第3話 レインからの画像は唐突にやってくる
「お兄ちゃんー。早くお風呂入ってよー、入らないならアタシ先に入るよー」
ドアの向こうから妹の声が聞こえる。
だが、オレはそれに反応することができずにいた。
あれからオレは気づくと自分の部屋にいた。
夕飯を摂ることなく、お風呂も入らずスマホの画面を開き、ある画像を見ていた。
それは学校を帰宅する際、夕暮れの教室にて夏美さんがオレに送ってくれた画像。
突然の行動にその時は声すら発せず、ただ事の成り行きを呆然と見ていた。
だが、今考えるとあれはとんでもない状況であった。
あの学年一と謳われ、クラスの男子達からもアイドル的存在と話題にされている本城夏美さんが自らのパンツを撮影し、オレに送ってくれた。
クラスの男子がその事を知れば、もう大変なことになるだろう。
というか、すでにオレの頭の中がいっぱいいっぱいであった。
「…………」
オレはスマホの画像をもう一度見る。
それは夕暮れの中、無造作にスカートの中にスマホを入れて撮った画像であり、そのため画質や画面写りも悪く、ぶっちゃけ中身はほとんど見れない。
かろうじて夏美さんの生足がブレた状態で写っており、その先の画像は真っ暗で何も見えない。
が、見えないことは肝心ではない。
これを夏美さんがオレのために撮って送ってくれた。
その事実だけでなんというかこう……もう無理。
そんなことを思いながら、オレはスマホを片手にベッドの上で固まる。
『不能』というのはオレの口から出た、でまかせだ。
しかし、夏美さんはそんなオレの不能を本当と信じて、それを治すべくこの画像を送ってくれた。
どうしよう。正直に話すべきか?
いや、今さらそんなことを言えるはずがない。
夏美さんはオレが不能だと信じて、この画像を送ってくれた。それが実はウソだったなんて言えば軽蔑される。
それだけではなく、クラス中からも「お前、不能じゃなかったのよ!」「くだらねえ嘘吐いて、夏美さんのスカートの中の画像を入手するとか最低だぜ!」と末代まで祟られる。
い、いかん、それだけは無理だ。
となるとオレが不能であるという嘘は卒業まで貫き通さなければならない。
では、この画像はどうするべきか?
普通に考えれば消去するべきなのだが……果たして、それでいいのか?
彼女はオレの不能を治すべくこの画像を撮った。
夕暮れの教室の中、羞恥の感情に耐えながらも唇を強く噛み締め、震える指でスマホを自らのスカートの中に入れ、シャッターを切った。
その彼女の必死な想いで撮ってくれたこの画像をそのまま消去していいのか?
い、いや! だめだ! だからといって、この画像を利用して、どうこうするのはもっといけないことだ!
それはあのクラスの男子達達がしていた下品な下ネタトークにも劣る行為!
オレはわずかな躊躇いを覚えつつも、もらった画像を消去しようとした瞬間、突然スマホの音が鳴り出す。
「うおっ!? びっくりした!」
慌ててみるとそれは夏美さんからのレインであった。
『こんばんわ。今日はいきなり色々とごめんなさい。画像の方、どうでしたか? 私、ああいうの初めてで全然うまく撮れなかったと思うけれど……透君の役に立てるならと思って……』
それは夏美さんからのメッセージであり、彼女が真剣にオレの症状を心配しており、その純粋な言葉にオレは逆に申し訳なくなってきた。
『こちらこそ色々とごめん、夏美さん。画像についてだけれど、とりあえずはありがとうって言っておくね。けれど、ごめん。オレ、マジで不能だから、あんなのじゃ反応しないんだ……。だから、夏美さんも、もう無理にあんなことしなくていいからね』
震える指先でオレはそうメッセージを打って送信する。
正直、申し訳ない心とあとはほんの少しの勿体無い精神が働いたが、ここで彼女の純粋さにつけこむのはそれこそゲスのやり口。
オレはそのようなことは決してしないと誓い、夏美さんからもらった例の画像を迷うことなく処分する。
そうだ、これでいい。これでいいんだ。
これで明日からオレと夏美さんは普通の友達、いやレイン友。
そうだ。学年一の美少女とレイン友になれただけでも十分じゃないか。
クラスの男子達が知れば、それこそ嫉妬に怒り狂うほどの褒美である。
自分の選択になんの迷いもないと晴れやかな心になったオレに再び夏美さんからのレインが入る。
『そうだよね、ありがとう。確かに透君の言うとおり、あれじゃあ中身も写ってなかったし、透君の不能が反応するはずはないよね。うん、分かったよ! 恥ずかしいけれど、私、これからはもっと全力で透君の不能を治すためにたくさんエッチなことをしていくからね!』
「…………」
えっと、たくさん……なに?
思考停止するオレの頭に再び夏美さんからのレインが入る。
しかも、今度のそれは画像であり、開いた先に写ったのは寝巻き姿の夏美さんが顔を真っ赤にして、胸元を人差し指で引っ張り、その中を必死に写そうとした画像であった。
「…………」
オレの思考は再び停止した。
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