第5話 不能の天敵はビッチギャルです

「やべえよ、夏美さん。本気っていうかあれもしかして天然入っているのかな……。授業中にあんなことしてくるなんて……」


 昼休み。

 オレは授業中の夏美さんの行動を思い出し、同じクラスには居られないと屋上にて弁当を食べていた。

 はあー、オレが画像では反応しないと言った矢先、シチュエーションがどうのう言って、それで起こした行動があれだからなー。

 このままだと夏美さん、もっとやばいことしかねないんじゃないのか……。

 そんな不安とちょっぴりのドキドキがオレを襲うが、その時、突然屋上の扉が開かれる。

 見るとそこにはいかにもギャルという感じの金髪に派手なネイル、スカートの丈が短い女子が数人現れた。


「でさー。そいつがマジやばくって、ヤリたいならもっと金出せみたいなー」


「うけるー! で、そのハゲオヤジどうなったのー?」


「もっちろん、搾り取るだけ搾り取ったよー。ってかさー、秋葉もやってみたら? マジで超ちょろいし、金も楽に稼げるよー」


「そ、そうだね……ま、まあ、気が向いたらー」


 誰だろうか、あの子達。

 かなり目立つ髪型や言動をしているが、中央にいる秋葉と呼ばれた子にはなんとなく見覚えがあるような気がする。


「……あれ、つーか誰かいるじゃん。誰あれ?」


「んー、なんかあいつ見覚えあるようなー」


「あー! アタシそいつ知ってる! 昨日、うちのクラスで不能って叫んでた奴だよ、秋葉っち! 名前確か下野透っていうの!」


「マジ!? うっわー! これが噂の不能君なんだー! へえー、ほぉー、ふぅん」


 そう言って秋葉と呼ばれた金髪ギャルはオレに近づくと、まじまじと見つめる。

 あ、思い出した。

 宮野秋葉。隣のクラスの女の子で、学内でも有名なビッチギャル。

 このビッチギャルというのは彼女の服装や、普段からのチャラそうな言動からついたあだ名であるが、噂では彼女は自分の体を使って街でいかがわしいことをしているとかなんとか……。

 あくまでも噂なのだが、そのため彼女のことはオレのクラスでも時折話題に上がっている。

 確かにビッチ……かどうかは分からないが、胸元を大胆に開けた服装に今にも見えそうなスカート。

 胸はもちろんだが、それ以上に太ももの肉付きがよく、夏美さんに負けず劣らずかなりエロい体をしている。

 って、そんなことを考えてどうする。

 オレは慌てて目の前の秋葉さんから視線を逸らす。が、当の秋葉さんはオレに興味津々の様子で顔を近づける。


「ねえねえ、君。不能って叫んでたらしいけれどさ、本当なのー?」


「……ほ、本当ですよ」


 嘘である。

 だが、オレはこの嘘を突き通さなければならない。

 オレがそう告げると秋葉さんはますます興味深そうにオレを見つめる。


「マジー!? すっごー! うち、不能って見るの初めてだわー! ねえねえ、不能ってなにしてもあそこが反応しないんでしょう? 男子でそんなことってありえるのー? つーか、今まで立ったこともないのー?」


 ギャルビッチのあだ名に相応しく、かなりズケズケと聞いてくる。

 というかそういうデリケートな部分というか、話題はできる限りしたくないんだが……。

 オレがそう困っていると、彼女はそれに気づかないまま、とんでもないセリフを吐く。


「つーかさー。君、マジで不能なのー?」


 ドキリ。

 思わず心臓の音が鳴る。


「な、なんでそんなこと聞くの?」


「えー、だってさー。男子って女子のことになればいっつもエロい妄想頭の中でしてるんでしょうー? 話してても目線は必ず胸の方に行ってるしさー。それ気づかないと思ってるのー?」


 うっ、やっぱりそうなのか。

 幸いと言うべきかオレは秋葉さんから顔を逸らしながら会話をしていたので胸を見ていたことは気づかれていない……と思いたい。


「透君もさー、本当は不能とか言いながら頭の中じゃエロいこと考えてるんでしょう。特にこの状況とか女子四人に囲まれてある意味ハーレムじゃん。本当はあそこも反応してるんでしょうー?」


 そう言って笑いながらオレの下の部分を見つめる秋葉さん。

 い、いかん。ここで反応しようものなら全てがご破産。だが、オレはその手には乗らない。


「……あいにくだけどマジで反応しないんだよ。特に君みたいに自分から誘ってくるような女子には」


 オレがそう告げると秋葉さんは少しカチンと来たのか眉をひそめる。

 だが、すぐに何かを思いついたように指先で自らの胸を触る。


「へえー、とかなんとか言ってー、本当は透君も興味津々なんじゃないのー? うちのか・ら・だ」


 そう告げるとなんとあろうことか秋葉さんは上着のボタンを脱ぎ始める。

 見るとそこには上着の下に隠れた胸の谷間があらわとなり、ブラジャーもわずかばかり見えていた。


「なっ! なにしてるんだよー!?」


「えー、あっついから脱いでるだけだよー。それって問題なのー?」


 そう笑いながらボタンを外し、谷間を寄せながらオレを挑発するポーズを取る秋葉さん。

 後ろの女子達もそんなオレ達を見ながらクスクスと笑っている。


「やっぱ透君も他の男子達と同じじゃんー。不能だなんだと言いながら、結局は頭の中で女子へのエロい妄想抱きながら、影でこっそりエロトークしてるんでしょう。たとえばうちの胸がどうとか、そっちのクラスの夏美さんがどうとか? んー、なんだったらうちの胸触ってみるー? 不能の透君になら特別触らせてあげてもいいよー。あ、もしかしたらそれで透君の不能も治っちゃかもねー」


 きゃはははと笑う秋葉さん達。

 だが、今の一言。オレは見過ごせなかった。


「いい加減にしろよ!!」


 思わず叫んだその一言に秋葉さん達は驚いた顔を向ける。


 それはそうだろう。

 オレ自身、こんなとっさな怒りをぶつけるとは思わなかった。


 秋葉さんが言った頭の中ではエロい妄想をしているという言葉は事実かもしれない。そうした妄想を全く抱かないと言えば嘘になる。

 では、図星を突かれて頭に来たのか?

 違う。

 ならば影でエロトークを楽しんでいると言われたから怒ったのか?

 オレのクラスにいる男子達。彼らと同じレベルだと言われ、夏美さんへの下ネタを楽しんでいるとバカにされたから頭に来たのか?

 違う。

 確かにそうした感情もある。

 だが、それ以上にオレが見過ごせないと感じたのは彼女の自分に対する軽視。

 その自覚のなさにカッとなってしまったからだ。


「秋葉さん。そんなに簡単に自分の体をさらすべきじゃないよ。確かに男子の多くは影でエロいこと考えたり、そういうトークをするかもしれない。けど、女子がそれに合わせる必要なんてない。もっと自分の体を大事にするべきだよ」


「…………」


 オレのセリフに目を丸くしたまま固まる秋葉さん。

 だが、それを聞いた後ろにいた女子達は一斉に吹き出す。


「は? なにこいつマジになってんの? 胸触らせるとか冗談に決まってんじゃん」


「ほんとキモイー。童貞ってこっちの言うことマジにするからマジでキモいわー」


「いや、こいつ童貞以前に不能だしー」


「確かにー、ならこっちの冗談も通じないよねー」


「…………」


 きゃはははとオレを指さしながら笑う女子達。

 だが、なぜか秋葉さんだけは笑わず顔を伏せたまま黙っていた。

 やはり余計なお節介を言ってしまったか……。

 下ネタもそうだが、こういう空気もオレは苦手だ。

 オレはそんな彼女達に耐えられず、弁当片手に屋上を後にするのだった。

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