第14話 先輩のクリニック

「やあ、昨日ぶりだね。下野透君」


「……はあ」


 翌日。

 学校が終わり帰宅途中の道でオレは例の先輩、笠瀬冬乃と出会う。

 というよりも明らかに待ち伏せした雰囲気で電柱の柱から出てきた。


「昨日はすまなかったね。性急にし過ぎた。EDの問題はデリケートなんだから、もっと丁重に扱わないとな」


「そ、そうですね……」


「というわけで君、私の家に来ないか?」


「はい? なんでそうなるんです?」


 オレがそう問いかけると先輩は自信満々に胸を張って答える。


「それは私の家がEDのクリニックをしているからだ」


「……はい?」


 マジで? クリニック?

 ということは先輩の家は病院?

 驚くオレに先輩は構うことなくオレの手を取り歩き出す。


「まあ、とにかく私の家に案内しよう。安心したまえ、プロの手にかかれば君のEDも完全に治してみせよう」


「ちょちょちょ! ちょっと待ってよ! 冬乃先輩ー!!」


 叫ぶオレを無視して、先輩はそのままオレを自分の家まで案内するのだった。


◇  ◇  ◇


「ここが私の家、笠瀬クリニックだ」


「……マジで病院っすね」


 そこは清潔感が漂う白い建物に大きな看板が付いた個人経営のクリニックであった。

 大きさは通常の病院と比べればこじんまりとしたものだが、すぐ隣には駐車場もあり、自動ドアの向こう側には数人の診察予定の人がいるようでクリニックと呼ぶには十分な場所であった。

 そんなある種、唖然としているオレを先輩が引っ張り中へと入る。


「いらっしゃいませー……って、あれ? お嬢様じゃないですか」


「ああ、今帰った。母上はいるか?」


「はい。ただいま診察中ですが、そちらの方は?」


「ああ、こちらの彼は……」


 と、受付の人に言われ一瞬考え込んだ先輩は答える。


「私の学校の後輩で、ちょっと問題があって母上に相談したいんだ」


「そうなのですか……。分かりました。それでは後ほど麗美さんにお伝え致しますね」


「ああ、頼む」


 そう言ってオレと共に近くのソファに座る先輩。

 さすがにオレがEDだと安易に口にするべきではないと思ったのだろう。

 しかし、こんなところに連れてこられて正直オレは困っている。

 なぜなら、何度も言ったがオレは本当はEDではない。

 性欲もちゃんとある一般の男子高校生だ。

 そんなオレがこんなクリニックで診察なんて冗談じゃない。下手をしなくてもオレがEDじゃないとバレる。

 そうなれば当然先輩はオレに対して怒るだろうし、それが学校にバレて、夏美さんや秋葉さんの耳に入れば――


「あ、あの、先輩。やっぱオレ帰りますね」


「え? なぜだ? まだ来たばかりだろう」


「い、いや、だってこんなクリニックで診察なんて……そ、それにオレ金ないですし……」


「そのことなら大丈夫だ。私から母上に言っておく。それに診察というよりも相談みたいな感じだろうから、それならお金もそれほどかからないだろう」


「い、いや、そうじゃなくって……」


「お嬢様。麗美さんから通して良いとのことです」


「分かった。すぐそちらに行く。ほら、行くぞ、透君」


「え、いや、だから!?」


 抗議するオレを無視して冬乃さんはそのまま奥の扉を開ける。

 するとそこには目もくらむような美女が椅子に座っていた。


「冬乃。そちらの彼が私に診察して欲しいという後輩かね?」


「そうです、母上」


 冬乃先輩の母と呼ばれた人物は白い髪に透き通るような肌。

 白衣の上からでも分かる巨乳に、かなり丈の短いスカートを着て、足を組んでおり少しでも動けばスカートの中が見えてしまいそうなきわどい格好だ。

 なによりも幼児体型な冬乃先輩の母親とは思えないほどグラマーな体型であった。


「ふむ。で、具体的にどんな症状だ?」


「母上。彼はこの歳でEDを患っているのです」


「ぶーーーーーっ!!」


 冬乃先輩のぶっちゃけに思わず吹き出すオレ。

 だが、それに構うことなく彼女の母親はオレを興味深そうに覗く。


「ほお」


「というわけで母上に診察をお願いしたいのです。もしかしたら、それで彼のEDも治るかもしれませんので」


「ふむふむ、そうか。なるほどなぁ」


 と、なにやら意味深に頷くと彼女の母親――確か麗美さんだったか――はオレを一瞥すると冬乃先輩へ言いつける。


「分かった。それではこれから診察を開始するから、冬乃は出ていなさい。なにぶんデリケートな問題だ。いくら違う学級とはいえ、同じ学園の人物にこうした話は聞かれたくないだろう」


「む、確かにそうですね。分かりました。それでは、透君。しっかり診てもらうんだぞ」


 そう言って先輩はオレの肩に手を叩き、出て行く。

 残ったオレは仕方なく麗美さんの向かいの椅子に座り、診察を受けることに。


「それでいつからEDの自覚を?」


「は、はあ、いつからでしょうかね。ははは……」


 思わぬ事態になり、どうやってこの場を切り抜けようかと苦笑いを浮かべるオレであったが、そんなオレに対し麗美さんはとんでもない事実を告げる。


「では質問を変えよう。なぜEDの振りなんかをしているのかね?」


「…………はい?」


 思わず固まった。

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