第9話
何もなければ引き返して西の海岸を進もう。
そう思っていたのだけど、30分ほど歩いて見つけてしまった。かなり先の海岸に、桟橋っぽい物を。その先には山があって、こちらから見ると完全に断崖絶壁だ。
「人が暮らす町か村が近くにあるかもしれない! 行こう、シア」
「がるるぅ」
駆け出すが、砂に足を取られ上手く走れない。ここは無駄に体力を消耗しないよう、歩こう。
一時間近くかかって到着したそこには、確かに桟橋があった。
ただし使われている形跡はなく、木製の橋はあちこち底が抜け落ちていた。
「今は使われていないようだな。でも、前は使われていたってことだ。この島に人が住んでいるかもしれない」
「あっ……あうっ、あうっ」
「ん? 何か見つけたのか?」
目の良いシアが何かを発見したらしい。彼女は駆け出し、森のほうへと向かう。
いや、森を切り開いた道へと向かっているのだ。
森の一部、そこだけ木が一本も生えていない通路があった。木が生えていないのは、地面が整地され、石畳が敷かれているからだ。
でも敷き詰められた石の隙間から、だいぶん雑草が伸びている。
桟橋も、この道も随分使われてないんだろうな。
もしかするとこの島は、以前は人が住んでいたけど今は……。そんな島なんじゃなかろうか。
「このまま行ってみるか。途中で何か獲物と遭遇でもするといいんだけどな」
「がうっ」
「いやだからって、あんなのと遭遇するつもりはなかったんだっ」
「がううぅっ」
『ブゴォーッ』
あんなの=巨大猪だ。
石畳の上を歩いていると森からひょっこり出てきたのが、目の前のあいつ。
すぐに剣を構えるが、向こうは体高だけでも俺の身長を超える巨体だ。剣一本で勝てる気がしないっ。
だが──同時に口元から涎が溢れるのが分かった。
俺は欲しているんだ。
あの猪──の肉を!
「シア。お前は下がっていろ」
「がるぁあぁっ」
「いやいや、お前武器持ってないだろうっ」
「がっ」
「お、おいっ。斧でどうしようってんだっ」
俺の腰にぶら下げた斧をひったくって、シアは飛び出していく。
殺る気なんだな。
「肉を食いたいんだな!」
「がうーっ!」
いい返事だ。
俺も剣を構え飛び出した。
そうなると猪も興奮して蹄を鳴らす。
ドドっと走って来る猪をサイドステップで躱しながら剣を振る。
ふふん。俺だって一応貴族の家に生まれた子供だ。剣術ぐらいは習ってたんだ。
本当はエンディン用に雇われた講師だったが、あのデブが剣術を学ぼうとしないもんだから俺がこっそり教えて貰っていたって言う。
それが役に立つときが来た!
振った剣が奴の腿を裂く。だが元々巨体だ。その程度では当然倒れはしない。
シアも斧を振るが、胴に刺したところで猪が暴れて退散。
あいつ、武器の使い方が分かっているみたいだな。ただ今回は相手が大きすぎた。
痛みで怒り狂った猪は、胴に斧を差したまま突進してくる。
仕留めて見せる!
奴の眉間に剣を突き立て、すぐさま上空へとジャンプ──なんてチートな身体能力がある訳もなく……。
それでも眉間にブッ刺すところまでは出来た。
そしてジャンプ出来ずに吹っ飛んだ。
幸いにも茂みに落下したせいで、思ったほどのダメージはない。
「死んだか!?」
『プギイイィィィィッ』
「まだ生きてるのかあぁぁーっ」
しかもこっちには武器がない!
錬成した剣も斧も、奴に刺さったままなんだぞっ。
れん──
「そうだっ」
『プギャァァーッ』
再び突進してくる猪。
俺は茂みから転げ出て、すぐさま『錬金BOX』を取り出した。
猪の突進を躱し、躱し、探す。
見つけた!
「こっちに来やがれ!」
『プゴオオォォォォッ』
箱のふたを開き、地面に転がる大きな石にすっぽりと被せた。
くるりとひっくり返して蓋を閉め、
箱のふたはまだ開かない。
すぐ背後に生えた木の前までやって来ると、そこで蓋を開いた。
中身をすぐに取り出し、木のうろに突っ込む。
奴が突っ込んでくると、杭を足場にして今度こそ飛んだ。
『プギイイィィィィッ──』
長い断末魔が森に響く。
うろに刺した杭は、上へとジャンプするための足場として使っただけじゃない。
突進してきた奴自身の勢いを利用し、突き刺すための武器でもあった。
それが見事に命中して、脳天から喉元にかけて突き抜けていた。
木の枝に掴まっていた俺は猪の上に着地。
すぐに地面に下りて距離を取ったが、さすがに死んだだろう。
「た、倒した」
「がうっ。がう、がうぅーっ」
「やった! やったぞシア。肉だ。肉をゲットしたぞぉぉぉぉっ!」
こっちの世界で十五年生きてきて、今までで一番嬉しい出来事だ!
「そ、そうだ。解体しなきゃな」
「がうっ」
「と言っても、魚はさばけても動物……」
「あぐっ」
「ん、お前がやるのか?」
猪の額に刺さった剣を引き抜くと、それを寄こせと言わんばかりにシアが手を差し出してくる。
斧の使い方というか、武器の使い方は分かっているようだ。
任せてみるか?
剣を渡すと、シアはテキパキと猪を解体し始めた。
毛皮を剥ぎ、それから肉を切り分けていく。
その間に『錬金BOX』に入れていた炭を回収して、ついでに枝とつる草を集める。これを錬成して肉を運ぶための背負子を作った。
シアが切り落とした大きな肉の塊を『錬金BOX』へ入れ、血抜き分解をする。
錬成が終わって箱を空けると、肉の横に血の塊があった。これは捨てる。モンスターが血の臭いに惹かれてやってくるのを避けるためだ。
「シア。全部は運べないぞ」
「んがっ!?」
「そんな顔するな。肉ならまた狩ればいいだろう」
俺の頭三つ分ほどの肉を背負子に乗せ、それを毛皮を持って石畳を歩き出した。
シアは何度も何度も猪を振り返ったが、最後には俺が背負った肉を見て諦めたようだ。
重い肉と毛皮を背負って歩くこと一時間ほど。
道が開け、遂に建物を見つけた!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます