第8話 成り行きでギャルを助けました

「……はあ、マジで最近夏美さんのあの積極的な行動は何なんだろうか……。オレの不能を治すためとは言え、あれじゃあ身が持たないよ」


 ここ最近の夏美さんの過激なアピールにどう対処するべきかと頭を悩ませながら、日が暮れた住宅街を歩いている時であった。


「……ちょ、いい加減にしてよ……!」


「んだよ、少しくらいいいだろう……」


「ん?」


 何やら妙な声が聞こえた。

 気になって声のする方へ行くと、そこには路地裏で二人の男女が何やら言い争いをしていた。


「ちょっと、マジでいい加減にしてよ! うち、そういうつもりはないって言ってるでしょう!」


「あー、なに言ってんだよ。パパ活してる学生が今更、嫌がるなよ。ちょっと触らせてくれれば、もっと小遣いやるって言ってるだろう」


「っ! いい加減にしてよ! うち、触らせる気とかないし! それにアンタとはもうこれっきりだし!」


 見ると、そこにいたのは屋上でオレに絡んできたあの宮野(みやの)秋葉(あきは)さんだった。

 見ると四十代くらいのおっさんにからまれている様子だ。

 というか、今の会話を聞くと彼女、パパ活しているのか?

 あ、パパ活について知らない人に言っておくと、いわゆる年上の男性とデートなどしてお金を援助してもらうことらしい。オレも詳しくは知らないが。

 そうこうしているうちに男の方が無理やり秋葉さんの腕を掴む。


「そっちこと舐めたこと言ってるんじゃねえぞ! たかだかちょっと食事したくらいで金をもらおうなんて甘い考えなんだよ! どうせお前のようなビッチはオレの他にも色々とやりまくってんだろう! なら少しくらいいいだろう!」


「っ! ふっざけんな! 離せ! 離せー!」


 拒絶する秋葉さんに構わず、そのまま路地の奥へと連れて行こうとする男。

 それを見たオレは思わず、彼らの方に近づく。


「ちょっと何してるんですか」


「なっ!?」


「!? と、透君?」


 オレの顔を見ると男も秋葉さんも驚いたような顔をし、男はすぐさま何事もなかったかのように秋葉さんを掴んでいた手を離す。


「な、何って……別になんでもないよ。君には関係ないだろう。さっさとあっちに行きたまえ」


「いいんですか、そんなことを言って? 未成年者に暴力を振るうのは明らかな犯罪では?」


「なっ、あんなもの暴力には入らな――」


「そうでなくてもおじさんのやっていることって結構犯罪ギリギリじゃないんですか? なんだったら、今ここで警察でも呼んで事情聴取しましょうか?」


「なっ!?」


 スマホを片手に、それを見せびらかすオレに男の顔色が変わる。

 まあ、警察を呼ぶうんぬんはハッタリみたいなものなのだが、さすがにそれで男も慌てたようであり、そのままこの場から立ち去る。


「ふぅー、なんとかなったか。こういうのって慣れてないからなぁ……」


 そう呟き、オレは思わずその場で脱力する。

 そんなオレに先ほどまで男に絡まれていた秋葉がなにやら遠慮がちに話しかけてくる。


「そ、その……透君、助けてくれて、ありがとう……」


「ああ、いや、別にあれくらい。さすがに見逃せないっしょ」


 当然のことをした、とは言わないが、あのまま見て見ぬふりをして立ち去るよりも助けた方がオレの後味としても助かるのでそうしただけである。

 そんなオレの心中に気づいた様子はなく秋葉はなにやら顔を赤らめたまま呟く。


「……違うから」


「へ?」


 突然の彼女のセリフになんのことだろうかと思っていると、秋葉さんは突然早口で語り始める。


「べ、別にいつもこういうことしてるわけじゃないから! た、たまたま! 本当に今日たまたまあの男と会っただけだから! って言っても軽く食事しただけだから勘違いしないでしょね! うち、こういうこと本当にしたことないんだから! それに今日ので懲りたしもうする気もないから! うちをそういう安い女と一緒にしないでよね!」


「……ええと」


 そう矢継ぎ早に喋った秋葉さんを前にオレは思わず立ち尽くす。

 そんなオレを一瞥した後、秋葉さんを背を向ける。

 だが、歩き出す直前、


「……ありがとう」


 そう呟き、慌てて立ち去る秋葉さんの背中をオレは見つめることしか出来なかった。

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