第4話

 十一の月──


「侯爵様。ご子息が授かった『ギフト』は……『付与』でございます」

「ふ、よ? 付与とはそなたら神に仕える物が使用する、神聖魔法にあるあの付与か?」

「……さぁ?」


 俺が触れる水晶玉には、こちらの世界の文字で『錬金BOX』と『付与』と浮かんでいる。

 まぁBOXだけ英語なんだけども。

 

「では魔術師の使う、付与エンチャントか?」

「それも分かりません。普通でしたら『付与の才』と出るはずなのです。ただ『付与』としか出ないなんて、前代未聞でして」


 特定の属性付与なら『〇属性付与の才』とか出るそうなんだ。


「付与魔法全般ということは?」

「それでしたら『付与の才』のことになりますから。それに万が一そうだったとして、ご子息の魔力は最底辺・・・ですぞ」


 成人の儀に同行した侯爵と義母、そしてエンディンの三人がむっとする。

 この三人の魔力は、俺と同じだからだ。

 というか、魔法の使えない人間の魔力ステータスはだいたい5だ。少なくても3。多くても7。

 そして魔法が使える者は30以上あって、その中間はない。


 ふぅっと息を吐いてステータスと念じる。

 視界に浮かぶ俺のステータスは、他人には見えない。これは他の誰でも同じだが、鑑定スキルを持つ者だけは違う。



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 ルークエイン・ローンバーグ

 人族  15歳  男


 筋力:25  肉体:40  敏捷:30

 器用:28  魔力:5


【才能】

 錬金BOX25


【祝福】


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 これじゃあ魔法は使えないよな。魔法が使えないのに付与関係の『ギフト』って。

 

 その後念のため、付与魔法の練習をその場でさせられたがマグレすらなく。


「そうか。やはりダメか」

「はい、ダメでございますな」


 ダメダメ言うなよ!

 ま、別にいいさ。

『ギフト』は一生に一つしか授からなくても、魔法やスキルは別枠だ。

 スキルなんかは努力することで習得できる物もあるだろう。


 ふふん。あとは屋敷に戻って、荷物を持ったら出ていってやるぜ!


 ただイラっとするのは、さっきから後ろでずっと笑っているオーク親子だ。

 笑うためだけに来ただろお前ら!


 そんな親子が教会を出るときに、恐ろしいことを口にした。


「ルークエイン。あーた、帰りぐらいは馬車に乗せてやるざます。感謝するざーますよっ」

「ふんっ。だけどなー、僕ちゃんたちとは一緒じゃないからなっ」


 頼まれても一緒の馬車になんか乗りたくないわ。キングサイズの馬車ですら、お前たち二人が乗ったら傾くからな。


「ルークエイン。急いで帰るためだ、さっさと乗りなさい」

「分かりました」


 無表情な侯爵。

 オーク親子がどうせ「お腹すいたざますっ」「お腹すいたじゃんっ」と、侯爵を脅していたんだろう。

 俺もさっさと戻って脱走の準備をしたい。


 乳母が大事に取っておいてくれた母の形見の品。ロクがくれた園芸道具。

 そしていつか屋敷を飛び出すときにはと、乳母とロクがこっそり溜めてくれたへそくり。

 これらはもうまとめてある。


 あとは屋敷の警備が手薄になる時間に、こっそり出ていくだけだ。

 

 大型馬車の後ろにあった、小型の馬車へと向かう。

 その扉を開くと、


 硬いもので頭を殴られ──た?


 ぐらりと視界が揺れる。


 意識が沈む中聞こえたのは、オーク親子の笑い声。


「ぶぉーっほっほっほ。無能者のお前に相応しい場所へ、送ってやるざます」

「ぶひぃーっひっひ。無能者は僕ちゃんには必要ないじゃん」


 くっそ……罠だった……の……。





 あれから何日経ったのか。

 意識を取り戻してもずっと馬車の中。しかも頭には袋を被せられているので、外の様子が見れなくて分からない。

 食事の時も口の辺りまで袋を捲るだけ。


 ローンバーグ家を出て行こうと思っていたのだから、どこかに放り出されるならそれでもいい。

 ただ母上の形見だけでも、持って出たかった。


 などと考えていると、馬車が止まった。

 どこか遠くで波の音が聞こえる。まさか海岸の方まで来たのか?


 ガチャリと馬車の扉が開いて、ふいに袋が取り除かれた。


「うっ……」


 眩しい──と言おうとして止めた。

 だって夜だったから、全然眩しくない。


「おい手を出せ」


 馬車の外に立っていたのは、オーク親子には劣るぽっちゃりな中年の髭男。

「は?」と聞き返す間もなく、男が俺の手をぐいっと引っ張ると。


 ガシャリ。


 音を立てて手枷が嵌められた。 


「げひゃひゃひゃっ。今日からお前は奴隷だ」


 放り出される方が何倍もマシという展開になっていた。


 

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