第6話 本城夏美の場合
「どうすれば男子に反応してもらえるかな!?」
「へっ?」
突然、本城夏美がクラスの女子達にそう尋ねる。
尋ねられた女子達は驚きに目を見開き、ついで慌てたように夏美に問いかける。
「な、夏美ちゃん、いきなりどうしたの?」
「あ、いや、その……ち、ちょっと男子に反応してもらう方法を探していて……」
「えー、あの夏美が!? 一体どういうこと!?」
「それってもしかして彼氏ー!?」
「ち、ちが! そ、そういうのじゃないの!」
思わず大声をあげる女子の口を慌てて塞ぐ夏美。
なんとかその女子を落ち着かせると、改めて相談を開始する。
「けど反応って言っても具体的にどういう反応なの?」
「そ、それはその……興奮してもらうような……」
「え? それってどういうこと?」
「あ、えっと、つ、つまりその……エロいなーって感じてもらえるような反応……」
「ええー!? なにそれどういうことー!?」
「やっぱり夏美、彼氏できたのー!?」
「だ、だから違うんだって!!」
再び騒ぎ出す女子達をなんとか沈める夏美。
やがて、女子グループの一人がそれらしい意見を述べる。
「ようするに男子に興奮してもらう方法ってことでいいんだよね?」
「そ、そう!」
「んー、それならやっぱりエッチな格好とかで誘うとか?」
「あー、こうスカートをチラリと覗かせるとか」
「あ、それうちも分かるー! 男子って全部見せるよりも見えるか見えないかのチラリズムで萌えるとか言ってたよー」
思わぬトークで盛り上がる女子。
しかし、それを聞いた夏美は難しい表情で悩む。
「チラリズム……。でも、それももう使っちゃったし……」
「えっ?」
ボソリと夏美が呟いた一言に一斉に女子達が反応する。
当の夏美が「しまった」と思った時には既に遅し。
「ちょ、使ったってどういうこと!?」
「夏美、もしかしてパンチラを誰かに見せたの!?」
「嘘でしょ! あの奥手の夏美が!?」
「やっぱり彼氏!? ねえ、彼氏なの!?」
「ち、ちが、違うの! とにかく違うってばーーー!!」
再び興奮する女子達をなんとかなだめる夏美。
しかし、その後の意見交換もあまりこれと言ったアイディアは出なかった。
「あ、じゃあさ、その人にエッチな写メ送るとか」
「いっそ上を脱いじゃうとか!」
「は、ははは……」
すでにそれらを試したと口が裂けても言えない夏美。
仕方ないのでぼかしながら「相手はそういうのにはあまり興味がない」とだけ告げる。
「うーん、となるとその相手ってかなり難攻不落ね。表面的な誘いには興奮しないっていうか、乗ってこないんでしょう?」
「チラリズムもモロも通じないとなると……もう直接口説くのがいいんじゃない?」
「えっと、いやだから、そういうのじゃなくって……」
困った夏美がどうしたものかと思っていると、ふと一人の女子がある提案をする。
「視覚がダメなら別の感覚で責めるのはどう?」
「別の感覚?」
「そう、たとえば……匂い、とか」
「? 匂い?」
その女子の意見に夏美だけでなく周りの女子達も奇妙な顔を浮かべる。
「そのね、これはアタシの彼……じゃなかった。友達の彼氏の話なんだけど、運動の後に彼氏に会いに行ったら珍しく彼氏がグイグイ寄ってきたのよ。それでどうしたの? って聞いたら、お前の匂いに興奮したとか言ってきたわけ。いやー、でもさこっちは運動の後の汗まみれで嫌じゃん? 臭いと思われると思ってたのにその彼氏「その匂いが逆にいい。興奮する」って寄ってきたの」
最初は友達の彼氏と言っていたのに、途中から明らかに自分の体験を語っている少女のその意見に、しかし何人かの女子は心当たりがあるのか頷く。
「あー、それわかるかも。アタシの彼氏もたまにアタシの匂いを嗅いで興奮するとか言うのよ」
「あるある、それある! っていうかアタシ、むしろ彼氏の匂いに興奮することあるもん!」
「あ、それ超分かる! 私もさっきの美紀の話の逆バージョンだけど、運動後の彼氏の匂いとか実はすっごい好きで! たまに彼氏の匂いがついた服とか嗅いじゃったりするもん!」
「あー、すごく分かる! 確かにアタシも視覚よりも嗅覚の方が興奮することってあるかも!」
次々と周りの女子達がその意見に賛成し、頷き出す。
それを聞いていた夏美も興味深く、手元のスマホに書き込みしながらものすごい勢いで頷いている。
「な、なるほど……。匂いってそんなに興奮するのね……!」
「うん。夏美さんも彼氏が出来たんなら、その彼氏の匂いを嗅ぎたくなることってあるでしょう? 男子の方にもそういう感覚ってあるよ!」
「なっ! だ、だから私は彼氏とかそういうのじゃないんだってばー!!」
「またまたー」
顔を真っ赤に否定する夏美をからかう女子達。
しかし、彼女達との会話により、とある突破口を見つけた夏美は早速、透へとレインを送る。
その内容は『放課後、陸上部の部室の前に来てください』というものであった。
「……よしっ」
メッセージを送った後、夏美は大きく深呼吸をし、とある決意をするのだった。
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