第21話
母シープーと子シープーを荷車に乗せ、ゆっくり地上を目指すこと数時間。
『ンベェッ。ンベベベベェッ』
暗闇にぼぉっと浮かぶ白い塊が見えた。それは同時に出口へと到着したことの証。
「ぷはぁーっ。やっと出られたぁ」
「あうぅぅ」
『ンベッンベェェッ』
『ンベェ~』
『ンペェ』
『ベェ!? ベベベ、ンベェェェッ』
もう何言ってるのかさっぱり分からない。
とにかく今は母子を休ませないと。特に母シープーだ。7メートルの高さを落ちているんだ、重傷なのは間違いないだろう。
「お、良い感じに小屋があるな。ダンジョンの入口を監視する小屋だったりしたのかな」
「おおぉ」
「シア、シープーを運ぶから手伝ってくれ」
「あいっ」
小屋は石造りで頑丈そうだ。
子シープーを下ろし、母シープーをシーツごと小屋の中に運び入れる。
『ンベェッ。ベッ』
「お前らも入ってこい。外は雨だろう」
本格的に降り出した雨。シープーの毛もびしょぬれで、このままだと風邪を引いてしまう。
なのに嫌がって入ろうとしない。
この反応は──あったあった。
「おい。魔石ランタンは空なんだぞっ。お前たちが嫌がる匂いのもとはどこにもない! いちいち気にするなっ。それともそのまま雨に打たれ、風邪を引いて子シープーに移す気か!」
『ベッ……ウゥ、ンベェェーッ』
意を決してボスが入って来た。そうなると残りの雌シープーもついて来るしかない。
中には暖炉があったので、もう必要のない荷車を分解して薪にする。
『錬金BOX』の中で木材から種火を作って火を点けた。
「母シープーの容態はどうだ?」
「うぅぅぅ」
弱っていってるのか。くそっ。
せっかく助けたのに、ここで子供を置いて死ぬのか?
今世の俺の母のように!
覚えてる。前世の記憶を持って転生した俺は、覚えているんだ。
今世の母は、俺のことを愛してくれていた。俺のことを案じてくれていた。
俺を残して死ぬ自分を恨んでいたんだ!
救いたい。
錬金術ならポーションが作れるだろう!
『錬金BOX』なら素材さえあれば、道具がなくても作れるんだろう!
「ボス。ポーションの材料になるような、薬草の生えている場所をしらないか?」
『ンベ。ベェー』
「よし、案内しろ」
「あうっ」
「シアは今回はここに残れ。残って母シープーの看病をするんだ。いいな?」
「……あい……」
よし、いい子だ。
ボスシープーと雨の中出ていくと、ボスが身を屈めて『ベ』と短く鳴いた。
「乗れってのか?」
『ベェ』
うおぉ、シープーに乗れるのか!
寒い冬が近いのもあって、彼らの毛は少し残してある。
ふわもこの乗り心地はなかなか──激しかった。
ドドドドドドッと山を駆け下り、森へと突入。
小川を越え暫く進むと、高さ5メートルほどの岩山があった。
ボスが岩に前足を掛けて直立する。彼の前足がギリギリ届かないぐらいの位置に、ヨモギの葉に似た植物が生えていた。
錬金術の本で見たことがある。
上級ポーションの材料だ!
「いいのが生えてるじゃないかっ」
数は少ないが、摘めるだけ摘んで行こう。
帰りに小川で水を汲んで小屋へと急いで引き返す。帰りもまたシープーの背で弾みながら、なんとか小屋へと到着した。
「ただいまっ。どんな具合だ?」
「うぅぅ」
シアの表情は険しい。だが彼女の向こう側で横たわる母シープーのお腹は、まだしっかりと上下していた。
「すぐにポーションを作る。待ってろ」
摘んだヨモギは箱の底の方で水に浮かんでいる。
水が多すぎたら効果が薄まるかもと思って、コップ二杯分ぐらいしか入れてきていない。
【ヨモの薬草。水と一緒にじっくりことこと煮込むことで、上級ポーション液となる】
さっきからそんな声が聞こえていた。
じっくりことことか。それを意識して念じ、箱が光る。
出来上がったのはほんのり緑色の液体だ。
箱をもう一度閉じると【上級ポーション。怪我の治癒に最適】という声がした。
朝日が窓から差し込み、その眩しさで目を覚ました。
あぁ、雨は止んだのか。
はぁぁ、それにしても……天然羊毛あったけー。
上級ポーションを飲んだ母シープーは、あっという間に怪我が回復。
ただ出産で失われた体力はすぐには回復しないようで、俺たちはそのまま小屋で眠りについた。
『ンペェェ~』
「おはよう子シープー。かーちゃんはどうだ?」
『ンペェェ~』
「おいやめろっ。くすぐったいだろう」
俺の顔をペロペロ舐めまくる子シープー。なんか味でもするのか?
「んぁぁ。はおー、ウーク」
「おはようシア。母シープーを見てくれないか?」
「ん」
母シープーの様子をシアに見て貰うと、彼女は元気になっていた。
ただお腹が空いたとのこと。
「じゃあ人参を持って来てやるか」
「おーっ!」
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