面では、木製の車輪を動かしづらかった。

 それでも必死にロープを引っ張る。

 幸いというべきかな。モンスターの気配は皆無だ。

 ボスに教えて貰っていたけれど、やっぱりここは死んだダンジョンなんだな。


 襲われる心配がない分、安心して進むことが出来る。

 時折シアが鼻をひくひくさせ、外の空気が流れてくる方角を探す。

 

 暫く進むと、突然雌シープーが苦しみだした。


『ベッベェェェッ』

「まさか産気づいたのか!?」

「うまえるっ。ウーク、うまえるっ」


 おお、俺は生まれないからな。


「落ち着け。ひっひっふーだ」


 たしかドラマなんかでこうアドバイスするシーンあったよな。

 でもそれ……人間相手なんですけど俺。

 シアも心配そうにシープーに話しかけたりしている。

 突然シアの尻尾がバビっと逆立った。


「ウークあいへんっ。あーちゃん、しゃくぁしゃま」

「赤ちゃんがなんだって?」

「しゃかしゃまっ」


 シャカ様?

 いや、逆さまか!?


 え、逆さまって、それ。逆子ってやつじゃないか?

 動物番組とかでも見たことあるけど、逆子でなかなか出てこないってことだろ。

 なかなか出てこれないと、お腹の中で窒息死するかもっていう……。


「どどどどどどどどどどうする。えぇ!? さ、逆子っ」

「がうううぅぅっ」

「え、シアお前。どこに手を突っ込んでんだ!?」


 シープーのお尻に……いや、あそこな穴に手を突っ込んでんぞっ。

 そ、そうか。手で引っ張りだすって言うんだな。

 よし、頑張れ!


 だがシアは直ぐに手を引き抜いた。


「とーかない」

「届かない?」

「あい! ウーク、手ぇ」

「お、俺がそこに手を突っ込むのか!? いやダメだろう。人さまの奥さんなんだぞ?」


 シープーだけどな。


「やう!」

「ぐぅ……」

『ンベェ……ン……』


 シープーも苦しそうだ。お腹の中の子はもっと苦しいだろう。

 俺が助けてやらなきゃ、死ぬかもしれない。

 シープーたちには世話になってるんだ。俺がやらなきゃ、誰がやる!!


「うおおおぉぉぉぉぉっ!」


 ずぼっっとあそこに手を突っ込む。

 うわぁ、めちゃくちゃ温ったけー。それにぬちゃぬちゃだー。

 そんな中を進んで行って、顔がシープーのお尻にくっつくがどうかってところで、遂に何かに触れた。

 あぁ、これ足だ。完全に逆子だな。


「掴んだっ。引っ張るぞ!」


 そう声を掛けぐっと引っ張る。

 途中で手がぬちゃっと滑り、俺の腕だけが抜けてしまう。

 もう一度だ。今度は絶対離さない!!


 突っ込んで、引っ張る。

 シープーも頑張っているのだろう。産道に力の波がぐわっと流れ、そのタイミングで引っ張る!


 ぬるりと白い足が出てくると、シアが自分の服を脱いで足に巻きつけ、それを引っ張った。


「よし出たぁーっ!」

「あうーっ」

『ンベエェェッ』


 息は? ちゃんと呼吸はしているのか?

 雌シープーが必死に赤ちゃんを包む膜を舐めとる。俺も一緒に膜はがしを手伝った。

 そして──


『ンペェー』


 か細い声が洞窟内に響き渡った。

 

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