第10話:町発見

 森を抜け、ウキウキと建物のほうへ向かう。

 見えたのは小さな見張り塔だった。森を通ってやって来る人の監視塔だろうか?

 しかし……。


「使っている気配はないよな」

「うぅぅぅ」


 塔の下には木造の小屋もあったが、戸もなければ壁や屋根にも穴が空いていた。

 見張り塔のほうは無事だが、梯子が朽ちて上ることができない状態だ。


「もう少し進もう」


 石畳はまだ続く。

 見張り塔の先は草原なのか、元々ただの平地だったのか……とにかく草がぼうぼうだ。

 その草ぼうぼうの数百メートル先に何軒もの建物が見えた。

 見えたけど……ここからでも分かるほど、建物の傷みは激しい。


「こりゃあ誰も住んでないかもなぁ」

「あうぅ」


 到着してみると案の定だ。

 人の気配はないし、建物のほとんどが崩れ落ちていた。中には原型すら留めないモノもある。


「使えそうな建物がないか探そう」

「うにゅうぅぅぅ」

「腹が減ったか? じゃあ先に肉を焼いてしまうか」

「ううぅ!」


 背負子を下ろして猪肉を適当なサイズのブロックに切り落とす。

 それから斧を『錬金BOX』に入れ、鉄と木材に分解。鉄のほうを再び箱に入れ、串焼きの棒になるよう錬成した。


「俺が肉を鉄の棒に刺していくから、シアはこの塩を振りかけていってくれ」

「がう」


 こんなこともあろうかと、海水を錬成して出来た塩は持って来てある。

 あとはその辺で適当に……うん、壊れた木造の家を薪代りにするか。

 板を剥がす必要もないほど、地面にそれらが落ちているから拾い集め、火を点ける。


「よし。これで肉が焼ける。そうだなぁ……お、あれがいい」


 近くにあった煉瓦を集め、焚火の左右に積み上げる。その煉瓦に串を乗せ、火を跨ぐようにして並べた。


「肉が焼けるまで時間が掛るし、俺は使えそうな家がないか見てくるよ。剣を置いて行く。何かあったら大きな声で叫べ。いいかい?」

「がうっ」


 シアは俺を見ていない。肉だ。肉しか目に入っていない。

 だけど差し出した剣には手を伸ばしたし、聞いてはいるんだろう。

 少し心配なので、遠くにはいかないようにしないとな。


 石畳の通路沿いに建物が並び、小さな町のように見える。

 建物同士は密集しているわけでもなく、だが乱雑に建てられている風でもない。

 手前の方は民家っぽかったけれど、少し行くと大きな建物が何軒もあるな。

 比較的状態のいい建物には、入口にベッドの絵が描かれた看板があった。

 つまり宿屋だ。


「この辺りは石造りの建物が多く、比較的まだ使えそうだ。この島に住むかどうかはおいといて、まずはここを拠点にして考えよう」


 島に住民がいるのかどうか、探すにしてもただ闇雲に歩き回ったんじゃこっちの体力が持たない。

 まずは雨風をしのげて、安心して休める場所を確保しなきゃな。

 そういう意味でもこの宿屋はいいかもな。


 中に入ってすぐの所に受付らしきカウンターがある。カウンターの向こうには奥へと続く通路があって、居住空間になっていた。


「ベッドもある……が、足が腐ってるか」


 マットレスをぐいって手で押すと、バキっという音がしてベッドの足が折れてしまった。

 まぁマットレスだけでも使えるだろう。


 目印にと、家の戸に炭で印をつけてシアの所へ引き返す。

 歩きながら肉の香ばしい匂いが漂って来た。それだけで自然と涎が口の中に溜まる。


「寝泊まりできそうな家を見つけてきた。あとで海に戻って鎖や外套を持ってこよう」

「がうっ」


 振り向いたシアの口元は、大量の涎が滴っていた。






 宿で見つけたベッドのマットレスを外に運び出し、天日干しにして海岸へと向かった。

 小舟を持って移動するのは面倒だし、陸地で船なんて使えない。それ以外のものを持って廃墟の町へと戻る。

 それから急いで使えるモノを探した。


 ベッドがある。ならシーツもある。

 シーツは二階からもかき集めて、全部で六枚ほどある。


「箱のサイズ的に、一枚ずつなら入りそうだ」


 宿の裏手に井戸を見つけ汲み上げてみると、水は濁っていた。ずっと使われていなかったからだろうなぁ。

 ま、錬成すれば問題ない。

 近くにあった朽ちかけの桶を錬成して修理。

 それから水を箱に入れ錬成したら、その中にシーツを突っ込んだ。あとは洗濯機でグルグル回すのをイメージしてから錬成。それから遠心分離機ならぬ分解錬成で、シーツと水とに分けた。

 蓋の中には汚く濁った水の塊と、それからシーツが。


「洗剤でもあればいいんだがなぁ。探せば見つかるかもしれないが、どのくらい放置された物かもわからないし……」

「がうがうがうっ」

「もう一回洗おう」


 二度目の洗濯錬成でもまだ水は濁っていて、三度目でようやく濁りは無くなった。

 洗濯が終わったシーツを桶に入れ、全て終わったら宿へ。


 太陽が沈む前にマットレスを宿の中に運び入れ、シーツを二枚敷いて簡易ベッドの出来上がりだ。

 宿には当然食堂がある。

 たぶん島を離れるときに小物類はほとんど持ち出したんだろうな。それでも鉄のフライパンが一つ残っていたのは大助かりだ。

 これも錬成して錆を落とせばまた使える。


 海岸まで行って戻ってする間に、その辺の草を箱に入れて鑑定しまくった結果、いくつか食用になるものを見つけた。

 今夜はその草と猪肉、それを塩で味付けした炒め物だ。

 草=野菜だから、これは本当に嬉しい。


 宿でいろいろ探して見つけた蝋燭は、変色こそしていたものの火は点いた。

 陶器のお皿を見つけてそれに乗せ、いくつか用意して部屋を照らす。


「明日は町の中と周辺を見て回ろう。昔ここに人が住んでいたなら、畑とかが残っているかもしれない」

「うぐっ。んむぅ、あうがうぅ」

「野菜が見つかるといいなぁ」


 小さな蝋燭の明かりの中、少しだけ豪華になった食事を楽しんだ。

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