第9話 不能のオレにギャルが迫ってきました
「ん?」
翌日、教室に入り、机を調べるとそこにはなにやら手紙が入っていた。
はて、なんだろうかこれは? と思いつつオレはその手紙を開く。
『透君へ。放課後、体育倉庫まで来てください』
なんだこれ?
思わず、そう呟きそうになったオレは慌てて周りを見る。
が、クラスの皆は特に変わった様子はなく、夏美さんもいつもどおり。
てっきり夏美さんがまたオレへの何かしらの性的アプローチをしようとしているのかと警戒したが、彼女なら手紙ではなくオレに直接メールを送ってくるはず。
ということは今回のこの手紙は夏美さんではない可能性が高い?
とはいえ、誰が何のためにこの手紙をオレの机に入れたのか現時点では分からないことが多すぎた。
オレは授業中、必死に心当たりを考えるも、結局それに思い当たることはなく放課後を迎えてしまうのだった。
◇ ◇ ◇
「うーむ、怪しいと思いつつも来てしまった。これが好奇心の成せるワザか……」
そう呟くオレの前には体育倉庫の扉があった。
念のため、周りに誰かいないか見渡したが特に誰かが隠れている気配はない。
となると、オレを呼び出した人物はやはりこの倉庫の中にいるのか。
果たして誰がなんのためにオレをこんな倉庫に呼び出したのか? 色々な疑問を浮かべつつも、とりあえずオレは扉を開けながら声をかける。
「失礼しますー。えっと、手紙にあった通り、倉庫に来た下野透ですけれど、誰かいます――むぐっ!?」
扉を開けてすぐ、そう声をかけると誰かが背後よりオレの体に抱きつくと、そのまま口元を押さえてその場に押し倒す。
だ、誰だ!?
慌ててなんとか体勢をひねると、そこには思いもよらぬ人物の顔があった。
「なっ!? あ、秋葉さん!?」
そこにいたのは先日、路地裏で見知らぬ男に襲われかけていた秋葉さんがいた。
ど、どういうことだ。彼女がオレをここに呼び出したのか?
けれど、どうして? しかも、こんな襲いかかるような真似を……?
ま、まさか!? 昨日、彼女がパパ活しているのをオレが見て、その口封じに!? やばいとオレが感じた瞬間、秋葉さんは蠱惑的な笑みを浮かべる。
「ふふっ、来てくれてありがとう。透君。っていうかマジで素直に来てくれるとは思わなかったよー」
そう言いながら秋葉さんはなぜか着ている制服のボタンを外し、その下にあるブラジャーをチラリと覗かせる。
「って、ちょ!? な、何やってるんですか!?」
慌てて叫ぶオレに対し、しかし秋葉さんは頬を真っ赤にしたまま、オレを見下すような笑みで告げる。
「えー、何って決まってるじゃんー。昨日のお礼」
「は?」
「昨日、うちを助けてくれたでしょう。だから、これはそのお・れ・い。不能で使い物にならないって噂のアンタの物、うちが治してあげるよ」
そう舌なめずりをしながら、上着を剥いでいく秋葉さん。
「って、ちょちょちょっ! やめてくださいよ! オレ、そんなつもりじゃないですからー!!」
「はあー? そんなつもりじゃないってなに言ってんのさー。大体、こういうのって男なら不能で嬉しいもんじゃないのー?」
いやまあ、それは否定できないかもしれませんが……じゃなくて!
「な、なんで急にこんなことするんですか! 秋葉さん!?」
彼女の行動の目的がよく分からず、そう叫ぶオレであったが、彼女はなぜか顔を俯いて答える。
「っていうかさー、男って皆そういうものでしょう」
「……は?」
一瞬そう呟いた秋葉さんの顔が曇ったのをオレは見逃さなかった。
だが、それを感じさせないように秋葉さんはオレを見下ろしたまま続ける。
「男なんて所詮、どんなに言い繕っても頭の中じゃエロい妄想ばっかり。実際、彼女作りたいとか言ってる連中もそのほとんどが単に体目当てなだけでしょう? 好きな女の子とか言うけど、ぶっちゃけただ単にその子とやりたいだけでしょう? アンタだって口では不能とか言ってても実際は頭の中じゃエロい妄想して、女を見下してるそんな周りの男と一緒なんでしょう!」
そう吐き捨てる秋葉さんであったが、その瞬間の彼女の表情に男性に対する蔑みと同時に悲痛な何かを感じ取った。
少なくともそう言いながらオレに迫っている彼女はどこか無理をしている。
そう思った瞬間、オレを押さえつけている秋葉さんの腕が細かく震えていることに気づき、その瞬間、オレの中にあった動揺と困惑は一気に冷めるのを感じていく。
「……秋葉さん。無理しなくてもいいですよ」
「は、はあ? 何言って――」
「本当はそうやって男を誘うの嫌いなんでしょう。むしろ、無理してビッチの振りをしている。多分だけど、これも今までの自分のイメージを保つためにあえてお礼と称してオレにこんなことしてるんじゃないの?」
「……ッ」
オレがそう問いかけた瞬間、秋葉さんが息を呑むのが分かった。
その隙を突くようにオレは上半身を起こし、そのまま立ち上がると、彼女が脱いだ上着をその肌にかける。
「なんで秋葉さんがそうやって無理してビッチの振りをしているのかは分からないけれど……そんなに簡単に自分の体をさらすべきじゃないよ。前にも言ったけれど、もっと自分の体を大事にするべきだよ」
「…………」
オレがそう呟くと秋葉さんは俯いたまま視線を逸らす。
気まずい雰囲気が流れどうするべきかとオレが悩んだその瞬間、
「……中学の時さ。サッカー部の先輩に告白したの」
「へ?」
突然、秋葉さんがそう呟き、オレは彼女の方を振り向く。
「そいつさ、結構かっこよくて女子の間じゃ人気だったの。だから、うちが告白しても無理だって思ってたんだ……。けど、その先輩、その場でチューしてくれたら付き合ってやるって言って……うち言うとおりにしたの……バカだよね、うち……」
見ると秋葉さんの肩が震えているのに気づいた。
それだけではなく、俯いた顔からは涙がこぼれているのが見えた。
「けど、そいつ彼女がいたんだよ……。なのに、キスどころかそれ以上も求めてきて……さすがにそれ以上は無理って拒否したの。だけど次の日、そいつうちの方からキスしてきたって言いふらして……その日からうちはビッチ呼ばわり……。だから男なんてそんなものだって見限るようにしたんだ……ビッチって思われるくらいならそう振舞ってやるって……」
そうか、だから秋葉さんはあんな言い方をしたのか。
確かに憧れの男子からそんな扱いを受ければ、男のことをそんな風に思うようになっても仕方がない。
彼女が高校でビッチのように振舞っているのもその反動からか。
オレは秋葉さんの内に秘められたトラウマに思わず同情する。
「……確かにそんなことがあれば男に対して不信感を抱くのは当然だよ。けど秋葉さん。それであなたが自分の体を大事にしない理由にはならない。むしろ、そんなやつのために自分を貶める必要なんかないよ。昨日のようにビッチの振りをするためにあんな男と会う必要なんかない。秋葉さんには秋葉さんに相応しい男性が必ずいるんだから」
それは同情などではなくオレが本心からそう思ったことであった。
だが、それを秋葉さんに告げると彼女の顔がみるみるうちに赤くなる。
「ば、バッカじゃないの。そんな本気になって……。つ、つーか、昨日のはつるんでいた友達から無理やり誘われただけでうちは最初からその気はなかったし……もう金輪際あんなことするつもりはないし……」
「だよね。オレもその方がいいと思う。それと余計なお節介かもしれないけれど、そういうのを誘う人達とはあまり一緒にいない方がいいよ。少なくとも秋葉さんはビッチなんかじゃない。さっきの話を聞く限りでも秋葉さんはとても純粋な人だと思うよ」
「なっ!? な、何言ってんだ! 不能の癖に! かっこいいこと言ってんじゃねーよ! ばーーーか!!」
そう言って秋葉さんは慌てた様子で体育倉庫の扉を開ける。
その去り際、昨日と同じようにオレの方をチラリと振り向く。
「……ありがとう、透っち」
そう言って昨日と同じ一言を残し秋葉さんは姿を消すのだった。
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