第2話 なぜか学年一の美少女が迫ってきた
はあー、やっちまった。
あれから結局、放課後までクラスにいた全員がオレを腫れ物でも触るかのような扱いをし、それは学年中に広がっていた。
クラスメイトのほとんどが「お前、大変だったんだな……」「何か困ったことがあれば遠慮なく相談しろよ」「今度オレのお宝お前にあげるからさ、それで元気だせよって使えないんだったな……すまん」と同情からか高校に入ってクラスメイトにここまで優しくされたのは初めてだった。
それだけではなく隣のクラスや他学年の生徒まで「なあ、お前不能ってマジ?」と聞いてくるほど。
今更「嘘です」と言うわけにはいかず、オレはそのまま頷き、結果オレは学園で『不能』のレッテルを貼られ、気づくと皆から同情混じりの挨拶をされるようになった。
幸いというべきか、オレが不能と分かった瞬間、その後クラスの男子が下ネタトークにオレを巻き込むことはなかった。
それどころか不能のオレに遠慮したのか、男子達の下ネタトークが減った。
ははっ、不能という汚名を着てしまったが、これで下ネタトークに巻き込まれず平穏無事な学園生活を送れそうなのでよかったのかもしれない……。
そう思いながら夕暮れの教室から帰宅しようとした瞬間であった。
「あ、あの、ちょっといいかな。透君」
「ん?」
見ると、そこには夕日を背にオレに声をかける夏美さんの姿があった。
「夏美さん、まだ教室にいたの? っていうか部活は?」
「あ、その今日は休みで。そ、それよりもあなたに話したいことがあって……」
オレに話したいこと? 一体何だろうかと思っていると、
「そ、その……透君って本当に……その、ふ……不能、なの……?」
「へ?」
夏美さんのその一言にオレは固まる。
ま、まさか学年一の美少女に「不能なんですか?」と問われるとは思ってもみなかった。
だが、こうなった以上オレはこの嘘を最後まで貫き通すしかないと思い、そのまま頷く。
「あ、ああ、まあね……」
「そ、そうなんだ……その……やっぱり大変だったりするの? その、できないと……」
うっ、予想以上に思いっきり聞いてきて固まる。
「そ、そうだねー。た、ただー、オレの場合、不能だから、そういうのができないから、大変って感覚もよくわからないかなーって」
「そ、そうだよね……ご、ごめんね……」
嘘である。
こちらこそ、ごめんなさい。夏美さん。
そう心の中で謝っていると、どういうことか夏美さんは突然頭を下げてくる。
「昼間のあれ……透君が不能だって宣言……男子達の下ネタを止めるためだったんだよね?」
「え?」
夏美さんのその確認にドキリとする。
ま、まあ、その通りではあるので頷く。すると夏美さんは複雑そうな表情を浮かべ、両手で胸を握り締める。
「……自分の秘密……不能ってことを明かしてでも、私や女子達のために男子のトークを止めてくれたの本当に感謝してるの」
あ、ってことはやっぱり夏美さんもあの下ネタトークには嫌気がさしていたのか。
そりゃそうだよね。男子は褒めてるつもりで、あの女子はエロいとかそんなこと言ってる部分があるけれど、女子からすればそれはただの嫌がらせ。むしろ昼間の男子達のあの会話は立派なセクハラだ。状況が状況なら訴えられてもおかしくない。
そう思いながらも思春期の学生だからと当人達は笑ってごまかす。
オレがそう思っていると夏美さんは感謝したようにオレに笑顔を浮かべる。
「だから、ありがとう透君! 自分の秘密を明かしてまで私達を守ってくれて」
「い、いや! そんなことは……オレは別に……」
「ううん! あんな打ち明け、普通はできないよ! だから私、透君のために協力してあげたいの!」
協力? はて、どういうことだろうかと不思議に思ったオレに夏美さんはスマホを取り出す。
「その……レインの交換してもらえないかな?」
「へ?」
「あ、め、迷惑ならいいんだ……ご、ごめんね……」
そう言って顔を赤くして目を逸らす夏美さんにオレはすぐさまスマホを取り出し食いつく。
「ううん! 全然! 迷惑なんてそんなことはないよ! しよう! 交換!」
「! 本当、ありがとう!」
そうしてオレは学年一の美少女との予期せぬレイン交換に心の中で小躍りする。
そんなオレをよそに夏美さんはなぜだか顔を赤くしたまま、体をもじもじさせて告げる。
「その……私で透君の役に立てるかは分からないけれど……こ、これから頑張るから……」
「? はあ?」
頑張るってなんだ?
そうオレが思った瞬間、彼女は信じられない行動を取る。
なんといきなりスマホをスカートの中に入れるとそのまま『カシャリ』とスマホの音を鳴らす。
え、なに、今の?
混乱するオレをよそに先ほど夏美さんと交換したレインに何かの画像が送信される。
…………。
……はい?
思わず思考停止するオレに対し、夏美さんは夕日を背に夕暮れよりもなお真っ赤になった顔のまま告げる。
「そ、その! 助けてもらったお礼に、私が透君のイン……不能を、治してあげますっ!」
顔中を真っ赤にして告げる夏美さんを前にオレは完全に固まるのだった。
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